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13章 海外からの来訪者

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昼休み‥
廊下を歩く晴樹の手から
ポチポチと音がする‥


晴樹がメールを作成する音だ。


‥よし、送信っ‥と。












♪~

「ん?」

‥あ、兄さんからだ‥


弁当を持って由美と二人で屋上へ向かう途中に苗の携帯に晴樹からのメールが届く。


〔ランチご馳走するからおいで〕


「‥‥💧」


そう一言だけ書かれている。


‥携帯かければいいのに💧

苗はそう思いながら晴樹に電話をかけた‥


「あ、もすもす。
兄さん?苗、弁当があるだよ‥」

「―――‥
苗の弁当は俺が食うから‥」


電話に出た晴樹は一瞬の沈黙の後にそう口を開く。

「待ってるからおいで。」

―プツ‥

晴樹はそう続けて一方的に電話を切った‥

「‥‥💧」


苗は切れた携帯と弁当を交互に見つめる。

‥んーま、いっか!お弁当は無駄にならないし、久しぶりにあの学食も食べたいし!

「なえちん、どうしたの?」

そして、立ち止まる自分を振り返る由美に苗は言った

「兄さんがランチご馳走するって!
由美も行く?」




「――‥あたしは克也クンが待ってるから‥//」


「ぁ、それもそだね💧

じゃあ、あたしだけ行くよ!!んじゃ大ちゃんにもよろしく言ってね」

「あ、なえちん!
お弁当っ‥が💧‥」


背を向ける苗に声をかけたが時すでに遅し‥苗は鼻歌を奏で、弁当を持つ手を豪快に振り回しながら去って行った。







「あれ?苗は!?」


屋上に一人で現れた由美に夏目は尋ねた。

日曜日の学園祭も無事に終え、やっと一息つけるようになった夏目と克也はN校舎の屋上で毎日ランチをする約束をしていたのだ。

それなのに―――


‥くそっ!
また、邪魔されたっ


夏目は由美の説明を聞いて素直に腹を立てていた。


水泳の都大会が近いため、学園祭が終わってからはみっちりと練習のプログラムが組まれている。
従って、苗に会えるのはこのランチの時しか時間がとれない。

スポーツ大会の時以来、久しぶりに苗と屋上ランチタイムを昨日過ごしたばかりだったのに…

実は、昨日‥今日と同じように晴樹から苗にランチの誘いが来ていたのだ。



その時はすでに弁当に手を付けていた為に、苗は晴樹の誘いを断らざるをえなかった。

そして、晴樹からの電話に受け答えする苗の横で、夏目はしきりに自分が側にいることをアピールするように、電話口の晴樹に聞こえるよう大声で喋っていた。


『まて、苗!
誰と弁当食ってんだ!?』

『ん?えとね、由美と克やんと大ちゃんとだよ!💨』

――‥!

‥また、夏目とランチかよ!


『…っ……わかった。
もう食べてるならいいよ‥また誘うから…』

少し重たい口調でそう返すと晴樹は電話を切った。

夏目の楽しそうな声が異常に耳に障る‥

今日、電話ではなくメールをしたのはそのせいもあったのだ。



…苗……



夏目は苗のいない椅子を見つめ、制服のポケットに入れたままのUSJのチケットをくしゃっと握り、唇を噛み締める‥


克也達とダブルデートをするつもりで頼んだチケット‥

夏目は昨日のランチ時に一緒に行こうと、苗を誘ったのだが‥

『今度、兄さんと行くだよ。その後は赤ちゃん生まれそうだから家になるべくいなきゃだし。当分暇がナッシングだよ💧』


あっさりとそう断られていた‥




「期限内だったら使えるからそんな慌てなくてもいいじゃん」

ポケットを探りながら落ち込む夏目に気づき、克也はそう言って声を掛ける。
夏目は克也に慰められ肩を叩かれながら弁当を食べ始めていた。


だが、そんな夏目に幸運の女神が微笑みかける‥

‥かも、しれない出来事が―――――
















「あ、兄さん!!✨

ごみん!待った?
ちょっとは走ったんだけど💦💨」


上品な雰囲気の学食にバタバタとせわしなく現れた苗を見て晴樹は何故かホッとしていた‥

「別に走る必要はないだろ?‥//」


呆れた口調でそういいながらも嬉しさを隠すことはできなかった。

何故なら、一方的に誘って切った携帯を見つめながら「行くよ」そう返事を返さなかった苗に、晴樹は

“来ないかもしれない”

そんな不安を抱えていたのだ。


常に自分は待つ身の立場‥

そう思いながら待っていた男からすれば、好きな娘が急いで来てくれたことを嬉しいと思わない筈がない。

例えそれが、自分に逢いにではなく美味しいランチのためであったとしても‥💧


晴樹はとりあえず、苗がこの場に来てくれたことが嬉しかったのだ。

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