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☆*:.。. o番外編o .。.:*☆

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バーで軽く三次会を済ませた晴樹と貴志は酒盛りの場所を新居に移す。


途中、コンビニで買い込んだ酒やつまみをリビングのテーブルに広げると二人はソファに座らず、そのまま床敷きの絨毯に腰を据えた。

あぐらをかきながら貴志はリビングを眺めるとポツリと呟く。

「まさかお前がこんな早く結婚するなんてな…」


「……俺もビックリだわ」


晴樹の返した言葉に二人は目を合わせ同時に吹き出した。

さんざん笑って落ち着くと、晴樹は笑みを浮かべながら呟く。

「結婚したって実感はまだ湧かないけどな…」

「逃げられてちゃ湧かねーな……痛っ!…」


晴樹は笑う貴志に柿ピーを投げ付けた。

馬鹿な話しかしない二人もなんだかんだで付き合いは7年になる。

若気の至りで楽しいことも悪いことも沢山やってきた。

貴志はヤクザという職業がら隠し事はするが、嘘は一切言わない奴だ。

失礼極まりないが、付き合いと言うものはちゃんと心得ている。

「おれの方が絶対先に結婚すると思ったけどな…」

貴志は何気にぼやいた。




「お前の場合デキチャッタ婚だろ?」

「あー…あり得るな…」

そう応えながら貴志は遠い目をした。

酔いが回ってきたのかふふん、と意味なく笑う声が聞こえる。

「晴樹…」

「ん?」

「俺、ヤクザじゃん?」

「………」

「先を考えると結婚てどうかなー…って思えるんだよな…」

「………ヤクザも人の子だろ?普通でいいんじゃね?」

「んー……」

酔ってんのか?


唸りながら体が揺れる。
そんな貴志を晴樹は黙って眺めた。

「とにかくっ…」

貴志は項垂れた顔を急に上げると声を張り上げる。

「俺はお前の結婚式見て感動したわけだ…」

「………」

「お前…幸せそうだし……なんかいいなって…さ……思……」


「………貴志?」


威勢良く上げた顔が再び項垂れていくと力尽きたように静かになった貴志に晴樹は笑いが溢れる。

「ふ……寝るな途中で…」


晴樹はそう呟くと眠りに落ちた貴志を置いて風呂に入った。




苗の逃亡前に張られたお湯はバスタブの保温機能のお陰でまだ充分温かい。

満杯だった筈のお湯は、慌てて勇んだ晴樹のミスで湯栓が弛んでいたのか少しお湯が減っている。

ほろ酔いを醒まそうと、晴樹はシャワーを浴びてからお湯に浸かった。

「幸せそう……か」

貴志の言った言葉を呟いた。


羨ましく思ったんだろうか?

貴志の口からそんな言葉がでるなんて…


晴樹はそう思いながらお湯で顔を洗う。

時刻はあっという間に深夜の三時を回っていた。

風呂から出た晴樹は貴志を揺り起こした──

「おい、寝るならベット行けよ」


「んー…ふふ…抱いてくれ…」


「キモい奴だな…」


呼び掛けに意味もなく笑みを浮かべ、連れて行ってくれと言わんばかりに貴志の手が晴樹に絡み付いていた。




貴志の肩を担ぐと晴樹は自分の寝室に引きずりながら連れていった──


付き合いの長い大事な親友。


手が掛かるのはお互い様だな…


めんどくさいと思いながら、何となく晴樹も笑みが溢れる。


そして酔っ払いの貴志を担ぎ晴樹は寝室の明かりを付けた……


「──…っ」


え──マジっ!?…


ドサリとした音に加え、「グエッ!…」と蛙が潰れたような声がする。


室内を目にした瞬間、驚いた晴樹は大事な親友を廊下に転がして長い脚で踏みつけていた。



「──っ…貴志、お前帰れっ…」


「あ─…へへ…」


「帰れっ頼むから今すぐ帰れっ」



酔いつぶれた貴志の胸ぐらを掴むと晴樹はムキになって喚く。

そして携帯を手にした──

「タクシー大至急お願いします!」

迅速な行動が幸運を呼び寄せるのか?

マンションの下まで貴志を引きずり降ろすと三分も待たずに着いたタクシーに晴樹は酔っ払いを詰め込んだ。

晴樹は急いで家に戻り鍵を掛ける──


「………なえ…」

寝室のベットでグッスリと眠る苗に晴樹はくぎ付けだった。



何時からいたんだ!?…


スリッパで悟の所へ逃げ出した苗はそのまま晴樹に実家へ連れて行かれている。


よって──苗の靴は玄関に置いたままだ。


ほろ酔いの晴樹は玄関にちょこんと置かれたスリッパに気づくことが出来ずにいた。


戸惑いを見せながらも晴樹の頬が緩む──


自分の家だから帰ってきて当たり前。でも晴樹は実家に連れて行った筈の苗がこっそり戻ってきてくれていたことが何よりも嬉しかった…


晴樹はそっと布団を捲った──


ベットのスプリングがしなり晴樹の重みでゆっくりと沈んでいく。



「なえ…」


小さく呼び掛けると顔を覗き込むように近付いた晴樹の影が苗の上に落ちる。


ふんわりと鼻孔を擽るシャンプーの香り。


自分と同じ匂いが香るのは、苗がここでシャワーをした証拠でもある。


横を向いていた苗の髪を耳に掛けると露になった白い耳たぶに晴樹は唇を押し当てていた。

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