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第二章 闘技会編
7話 生き残り合戦!~初陣~
しおりを挟む「よしっ!始まったぞ!あいつ‥いい顔してやがる!!」
「あぁ、負けるなんて微塵も思ってねぇ顔だありゃ!」
ルイスの言葉にザドルが付け足した
「アルは森の主って呼ばれてた、でっけぇ熊を一発で倒した事あるんだぞっ!すげーでかいヤツを!!」
ティムは自慢げに話した
「へぇ~‥こんくらいのか?」
ロイドは両手で熊の大きさを表現する
「ちがうっ!こ~~んくらいでかいんだ」
「‥こ~~んくらいか?」
「違う違うっこ~~~んくらいだっ!!」
「‥?」
伸びを加えて両手を広げる。
だが、ティムがどんなに必死で表現しても子供の体格では限界があったようだ。
「う~ん……そうだ!ザドルのおじちゃんの2倍以上の熊だ!!」
「…っ…そんなでかい熊いんのか!?」
やっと伝わったらしい‥
「毛皮も取ってあるぞ!後で見せてあげる。頭は村に置いたままだけどな!!」
自信満々に語るティムを見てロイド達は目を合わせた。
ワァァァァ―――!!
話しをしていると突如歓声が沸き起こり会場の方に目を奪われる。
・
見るとアルの対戦相手の男が鎖の先に繋いだ鉄の塊をブンブンと振り回し、それを華麗にかわすアルがいた。
「小柄なだけあってやっぱ身軽だな」
ルイスが感心するとティムが説明した。
「アルは体術が出来るんだ。オレらの村では小さい時からオン‥ぃでっ!?」
饒舌に語り出したティムの足をユリアが思いっきりつねっていた。
「ティムッ!アルがオンナの子なのは秘密なのよっ
気をつけてっ」
「ごめん‥」
こそこそと話をする二人にルイスが聞き返す
「小さい時から武術を習うのか?」
「うんっ…そ、そうなんだ!」
「確かに身のこなしにキレがあるが‥避けてるだけじゃ終わらないぞ?」
ロイドの指摘に皆も困惑している。たしかにアルは試合開始から攻撃する様子がみられなかった。
‥さっきの試合でザドルは斧の刃を使って攻撃をしなかった‥
『命の尊さを知っている…』
あのレオだって……
アレンも言ってたな‥
強いからこそ傷付けない闘い方ができる…
じゃあ、あたしは…?
ただ攻撃から逃げてるだけじゃ試合は終わらない──
アルは相手を見据え剣を構えた。
・
「グヘヘッ~やっとやる気になったか~ちょこまかと逃げやがって!」
相手はザドル程の体格で、ずんぐりとした体付きをしている。
普通にしていても息が上がるらしくゼエゼエと荒い呼吸で脂汗をかいている。
男は巨体を揺らし再び鎖を振り回し始めた!
先端についている鉄の塊の重力で遠心力が増し、さっきよりも回転の速度が速まっている!
… これにあたったらあの世行き決定だな……
でも‥
まだ逃げるわけにはいかない!!
アルは鉄塊の動きに目を凝らす。
「グヘェ~なんだもう逃げねぇのか?
それとも恐さで足すくんじまったかぁ~?なら、そろそろ終わらしてやるっっ!!」
男は鉄塊をアル目掛け投げ付けた!!
「…っ…あいつなんで逃げないっ!?」
ルイス達は絶叫し子供達は硬く目を閉じる!
“キャーーーー!!”
数秒後。その場に似合わない歓声が響き渡る──
闘技会初出場にして最年少のアルは物珍しいせいか、観客の視線を一身に集めていた・・・
そんなアルのコートの両隣に居る選手の体には、半分の大きさになった鉄塊がめり込んでいる!!
・
「な、に!?‥‥アルの奴、何した?あいつ居合斬りでもしたか?」
「いや……剣を真っ直ぐ構えたままだった。まるでプリンでも切るみてぇに鉄塊を斬りやがった。恐ろしく切れ味のいい剣持ってやがる」
ロイドの驚きに共感するようにザドルも言う
「あぁ‥ 試合前に控室で錆びてるから研いでやるっつったけど研がなくて正解だ。あの状態であれだけの切れ味なら、研いだら殺人剣になっちまう‥
たしかに普通の剣と違うな」
ルイスはアルが剣を差し出すことを頑なに拒んだことを思い出した。
「あの剣は村の守護神として奉ってあった宝剣だよ
長の遺言なんだ…。
『宝剣が必ずや守り導いてくれるだろう…』
って言ってたよ‥
村の皆も言ってた。
アルは“選ばれし者”なんだって──あの宝剣はアルにしか使えない…。
だから、お兄ちゃんがあの剣を研ぐ事は出来ないよ」
ティムの言葉に皆が振り返る
「へぇ‥守護神ねぇ、
でも研ぐぐらいはできるだろ?」
子供達は皆して首を横に振った。
・
「剣が主(あるじ)を選ぶんだ‥
手に持つ事もできないよ」
「へぇ‥そぅ…」
ルイスは生返事で返している。ティムの言葉をイマイチ信じていないらしい‥
その話を、あいまいにしたまま再び試合に目をやった
「おめぇ何しやがった!?
そんな錆び付いた剣で鉄塊を斬るなんざ普通じゃねぇ!
どんな隠し技持ってやがるっ!?」
男は怯えていた―――
それもそのはず、アルの顔目掛けて投げ付けた鉄塊は一瞬アルの顔を視界から隠したかに見えたが、瞬間に真っ二つに別れ両隣のコートに飛んで行ったのだ。
そしてアルはただ剣を構えていただけなのも男はしっかりと見届けている。
だからこそ、男は怯えた──
剣を振り回したわけでも何か技を使ったわけでもないのは百も承知・・・
鉄塊が小さなかわいい顔にぶつかってぺしゃげ、脳みそも眼球もくちゃくちゃに飛び出し、変わり果てたアルの顔を想像しながらニタニタと笑みを浮かべしっかりと見ていたのだ・・・
だが真っ二つに分かれた鉄塊から覗いた顔は──
手前に剣を真っ直ぐ構え片手で柄を軽く握り、もう片方の手を剣の刃の背に添え余裕の表情で微笑する。
綺麗なアルの顔だった…
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