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15章 苗の異変

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「あ、来た来た!

兄さんこっち!!」



明くる日のランチ時‥

秋桜を眺められる屋上のベストポジションを確保した苗がN舎を訪れた晴樹を手招きしている。

そして、丸いテーブルにつくと苗は弁当を広げ晴樹に手渡した。

「お、サンキュー」

嬉しそうに弁当を受け取る晴樹を夏目は恨めし気にジトッと睨む‥


‥苗の奴っ…なんで先輩も誘うんだよ!?



約束した筈の屋上ランチも苗は来ず、晴樹と二人、学食で過ごした。そしてやっと来てくれたと思ってみれば、今度は屋上に晴樹の登場‥


夏目にしてみれば面白くないことこの上ない‥

‥まぁ、
土曜日はデート出来たからよかったけどさ‥//


色々考える夏目の前で晴樹は苗にお粥の入っていたタッパーと海外からのお土産を渡した

「昨日はありがとな‥//
あとこれ。今、家に来てるお客が持ってきた土産‥」


「うわ、外国のお菓子じゃん!!」

何気に頬を染めながらタッパーを返す晴樹を眺め夏目は口を開いた‥

「‥昨日って?」

‥昨日何があったんだ💧?

「昨日、調子悪い“俺の為”に苗がわざわざ看病に来てくれたんだよ…な、苗!」

ボソッと口にした夏目に晴樹が答える



「看‥病!?」

‥看病って‥


密かにショックを受ける夏目を見て、晴樹はフフンと嫌味な笑みを浮かべていた‥


「‥‥っ」

‥こいつの余裕の態度が気に入らないんだよな!
まぁ、看病ならしょうがないけどさっ💧



そんなムシャクシャする夏目に苗は何気に語った

「でも、看病しよって思ったけど兄さん居なかったんだよね💧
もう、具合は全然いいの?」


「‥‥えっ
あ、ああ‥まだ少し‥💧」


焦って答える晴樹に夏目も嫌味で返す

「なんだ?看病され損なったんですか?でもよかったですねえ。看病される程、具合悪くなくてっ
USJも行けなくて休めたからちょうど良かったかも知れないですよ」

「‥……っ💧」

言った後にわざとらしい笑みを浮かべ喧嘩を売る夏目に晴樹もキレながら睨みを効かす


‥まあた、始まっただよ💧なんでこの二人は意味もないことでケンカするだかね?


火花を散らし合う二人を交互に見つめ苗は弁当を口に運んでいた‥


玉子焼きを捕り合ったり、海水浴上でムキになってビーチバレーをしたり‥

ことごとく小さな争いを繰り返す二人を苗は呆れながら見ている。

苗は自分が原因だなんてみじんにも思っていなかった‥



せっかくの秋桜も見ずに睨み合う二人‥

そして、夏目はついに切札を出す──


「苗!‥」


「ん?」


「俺、再来週の日曜、都大会あるから!!
応援来てくれるんだろ?」

「再来週?
うん。再来週だったらお母ちゃんも大丈夫だと思う!
お弁当はエビチリでいい?」

「エビチリ食べたいけど、お腹下すとまずいから刺激物はなるべく‥💧

“俺の為に”なんか他にスタミナつくやつ苗が考えてよ!!」


「スタミナ?わかった!!」

あからさまに当て付けて言う夏目の言葉を晴樹は鼻で笑いながら弁当を口に運ぶ。

「約束だぞ!!俺、頑張って優勝するから!
絶対、優勝して苗ともう一回やり直すんだから!!

苗の為に頑張るんだからな!!」


そんな夏目の言葉を耳にして弁当を食べる晴樹の手が止まった。

──‥!

‥なに?‥


「わかっただょ💧‥//

わかったから何もここで言わなくても‥//」


晴樹は目を見開き二人を見つめる‥


‥やり直すってどういうことだよ!?



晴樹の手前、夏目は“国体”で優勝したら、もう一度やり直すということをわざと隠し宣言していた💧




‥優勝したら苗とやり直す?

「───…っ」


ランチを済ませ、教室に戻った晴樹は静かに自分の席についた。


「晴樹さん?

どーしたんですか?」


明るい表情でランチに向かった晴樹を見送った筈の直哉だったが‥
行った時とは、がらりと雰囲気を変えて帰ってきた晴樹に、直哉は驚きながら声をかけていた。


「何でもない…」

そんな言葉を直哉に返し晴樹は考え込む‥


‥やり直しって‥

今度の都大会優勝したら寄り戻すってことかよっ‥

再来週‥‥って


早すぎるっ──!

まだ、気持ちの整理も出来ていない‥

兄さんのままの立場でいいなんて思っても、‥っ


まだ気持ちがっ‥

まだ、そんな状況を受け入れられるほど気持ちの整理がっ‥

出来てないってのに‥ッ



学園のことに携わっている晴樹は知っていた…

今度の水泳部の一年、夏目はかなり期待されたスイマーだということを。


優勝は確実‥


情報は耳にしっかりと入っている。ここ何ヶ月かで恐ろしい程縮まっている夏目のタイム‥去年の優勝校の奴の記録を余裕で上回っていた



‥まさか苗とそんな約束してたなんて‥!

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