上 下
226 / 255
☆*:.。. o番外編o .。.:*☆

もっと手強い恋敵 (前編)

しおりを挟む



可愛い花嫁と素敵な花婿。


豪華な披露宴会場を二人はゆっくりと歩いていた…

周りからの冷やかしの声もなんだかこそばゆい。

晴樹は自分に寄り添い歩く苗を見つめて微笑んだ。

…苗…

これからがホントに二人の世界だ。

願いを叶え、苗との人生を思い描く。そんな晴樹の耳に激しく泣きわめく奴の声が聞こえて来ていた…


「苗ぇっ!!…」

ん!?…

新婦の友人席は相変わらず人目を牽いている。

「うぁあーっ…くっ…苗ぇ!! なんでそんなに可愛いんだよー…ひっぐ…ちきしょ」


…なんだ夏目か……



口を克也に塞がれながら号泣する夏目。晴樹は見ないようにとその場を少し足早に遠ざかった。


自分が米国に行っている間に何かがあってはまずい。

たとえ互いの気持ちを確認しあえたとしても晴樹はいつ夏目が苗に言い寄るかと気がきじゃなかった。


その為に忙しい最中、何度も日本に帰国して田中家に通い義理の親。満作に苗との結婚を認めて貰ったのだから…

とりあえずのお披露目。苗が二年に進級する前に結納と披露宴だけでもと両家が急ぎで準備を進めたお陰で春休みに何とか間に合った。


ちゃんと籍を入れるのは苗が卒業してから。そんな内容で晴樹は相談したが…


「なあに面倒くせーこといってんだっ…披露宴するなら結婚したも同じだ! 一緒に住みゃあいい!! くれてやった娘だ。テメエで何とかしてくれにゃあ困るぜ!! なあ!」

「えっ!?…でも、当分はまた俺、米国に行くし…苗一人を置いて行く訳には…」

「その辺は自分らで考えりゃいい!!」

「…っでも一人は可哀想っ…」


二人の事だ。責任持って自分達で決めろ!

満作はそう言って豪快に笑う。
結局、お爺が新婚祝いにと早々用意した新居。
田中家の隣に建てられた新築のマンションの最上階に晴樹は移り住むことになり、晴樹が渡米している間、苗は実家と新居を好きに行き来することに話しが決まった…


今まで上手くいかなかった苗との事が、なんだかトントン拍子に進んでいく…


夏目…

悪く思うなよ…

結局、俺と苗はこうなる運命だったんだ……


涙に暮れる夏目の前を通り過ぎながら沢山の招待客に祝福される中を、晴樹は苗と手を取り悠々と歩いて行く…

お色直しを繰り返し、可愛く着飾る苗とロウソクに火をともし、晴樹は苗との一大イベントを心から楽しんでいた。



向こうでの仕事が軌道に乗って帰ってきたら苗との新婚生活が始まる…


毎日が苗との幸せな時間…

そんな思いを胸に、終始笑顔の晴樹。

式も最後を迎え、会場の外で招待客を見送り挨拶をしながら握手を交わす、そんな晴樹の手を最後尾から歩いてきた少年がしっかりと握り返していた。

去年の夏に会った時よりも更に身長が伸びている…


「お、前…」

「お久しぶりです。結城さん…」

ガッシリと握った手に力を込める。ちょっと笑った表情が何だか気に入らない…

「苗も、おめでとう」

「ありがとう悟ちゃん!!」

悟は晴樹の手を握ったまま苗に笑い掛けた。

「結城さんも、おめでとうございます」

「あ、ああ…わざわざ遠い所から…」

「いえ、せっかくの祝い事だし。こっちで手続きとか色々あったんで…俺の父さんも来てるんですよ」


…手続き?


田中家の親類として招待された東郷家。悟の目配せした方をみると、晴樹の父。智晴と離れた場所で親しげに談笑している悟の父、一成の姿が目につく。

「結城さんもまたすぐ、向こうに戻るそうですね」
「ああ…」

何だよその笑い方は…


大人びた綺麗な敬語を使い、悟は意味深な笑みを浮かべる。



小さな頃から社交の場に慣らされていたせいか、この場で見る悟はとてもしっかりとした跡継ぎに見える。

学生服のブレザーを着てエンジ色のネクタイを締めた悟を見て、晴樹は視線を止めた。


あれ…このブレザー…ってうちのじゃ・・・


「結城さん。俺もようやくこっちにこれたし…向こうにいる間、苗のことは俺に任せてください」

結城の制服に気付いた晴樹を確認して言った後に悟の口端がゆっくりと上がる。

何かしらの思惑を含んだ笑み。


こっちにこれたって…

まさかっ…


“いずれ近いうちにそっちに行きますから”


田舎からの見送りにきた際に、駅で余裕の笑みを浮かべた悟から告げられた言葉…


短絡的でガキな夏目よりも遥かに悟はしたたかな策士だ…


「じゃあ向こうで呼んでるんで…苗もまた、後でな」

「うん。後でね!」


父親に呼ばれ、周りの大人に紹介されながら臆さずに堂々と挨拶している悟の後ろ姿を眺め、晴樹は嫌な予感にさいなまれていた…
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。 学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。 入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。 その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。 ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

私のことを追い出したいらしいので、お望み通り出て行って差し上げますわ

榎夜
恋愛
私の婚約も勉強も、常に邪魔をしてくるおバカさんたちにはもうウンザリですの! 私は私で好き勝手やらせてもらうので、そちらもどうぞ自滅してくださいませ。

処理中です...