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告白

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 ソファーの上、寝そべる幸真は、黎の手首を掴んだまま、笑った、泣き出しそうな顔で。
「無理だよな。黎は、俺が嫌いなんだもんな」
「嫌いじゃないよ」
 黎に否定されて、幸真の潤んだ瞳が、ぱっと輝いた。そのひかりをたのしんでから、黎は言った。
「憎んでるんだよ」

 幸真の瞳から、涙はあふれて止まらなかった。黎の口から、言葉はあふれて止まらなかった。

北藤きたふじ先生は、俺のピアノを聴いてもらうために、お袋が発表会に呼んだんだ。でも、北藤先生が選んだのは、お前だった。俺じゃなかった」

 本当にショックだったのは、母が北藤先生に教えてもらえるように頼み込んだり、選ばれなかったことを怒ったり、悲しんだりもしなかったことだった。母でさえ、自分の息子ではなく、幸真が選ばれるのは、仕方ないと思っていたのだ。

「地区予選も、学内選考も、お前さえいなきゃ、俺が選ばれていた」

 同じ地区、同じ学年である以上、必ず幸真とは、コンクール出場を争わなければならなかった。本選で、明らかに自分より劣る演奏を聴くと、腹立たしかった。

「お前のせいで絶望して、何人、ピアノ辞めたと思ってるんだよ?お前の足元は、死屍累々ししるいるいだよ」

 コンクールのたびごとに、小さな頃から見知った子たちは次々に、いなくなった。――自分だって、何度もピアノを辞めようとした。

「お前は覚えてないだろうけどな。俺が音大付属の中学受験の時、『落ちたら、ピアノ辞める』っつった時、」
「『黎がピアノ辞めるなら、俺も辞める』」
 泣いていた幸真は、ドヤ顔で、一字一句まちがわずに言って、覚えていると証明してみせた。

「そうだよ。お前、そう言ったんだよ。――もうすでに、全額奨学金特待生で、音大付属に進学が決まってるこいつが。こいつにとって『ピアノ』は、そんなに簡単に捨ててしまえるものなのかって。そん時、俺は、絶ッ対ぜってえ、ピアノ、辞めねえって誓った」
「俺のおかげで、よかったじゃん、辞めずに済んで痛痛痛ででででで
 幸真は、黎に思いっきり!ちんこと金玉を握り締められた。

 黎は握り締めていた手をゆるめて、言った。
「信じなくてもいいけど。――バラしたのは、俺じゃない」

 瞳を大きく見開き、口を大きく開ける幸真の、ちんこと金玉を、黎は再び握り締めた。
いだ~いいだ~い」
「驚き方が、わざとらしすぎんだよっ」
「黎が俺を引きずり下ろすのに、週刊誌なんて他人の手を借りたりしないね。黎なら、自分の手で、」
 うっとりと、幸真は微笑んだ。
「ピアノで、俺を引きずり下ろしてくれる」
「そうだよ。お前なんか『二十歳はたち過ぎれば、ただの人』にしてやる」
「二十歳まで待たなくても、今回のコンクール、出ればよかったのに」
「……知ってたのかよ」

 黎は、国際ピアノコンクールの予備予選を通過していた。でも、正式に日程が発表され、本選が幸真の発情期に重なるかもしれないことに気付いて、出場を棄権したのだ。

 心の底から本気で、幸真は謝った。
「ごめん、俺のせいで。」

 黎は嘲笑あざわらった。
「俺が優勝したって、お前、自分が『発情期だったから』って言って、絶ッ対ぜってえ、認めねえだろ。お前のためなんかじゃねえよ」
「こんなことになるなら、俺が棄権すればよかったね」

 黎は幸真に覆いかぶさるように、抱き締めた。
「そんなことない」
「この優勝だけじゃない。今までのコンクールの優勝だって全部、取り消される。もう、ピアノは弾けない」

 幸真は両手で、黎の両肩を押しのけた。

「もう、お前が憎んでる俺は、いなくなった」

 幸真は小首を傾げて、黎の瞳を覗き込み、微笑んだ。

「だから、俺を愛してくれる?」
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