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第五章 冒険編

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半ば憎しみが沸く。

そして墓地に着いたルイス達は目の前の光景に息を飲み立ちすくんだ。

墓地の至るところから燻ったような煙りが立ち上る。
だが、あれだけの炎を燃やしながらも焼け焦げた様子すら見当たらない。


「どういうことだ!?」

呟いたルイスをよそに、ロイドが叫んだ。

「アルの墓標がっ…」

声につられ、ルイスとレオは駆け寄った。

粉々に砕けた墓石。そしてたった今、掘り起こされたように土が盛り上がっている。雷の仕業なのか、それとも人の手によってのものなのか…

「なぜ、こんな──」

「くそっ退きやがれっ!」

戸惑いながら呟いたルイスを突き飛ばすとレオは唸るように雄叫びを上げた。

二本の宝剣を素早く抜き去りレオは目の前で交差して構える。そして勢いよく振り払った。

巻き起こる剣の風圧で辺りの木々の葉が散り草木がなびく、そして盛り上がっていた土が砂嵐のように吹き飛んだ。

風に踊った雨がしぶきとなって顔を叩きつけ、それを拭うとルイスとロイドは目を合わせた。




流石は疾風迅雷の頭だ。剣の一振りで払いのけた墓穴の土は確か数人掛かりで掘った筈だ。

レオの荒業なりにも威力のある技に関心しながら二人は中から現れた棺のもとへ飛び降りた。


「ちょっと棺を開けるものを探してきてくれ」

ルイスが上から覗くレオにそう頼むとレオは鼻で軽く笑い飛ばしていた。

「は、道具が無いと開けられねえってか?やっぱお坊ちゃんだなお前らは!」

二本の宝剣を土に突き立ててしゃがみ込んで言うと、レオは墓穴の中に飛び降りる。そして頑丈な上蓋の端をがっちりと鷲掴んだ。

ミシミシと木の軋む音が聞こえる。

打ってあった鉄釘がしなりながら破損すると、レオは腹にグッと気合いを入れた。

一段と力を込めた逞しい腕に筋肉の筋が盛り上る。と、長方形の蓋はバキッっと大きく半分に割れた。

「はん、どんなもんだ!」

勢いに任せ、半分残った棺の重い蓋をどかし、レオが中蓋に手を掛けるとルイス達は息を飲んだ。




「──!…」

「居ないっ!?」

「…んだとっ!?」

先に中を目にした二人は驚き、レオはむしり取った中蓋を墓穴の外に放り投げて棺を覗き込む。


下に敷かれた深紅のシーツだけがそこにあり、ルイスとロイドは唖然としたまま顔を見合せた。

そしてロイドはポツリと口にした。

「まだ生きてた…のか…」

「わからん…だが生きてたとして、どうやって中から出た?出た後をわざわざ釘打って土も被せたってのか!?それはあり得ん…」

「それはそうだが、じゃあこの状況をどう説明する!?」

問われてルイスは口に手を当てた。


「……ここは王族の墓だ。あり得るなら…金品を狙った墓荒しの可能性が高い──」

まさかこんな時に…
火事場の泥棒とはよくいったものだ。

ルイスは難しい表情を浮かべた。
普段なら墓守がいるはずのこの場所も、今は人手不足のために、この場所までは警備が出来ていなかったのだ。

「重いのに死体ごと盗むのか!?それもおかしいだろ!?アルは金目の物なんかほとんど身につけていなかったはずだ!!」

興奮のせいか、段々とロイドの声が大きくなってくる。



ロイドは表情に悔しさを溢れさせた。

「クソッ!なんでいつもアルがこんな目にっ──」


「ダアッうるせえ!お前らのごたくなんざ聞きたかねえ!!アルがここに居ないことは確かなんだ!生きてても死んでても俺様は捜しにいくぜ!」

そう言って場を治めたのはレオだった。墓穴から上がるとレオは直ぐに走りだす。

ルイスは下から叫んだ。

「待てレオ!宛はあるのか!?」

「うるせえ!!匂いで捜すっ!!」

「匂いって…」

そう遠くから返ってきたレオの声にルイスは戸惑いながらも、レオならそれも出来そうな気がする…そう思った。
しかし、そんなあやふやな可能性よりも確かな方法を探さねばならない。

二人は墓穴から上がった。

「国王に報告してくる!直ぐに動けるよう、俺の馬も準備しといてくれ!」

「わかった、正門で待ってる!」

ロイドは頷くとルイスと二手に別れた。



◇◇◇

北東の平野部を冷たい風が走り抜ける。ちらりと舞う雪の量も北の山を降りれば、数もだいぶ減った様だ。
夜の闇に炬(たいまつ)の灯火が踊る。足元には黄色い小花がささやかに揺れていた。

辺りの大地は緑の塗装が剥げたように所々に雪の固まりが残っている。


少数の隊を率いた宰相の列はそこに腰を下ろし、今夜の休憩を取っていた。

「あとどのくらいだ?」

宰相は訪ねた。

「あちらの上空、あの辺りがルバール大国です。あと七里程の距離になりましょう」

「うむ…」

先にルバールへと向かっていた従弟の鄭尚と合流し、促された方角に目を向けて頷くと、宰相は脇に提げていた竹筒の水を口に含む。

夜半に差し掛かった暗がりの中、宰相は喉を潤して再び東の大国の上に広がる一段と黒い空を眺めた。


やはりあの勢いのまま、東の地に向かっていたか…


大山を突き破り、放たれた闇の王の狙う先は思った通り、神の従者が居るというルバール大国だった。

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