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しおりを挟むそれに釘付けられ、せっかくバリ堅に仕上げた俺のカップ麺がどんどんふやけていく──
「やべー…めちゃ可愛い……」
画面に食い入り呟く俺の姿はまるでアイドルに恋するパンピーだ。
映像が通常より少し長めのせいか、マリオと見つめ合っては表情をコロコロと変える晶さんに胸が疼く。
完ぺきなカメラワーク。上手く編集されたそのCMはマリオらしかぬ自然な飾らない表情をしっかりと捕えていた。
二人の会話はいっさい流れずバックで流れるBGMとナレーションのみで作り上げられたCMは俺の心をむやみに煽り立てていた。
一体、どんな話をしてそんな顔をしているんだろう──
マリオに向けられた晶さんの表情に胸が詰まる。
そして、晶さんを見つめるマリオのふとした視線に俺は息を飲んだ──
この時、いったいどんな言葉を交わしたのだろうか…
湯気を立てる麺を口に頬張った晶さんに甘く微笑んだマリオの視線が絡みつく。その直後に晶さんは目を見開き麺を吹き溢し噎せていた。
そんな晶さんを優しく世話するマリオの顔が画面アップに映る。
「──……」
息を飲んだままの俺はその後のマリオの行動に固まっていた。
「社長──…」
「………」
俺はテレビを消して社長に呼び掛けた。
「カップ麺のCMにキスシーンて必要ある?…」
ソファの背もたれに頭の後ろで手を組んで寄り掛かる。
「恋人同士、二人仲良く野宿の設定だからな…あっても不思議はない」
「くそ髭…」
俺は小さく呟き返した。
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完全にマリオのアドリブじゃんっ──
CM撮影の経験があればアドリブなのか台本なのかは大体読める。
“臨時で頼んだバイトだ──”
「臨時のバイトか…」
以前、社長から聞いた新人情報を思い出していた。たしか晶さんもそう言ってた…
頑なに白状しなかったのはこのチンピラ髭に口止めされてたからなんだろう──
てことは──
ラーメンデートの相手もこの間の肉デートの相手もマリオってことになる…
「……っ…──」
真面目に狙ってんじゃんっマリオのヤツっ…
瞬時にムカつきが沸いた。
「俺が知った以上、晶さんの臨時バイトに次はないからっ…」
「お前が決めるな」
「俺が決める!恋人だから権限あるっ…」
「仕事に口出す恋人か?心狭いなお前──」
「──…っ…ラブシーンあるなら口出す権限あるっ!晶さんプロじゃないからっ」
理由なんて何でもいい──
とにかくこれ以上は業界の仕事なんてさせたくない。
晶さんを人目に晒す──
これ以上の恐怖なことはない。
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