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おじいちゃん先生のレッスン

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 へんしつし変質者ゃから、ヘンなことはされなかった。
「年寄りの相手をしてもらっているだから」と言って、月謝げっしゃも取らない。へんしつしゃという呼び名は改め、おじいちゃん先生には、ピアノの弾き方より、楽譜の読み方を習う方が多かった。

 Andanteアンダンテ spianatoスピアナート
――なめらかに歩くような速度で。って、どーゆー速度か、曲を歌いながら、いっしょに散歩をしたり、作曲家の自筆譜じひつふの本物を、おじいちゃん先生が教授をしていた音楽大学に見に行って、A3コピーをしてもらって、持って帰り、床に広げて、「汚ねえな。読めねえよ」と文句を言いながら、五線譜に写したり、曲名は秘密で、楽譜だけ渡されて弾いたり。
 黎のお母さんが教えてくれた、曲をどんどん上手に弾くために練習するやり方とは、全然ちがった。
 黎のお母さんの教え方は、シューティングゲームやリズムゲームをクリアするような楽しさがあったが、おじいちゃん先生の教え方は、ロールプレイングゲームみたいな、アイテムを見付けて、装備して、自分が強くなっていく実感があった。


 ある日、おじいちゃん先生に、コンクールに出たら、ごちそうを食べに連れて行ってあげる。と言われた。
「マジで?!優勝とかしなくても?」
「敬語。」
「マジですか?優勝とかしなくてもですか?」
 大きくなって、ちゃんと敬語が使えないと、それだけで演奏の悪口を言われるから。と、おじいちゃん先生に言われて、幸真は「何でも『です』を付けときゃOK!」という技を発明していた。
 出るだけで、マジで、ごちそうをしてくれると言うので、コンクールに出て、楽譜の通りに弾いたら、幸真は優勝した。9歳でのコンクール優勝は、最年少記録だった。

 幸真は、ごちそうを食べれるのがうれしかっただけで、優勝は全然、うれしくなかった。
 幸真以外は、ミスタッチしたり、テンポや強弱が合っていなかったり、誰も楽譜通りに弾いていなかった。楽譜通りに弾けた自分が優勝するのは、当たり前だと思った。


 以来、様々なコンクール優勝の最年少記録を、幸真は塗り変えた。
 コンクールに出ると、寿司とかステーキとか北京ダックとか、大人しかいないようなお店で、ごちそうを幸真は食べさせてもらった。おじいちゃん先生に、食べている最中、テーブルマナーを厳しく注意されるのが、とっても嫌だったけれど、美味しくて、「もうやだ!」と言って、逃げ出すことはできなかった。



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