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しおりを挟む「倉ちゃん…」
「……?」
椅子に寝かされてお湯を掛けられながら呼ばれる。
「もしかして藤沢 聖夜とは知り合いだった?」
率直に聞かれる。
「叔父の事務所のタレントさんです」
「なるほど…」
あたしの答えにマモルさんは短く返していた。
軽くシャンプーした髪を拭き取りながら目に当てたタオルをマモルさんは取り去ると、あたしの顔を間近で覗き込む。
「もし違うならいいけど……彼氏が藤沢ならやめたほうがいい。あいつの女関係、俺知ってるから」
「───…っ…」
「倉ちゃんには合わないよ」
「………」
余りにも真顔で口にするから真剣に戸惑ってしまった──
普段から余計なことは言わないマモルさんの言葉が連なれ、あたしは髪を乾かされながら軽く笑い返した。
「何か詳しいんですか」
「前にドラマの撮影で局のスタイリストしてたから業界の裏って嫌でも耳に入るから……」
「………」
「叔父さんの事務所のタレントを悪く言いたくはないけど彼氏として付き合うなら絶対やめて…女性関係すごいから」
「……っ…」
なんだか口調が厳しくなってくる。それは明らかに夏希ちゃんに対しての嫌悪を表した言葉でもあった。
・
「違うならいいけど…」
「はは…、違うに決まってるじゃないですかっ」
乾いた笑いを返しあたしはその場を誤魔化した。
そこまで言われて付き合ってるなんてとてもじゃないけど言えない──
女性関係がすごい…
それはもう以前にマネージャーの楠木さんにも確認済みのことであって……
ただ、こうやって普段はそんなことを口にしない人の口答で出た言葉だと無性に気になるのは何故だろう──
俳優、藤沢 聖夜
この役者が作られる為に色んな付き合いが肥やしとなっている。
女性経験は沢山ある。それは夏希ちゃん自身の口からだって聞かされているわけで……
今さらあたしと付き合う前の夏希ちゃんのことまで探ってたらキリがない。
そう吹っ切って考え込むあたしの脳裏には、先ほど舞花の肩を抱く夏希ちゃんの後ろ姿が思い出されていた──
“すごく気分悪い…”
「………」
うん、夏希ちゃん…
あたしもなんだか気分悪いよ……
髪型は明るくなってふわふわと軽く弾んでいるけど気分はとても宜しくはない。
仕上がりまで丁寧にしてもらい、いつものように髪型を撮影すると車で送ると言ってくれたマモルさんを断って、あたしは家に戻った。
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