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“機嫌損ねて役を降りられても困る”

社長、ごめん──

舞花の後釜ならAV女優で充分。しかも濡れ場の演技なら向こうの方がプロじゃん?

舞花はいつ辞めてもらっても相手役の俺としては一向に構わないけどね?

この手は中途半端な追い払い方じゃ無理だから、俺、トコトンいくよ?

蔑んだ視線を思いっきり向けて舞花を見ると、舞花はソファから急に立ち上がった。

握りしめていた舞花の大きなバックが当たり、お茶のグラスが倒れる音がする──


お──帰るかな?

楠木さん間に合いそうもないな…

悠長に考えを巡らす俺の前で舞花は唇を震わせている。

「……すきって…」

「……?」

「すきって言ってくれたのも嘘なんだよねっ……」

「………ああ、あれね」

「嘘なの?…っ…」

「恋人同士でセックスするなら普通に言うだろ?あの時は俺、舞花の恋人役だったし…」

「…っ…──」

「今は同じ事務所の後輩。ただそれだけ…」

「………っ」

「おわかり?」

「でもっ…」

「なに、“でもっ”て?」

「でもあたしっ忘れられなっ……」

「………」

うわあ… 

やめてくれ…っ

頼むから身を退けよっ


「無理だからっ!…」

思わず必死に拒否してしまった。



ポロポロ涙を流し始めた舞花に苛立つ──

どうでもいい女だとなんで男ってこうも無下にできるんだろうか──

ただ、正直な話。舞花との恋人ゴッコは案外楽しかった。

仕事ではない配役だったお陰で気楽に演じて遊べたし、グラビアガールなだけに、抱くにはイイ躰をしてたし…

二週間と言わず多少この関係を続けてもいいと内心は思いもしてたし……


でも、


俺、見つけちゃったから──



どうしようもなく愛しいって想える大事な人──


見つけちゃったからさ…



あの人以外、俺には要らないわけだ──


「ごめんな舞花。とっくに恋人ゴッコ終わってるから」

俺は倒れたグラスを起こして舞花を見る。

ソファから立ち上がったままの舞花はゆっくりと俺の横を素通りすると玄関に足の向きをかえた。

「──…っ…な!?」

諦めたか、とホッと一息した瞬間、舞花はすれ違い様に抱き付いてきた。
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