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第四章 伝説編

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もう…無理か…

ここまできたら…

もう、無理だよな……



「そうだな…皆居るからな…」


「…!?」

ボソッと呟くとルイスは自分の手を握るアルの手を、両方の大きな手で包み込み捕えていた。

そして顔を上げ、アルを見つめる―――

切なく揺れる眼差し。


そんな真剣な瞳が瞬時にして崩れさった。


「…とか言いつつ濡れ濡れだなここは?」

「…!!」

アルの身体がピクリとする。
その様子にクスっと笑うとルイスはアルの手の平に指を這わした。


「こ、これはっ…」


アルは指摘されたことに、真っ赤になりながら、ルイスから手を引き戻そうと抵抗する。


心を見すかされた気がしてアルはすごく恥ずかしかった。


ルイスをからかいつつも、自分の方が怯えているのは確かで、それを証拠にアルの手の平は汗でじっとりと湿っていたのだから…

「ちょっと…は、放してっ…」


「…なんで?

先に握ってきたのはアルの方だろ?」


ニヤリッと返し、ヌルヌルと滑るアルの手の中で、ルイスはいやらしい動きを繰り返す。

長い中指を巧みに操りながら今度はルイスがアルの顔を覗き込んでいた。




もうっやだ!

なんでこの人は毎回こんなことでからかってくるんだろっ…


指先から送られる刺激にゾクリと肌が反応を返す。

むず痒い痺れを感じながらアルはルイスから目を反らした。


密かに感じていることを知られたくなかったからだ。そんなアルの顔をルイスはしつこい程に眺め、細やかな愛撫を繰り返す。


「もうっ!!  お願いだからやめてっ!…」


「あ? 何だって?」


アルの必死のお願いも、ルイスは聞こえない振りでことごとくかわしていた。


やだーっ…
もうっ誰か助けて!!


無言で回りに助けを求めど、隊員達は草刈りに一生懸命だ。


魅惑的な瞳で見つめられ、汗ばむ手を握られているだけでも恥ずかしいのに、ルイスはお構いなしに指先全体を使い、アルの華奢な手を絡めとる。


「綺麗な手だな…アル」

「…!」

微かに涙の滲んだアルの手を解放するとルイスは急に優しい笑みを浮かべた。

囁く声が甘すぎる。
姫に語り掛ける時と変わらぬ音色。
ルイスは放したアルの細い手先を再び摘むと口元に引き寄せていた。

視線を落とし、桜貝のような爪に唇をつけてアルに微笑む。


「アル…守るのは俺の役目だ…


でも、さっきの言葉は有り難く承けとっておく」




意地悪をして困らせたものの、アルの想いは素直に嬉しかった。

ルイスの笑みにはそんな感情が溢れている。

青灰色の瞳を細め、見つめるルイスにアルは思わず胸を高鳴らせた。


隊、長…さんてば…っ


…普段見せないから…

そんな顔されたらっ…

ちょっとっ…

やだ、なんか変あたし!?




頬が一気に熱くなる。アルは突然、立ち上がり直立不動で声を張り上げた。

「あっ…の…

ま、まだ草刈りかかりそうだねっ!
あたし、エバのとこ行って来るから!!…」


「…ああ、そうだな」

棒読みのセリフにルイスは苦笑いを浮かべる。


「終わったら呼びに行かせるからそれまでゆっくりしておけ…」

そう返したルイスにアルは手を振るとそそくさとその場から立ち去った。

ルイスは小さくなっていくアルの姿を見送り小さなため息を漏らす…

そして眉根を寄せた途端に手で顔を覆った。

大きな息を吐き、上を見上げる。強い息苦しさにルイスは自分の胸を叩いた…

さっきからつっかえていたものが、中々とれない。

出来ることなら身を引きたかった…

今のうちなら引き返せると思ってたのにっ…



とんだ誤算が胸を貫く…


『あたしが守ってあげる…』



…アルっ…



アルの言葉が胸に響いた瞬間に、ルイスはアルのことが愛しく想えた。


胸の奥に真っ直ぐ染み込む優しい声に、バリケードなんて間に合わない。

意地悪して誤魔化しても、握った手の柔らかさは確実にアルを立派な女の子だと認めてしまったし、姫だとかどうだとかの拘りはもう、遠の昔になくなっていた…



ルイスはもう十分に、アルという少女に惹かれていたのだから…




切ないため息が強く結んだルイスの口から何度も漏れる…



これからどうすればいい?


ロイドも大事な真友だ。


アイツから奪ってまで俺はアルをどうにかしたいのか?…


まだ、その答えは出すことができない…



ただ、アルを想って疼く胸の痛みは本物で…


愛しいと言葉にしたい感情がルイスの瞳を熱く濡らす。


今までに感じたことのない想いがルイスの中でとめどなく溢れ始めていた…

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