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19章 大切なひと(後編)

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‥生きてる






晴樹は車の窓に寄りかかり貴志の言葉を頭で繰り返す‥








‥生きてる











じゃあ‥



あの血の跡は?








───っ!

ああ‥そうか‥‥‥




苗は女だから‥




片付ける前にいくらでも‥










──じゃあ‥




苗はボロボロだ‥‥







めちゃくちゃにされた‥













──っ‥苗!!





俺はもうッお前の顔が見れないかもしれないッ








晴樹の脳裏には押し倒され泣きじゃくる大切な人の顔が浮かぶ







苗の泣き顔は大好きだけど‥













そんなことで泣き叫ぶ苗の顔はッ







──俺は見れないっ!!








──ッ…苗っ







お前から笑顔が消えたら俺はどうすればいいッ──?




激しく乱暴され放心状態の苗の姿が嫌でも頭に浮かぶ





晴樹は顔を歪めきつく目を閉じた──









その頃‥




龍極会系の本部では組員達がせわしなく動き回っていた──










♪チャッチャチャ~ララァ~♪

「♪はぁ~色恋いさかい
人情劇いぃ~
あたぁぃ~おぉんなぁ♪こぉ~い‥



…て、もぉ〰っ!手拍子たりないょぉ!?」













賑やかな本部の集会部屋で苗は‥





歌って踊れるシンガーダンサーになっていた……








「おらッお前ぇらっ!
お嬢が手拍子足りねぇつってんだろぅがぁ〰っ」


―ドカッ

げふっ

「‥ッすいやせんっ」



南波の帝王のような威喝い面持ちの男は血だらけの男達を並べ遠慮なく蹴りを入れて回っている。



「しかし、お前、若ぇのに古ぃ歌知ってんなぁっ?

よし、んじゃぁ次は俺と
デュエットだっ」


「いいょ!

なにいく!??」



「よしゃっ!

《ここは二丁目歌舞伎町》
いってみるかぁ!」


「イイねっ
苗、その歌大好きだょ 」


新品のカラオケ機器から軽快なリズムが響き渡る‥


昼は背広にネクタイでぇ~

夜はネオンの蝶になるぅ

1日二回のヒゲ剃りでぇ~

カミソリ負けはっ辛いぃのぉよぉ~♪













オカマの苦悩を歌った詩だった……。




「イイねっ!ジョージ♪

あてら、ちょ〰コラボッってるょ!」




いかにもその筋の者‥



年のころは70前後‥




白髪の髪をオールバックにし、長めの後ろ髪を一つに結んだかっぷくのいい御老体‥





―龍極会系 藤代組―

御大の藤代 善慈(ゼンジ)





苗は彼をジョージと呼んでいた──





ジョージとは‥

彼がまだ、若かりしころ、新宿二丁目で流しの歌人をしてた時の、芸名だったのだ‥


路上生活の日々を繰り返し一番苦しい時を支えてくれたのは、新宿二丁目のお姉まんs'達だった‥













「ねぇジョージ!

やっぱ日本の歌は心(ハーツ) で歌うように出来てるんだね!」


「当たりめぇよぉ!!

心(ハーツ)で歌わずしてどこで歌うっつーんだ!?」



ジョージは当然のように語り始めていた‥

















―ブオン──


「晴樹‥

着いたぜ‥?

…って、なんだその手は?」


声をかけた貴志に晴樹は手を差し出していた‥



「奇襲だろ‥‥


銃をくれよ…」





「‥‥──っ


…奇襲じゃねえよっ


相手サンも、俺らが来るのを待ってくれてる…


詳しくは後で話すから‥」



「───」


貴志の言葉を晴樹は無表情で受け止める‥
そして、促されるまま本部宅に向かった──














「親父!
鬼頭の跡目がお見えになりやした──!」


「ん?

なんだもう着いたのか?…

せっかく、今から盛り上がるとこだったのに‥
せっかちな血筋は死んだオヤッさんとそっくりだな?

まぁ、いい‥お前ぇら準備は整ってるんだろぅな!

客人に失礼があっちゃなんねぇからなっ

しっかり頼んだぜ‥


じゃあ、お苗!

迎えが来たみてぇだから別の部屋に移動するぞ」


「別の部屋?


ぅん、わかったょ‥」













貴志達の到着の知らせを聞いて本部のお給仕兼、厨房賄い担当の文司(ブンジ)こと、黒龍の文さんは急な宴の催しで必死に厨房を切り盛りしていた‥


元、板場の板さんをえて、根っからの荒い気性のおかげで、この世界に足をつけたが‥やっぱり料理を創ることは辞められなかったらしい‥

汗だくになりながら料理創りに専念していると白いTシャツがビッタリ背中に張り付き浮き出す彫り物は‥


もちろん、黒龍の昇り絵だった──!




元、料理人の本能がそうさせるのか‥

お持て成し用の豪勢な料理は彩りよく、脇には青紅葉を飾るなどして粋な心使いが成されていた──






「どうも、
この度はわざわざご足労頂き恐縮致します!!」



血だらけの組員を蹴り倒していた恐モテ顔の男が深々と頭を下げて貴志達を出迎えた。



「あぁ‥武サン。

なんか予定が狂ったみたいで…もう一度、叔父貴とも話合いの場を儲けてもらえる?」


「はぃ、もちろんです」


貴志が話かけていると、組員が会釈をして、コソッと武に何かを伝え去っていく‥



「では、支度が整いましたんで部屋にご案内を‥」



案内されるまま部屋までの廊下を歩いていると、奥の間に続く渡り廊下には組の若い衆がズラリと肩を並べ挨拶を返していた。


貴志達はその中を進み、晴樹も後に続く──



晴樹はガタイのいい武の後ろ姿をずっと見つめていた…

貴志と武の意味深なやりとりよりも晴樹が一番気になったのは、武の一張羅に付着していた血痕…

晴樹は血痕に対して過剰に反応してしまう



どうしても不安が拭えない‥
晴樹の表情はずっと感情を押し殺したままの状態だった。


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