10 / 16
告白
しおりを挟む
ソファーの上、寝そべる幸真は、黎の手首を掴んだまま、笑った、泣き出しそうな顔で。
「無理だよな。黎は、俺が嫌いなんだもんな」
「嫌いじゃないよ」
黎に否定されて、幸真の潤んだ瞳が、ぱっと輝いた。そのひかりを愉しんでから、黎は言った。
「憎んでるんだよ」
幸真の瞳から、涙はあふれて止まらなかった。黎の口から、言葉はあふれて止まらなかった。
「北藤先生は、俺のピアノを聴いてもらうために、お袋が発表会に呼んだんだ。でも、北藤先生が選んだのは、お前だった。俺じゃなかった」
本当にショックだったのは、母が北藤先生に教えてもらえるように頼み込んだり、選ばれなかったことを怒ったり、悲しんだりもしなかったことだった。母でさえ、自分の息子ではなく、幸真が選ばれるのは、仕方ないと思っていたのだ。
「地区予選も、学内選考も、お前さえいなきゃ、俺が選ばれていた」
同じ地区、同じ学年である以上、必ず幸真とは、コンクール出場を争わなければならなかった。本選で、明らかに自分より劣る演奏を聴くと、腹立たしかった。
「お前のせいで絶望して、何人、ピアノ辞めたと思ってるんだよ?お前の足元は、死屍累々だよ」
コンクールのたびごとに、小さな頃から見知った子たちは次々に、いなくなった。――自分だって、何度もピアノを辞めようとした。
「お前は覚えてないだろうけどな。俺が音大付属の中学受験の時、『落ちたら、ピアノ辞める』っつった時、」
「『黎がピアノ辞めるなら、俺も辞める』」
泣いていた幸真は、ドヤ顔で、一字一句まちがわずに言って、覚えていると証明してみせた。
「そうだよ。お前、そう言ったんだよ。――もうすでに、全額奨学金特待生で、音大付属に進学が決まってるこいつが。こいつにとって『ピアノ』は、そんなに簡単に捨ててしまえるものなのかって。そん時、俺は、絶ッ対、ピアノ、辞めねえって誓った」
「俺のおかげで、よかったじゃん、辞めずに済んで痛痛痛」
幸真は、黎に思いっきり!ちんこと金玉を握り締められた。
黎は握り締めていた手をゆるめて、言った。
「信じなくてもいいけど。――バラしたのは、俺じゃない」
瞳を大きく見開き、口を大きく開ける幸真の、ちんこと金玉を、黎は再び握り締めた。
「痛~い痛~い」
「驚き方が、わざとらしすぎんだよっ」
「黎が俺を引きずり下ろすのに、週刊誌なんて他人の手を借りたりしないね。黎なら、自分の手で、」
うっとりと、幸真は微笑んだ。
「ピアノで、俺を引きずり下ろしてくれる」
「そうだよ。お前なんか『二十歳過ぎれば、ただの人』にしてやる」
「二十歳まで待たなくても、今回のコンクール、出ればよかったのに」
「……知ってたのかよ」
黎は、国際ピアノコンクールの予備予選を通過していた。でも、正式に日程が発表され、本選が幸真の発情期に重なるかもしれないことに気付いて、出場を棄権したのだ。
心の底から本気で、幸真は謝った。
「ごめん、俺のせいで。」
黎は嘲笑った。
「俺が優勝したって、お前、自分が『発情期だったから』って言って、絶ッ対、認めねえだろ。お前のためなんかじゃねえよ」
「こんなことになるなら、俺が棄権すればよかったね」
黎は幸真に覆いかぶさるように、抱き締めた。
「そんなことない」
「この優勝だけじゃない。今までのコンクールの優勝だって全部、取り消される。もう、ピアノは弾けない」
幸真は両手で、黎の両肩を押しのけた。
「もう、お前が憎んでる俺は、いなくなった」
幸真は小首を傾げて、黎の瞳を覗き込み、微笑んだ。
「だから、俺を愛してくれる?」
「無理だよな。黎は、俺が嫌いなんだもんな」
「嫌いじゃないよ」
黎に否定されて、幸真の潤んだ瞳が、ぱっと輝いた。そのひかりを愉しんでから、黎は言った。
「憎んでるんだよ」
幸真の瞳から、涙はあふれて止まらなかった。黎の口から、言葉はあふれて止まらなかった。
「北藤先生は、俺のピアノを聴いてもらうために、お袋が発表会に呼んだんだ。でも、北藤先生が選んだのは、お前だった。俺じゃなかった」
本当にショックだったのは、母が北藤先生に教えてもらえるように頼み込んだり、選ばれなかったことを怒ったり、悲しんだりもしなかったことだった。母でさえ、自分の息子ではなく、幸真が選ばれるのは、仕方ないと思っていたのだ。
「地区予選も、学内選考も、お前さえいなきゃ、俺が選ばれていた」
同じ地区、同じ学年である以上、必ず幸真とは、コンクール出場を争わなければならなかった。本選で、明らかに自分より劣る演奏を聴くと、腹立たしかった。
「お前のせいで絶望して、何人、ピアノ辞めたと思ってるんだよ?お前の足元は、死屍累々だよ」
コンクールのたびごとに、小さな頃から見知った子たちは次々に、いなくなった。――自分だって、何度もピアノを辞めようとした。
「お前は覚えてないだろうけどな。俺が音大付属の中学受験の時、『落ちたら、ピアノ辞める』っつった時、」
「『黎がピアノ辞めるなら、俺も辞める』」
泣いていた幸真は、ドヤ顔で、一字一句まちがわずに言って、覚えていると証明してみせた。
「そうだよ。お前、そう言ったんだよ。――もうすでに、全額奨学金特待生で、音大付属に進学が決まってるこいつが。こいつにとって『ピアノ』は、そんなに簡単に捨ててしまえるものなのかって。そん時、俺は、絶ッ対、ピアノ、辞めねえって誓った」
「俺のおかげで、よかったじゃん、辞めずに済んで痛痛痛」
幸真は、黎に思いっきり!ちんこと金玉を握り締められた。
黎は握り締めていた手をゆるめて、言った。
「信じなくてもいいけど。――バラしたのは、俺じゃない」
瞳を大きく見開き、口を大きく開ける幸真の、ちんこと金玉を、黎は再び握り締めた。
「痛~い痛~い」
「驚き方が、わざとらしすぎんだよっ」
「黎が俺を引きずり下ろすのに、週刊誌なんて他人の手を借りたりしないね。黎なら、自分の手で、」
うっとりと、幸真は微笑んだ。
「ピアノで、俺を引きずり下ろしてくれる」
「そうだよ。お前なんか『二十歳過ぎれば、ただの人』にしてやる」
「二十歳まで待たなくても、今回のコンクール、出ればよかったのに」
「……知ってたのかよ」
黎は、国際ピアノコンクールの予備予選を通過していた。でも、正式に日程が発表され、本選が幸真の発情期に重なるかもしれないことに気付いて、出場を棄権したのだ。
心の底から本気で、幸真は謝った。
「ごめん、俺のせいで。」
黎は嘲笑った。
「俺が優勝したって、お前、自分が『発情期だったから』って言って、絶ッ対、認めねえだろ。お前のためなんかじゃねえよ」
「こんなことになるなら、俺が棄権すればよかったね」
黎は幸真に覆いかぶさるように、抱き締めた。
「そんなことない」
「この優勝だけじゃない。今までのコンクールの優勝だって全部、取り消される。もう、ピアノは弾けない」
幸真は両手で、黎の両肩を押しのけた。
「もう、お前が憎んでる俺は、いなくなった」
幸真は小首を傾げて、黎の瞳を覗き込み、微笑んだ。
「だから、俺を愛してくれる?」
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる