2 / 16
#ソファーの上で
しおりを挟む
「寝るなら、ベッド行けよ」
黎は、ソファーの上の幸真を見て言った。リビングルームに入って来る。昼間だが、雨戸もカーテンも閉めたまま、白い照明を点けている。
「ここがいい」
ぽふっと、幸真はソファーに寝そべった。
いつもヘアワックスで、無造作に散らしている少し長めの黒髪は、何もせずに真っすぐに下ろしている。ハイネックの、長い裾がアシンメトリーな黒いセーター、灰色のジーンズ、五本指ソックス。少しキツく見える切れ長の瞳、不平を言い出す寸前みたいな、への字に口角の下がった唇。
黎は、コートを脱ぎ、ハンガーに掛ける。黒いスーツ。青と黒の斜め格子のネクタイは解き、コートと同じハンガーに掛ける。
面長で、一重の瞳と、ちょっと突き出た唇。マッシュヘアは、髪質が硬いせいで、ふんわりとせず、ぼさっとしている。
ワイシャツの第一ボタンを黎は外しながら、スリッパを脱いで、ホットカーペットに上がった。幸真が寝そべっているソファーの前に座り、背中で凭れて、ローテーブルの下に、五本指の靴下の足を伸ばす。それから、ホットカーペットに横倒しになって、手を伸ばし、スイッチを入れると、体を起こす。幸真が笑った。への字口が咲ぶと途端に、やさしい笑顔になる。
「黎くん、大きくなったねえ」
「何だよ?いきなり」
「昔は、毛虫みたいに這って、スイッチ入れに行ってたからさ。今は、横になっただけで、手が届くんだなと思って。」
幸真は黎の背中から両手を伸ばし、抱き締めた。腕の中、振り返る黎に、瞳を閉じて、くちづけた。
甘い匂いが満ちていた。幸真は、発情期だった。
幸真が唇を開くと、黎は深くくちづけて、舌を挿し入れる。幸真は舌を重ね合わせる。ぬちゅ…と濡れた音が、耳じゃなく、体に響く。
「やっぱベッド行けよ」
「ここがいい」
ぎゅっと、幸真に抱き締められて、ちらっと目だけで黎は、壁時計を見た。リビングルームに行く途中で、レッスン室へ入って行く子どもとあいさつをした。
30分か、1時間。母はレッスンが終わるまで、リビングルームには戻って来ない。
完全防音のレッスン室の扉は閉められていて、ピアノの音は聴こえない。
付き添いの保護者はレッスン室の外の廊下に置いたイスに座って待つが、希望すれば、レッスンが見えるように、扉を少し開ける。さっき、あいさつをした子どもは、小学校高学年のようで、一人でレッスンに来ていた。
黎はローテーブルの下のティッシュを手を伸ばし、そばに引き寄せた。
幸真が抱き締めている腕を解くと、黎は振り返って座り直す。幸真は、いたずらっぽく笑って、体を退き、クッションに頭を預けて寝そべった。
寝そべった幸真に、黎は覆いかぶさるようにして、唇を、舌を重ね合わせる。黎は両手を、幸真のハイネックのセーターの長い裾から忍び込ませ、中で、長袖のアンダーウェアを掴むと引き上げる。引き上げたアンダーウェアの裾から、肌を撫でて両手を這い上らせる。くちづけを続ける黎の両頬を、幸真は両手で包み込んで、唇を離した。
「黎の手、あったかい」
「寒いなら、エアコンの温度、上げろよ」
「寒くない。体、熱い」
言う通り、手のひらに感じる幸真の体は熱かった。黎は両手で、幸真の両方の乳首を、やさしく摘んだ。
「んふっ」
くすぐったそうに幸真は声を上げ、両手で両頬を包み込んだ黎の顔を引き寄せ、くちづけの続きをする。
舌と舌が絡み合う、ぬちゅぬちゅ、濡れた音。唇と唇の隙間から、こぼれ出る幸真の声。
「っは…ぁ、っん……ぅ…っあ、」
黎の指先に摘まれて、親指の先で擦られて、硬く膨れ上がる両方の乳首。甘いΩのフェロモンが、ますます強く濃く匂い立つ。
キスで唇を塞ぎ合っているからじゃない、Ωのフェロモンに鼻を塞がれて息苦しく、黎は唇を離した。二人の舌の先と先から、つうっと、涎が糸を引き、途切れる。
幸真の切れ長の瞳は熱っぽく潤んで、涎に濡れた唇は、てらてらと光って、半開きで、浅い熱い息を繰り返している。黎は手のひらで、幸真の熱い体を撫で下ろす。
「ぁはぅっ」
幸真は声を上げ、腰を浮かせる。セーターの長い裾に隠して、黎は幸真のジーンズのボタンを外し、ファスナーを下ろす。
「やだ」
幸真は、黎の手を両手で掴んだ。ちらっと目だけで黎は、壁時計を見る。さっさと抜いて、後始末をしなきゃ、レッスンが終わったら、母がリビングルームに来るかもしれない。来ないかもしれない。
「抜くんじゃなくて、――挿れて」
幸真が潤んだ瞳で見つめて、濡れた唇で言う。黎は見下ろして、笑った。
「何言ってんだよ?」
発情期に強く濃く匂い立つαを誘惑するフェロモンは、性的絶頂を得られれば、静まる。幸真は自慰では静めることができなくて、いつもモノを黎が手で扱いて抜いてやっていた。
セックスをしたことはなかった。抜いた後、幸真はシャワーを浴びに行き、ベッドに一人残った黎は、Ωのフェロモンに反応してしまったαの自分のモノを、自分で慰めた。
これは、幸真がΩであることを誰にも知られないための、隠蔽作業だ。隠蔽作業でしかない。隠蔽作業でなければならなかった。
黎は、ソファーの上の幸真を見て言った。リビングルームに入って来る。昼間だが、雨戸もカーテンも閉めたまま、白い照明を点けている。
「ここがいい」
ぽふっと、幸真はソファーに寝そべった。
いつもヘアワックスで、無造作に散らしている少し長めの黒髪は、何もせずに真っすぐに下ろしている。ハイネックの、長い裾がアシンメトリーな黒いセーター、灰色のジーンズ、五本指ソックス。少しキツく見える切れ長の瞳、不平を言い出す寸前みたいな、への字に口角の下がった唇。
黎は、コートを脱ぎ、ハンガーに掛ける。黒いスーツ。青と黒の斜め格子のネクタイは解き、コートと同じハンガーに掛ける。
面長で、一重の瞳と、ちょっと突き出た唇。マッシュヘアは、髪質が硬いせいで、ふんわりとせず、ぼさっとしている。
ワイシャツの第一ボタンを黎は外しながら、スリッパを脱いで、ホットカーペットに上がった。幸真が寝そべっているソファーの前に座り、背中で凭れて、ローテーブルの下に、五本指の靴下の足を伸ばす。それから、ホットカーペットに横倒しになって、手を伸ばし、スイッチを入れると、体を起こす。幸真が笑った。への字口が咲ぶと途端に、やさしい笑顔になる。
「黎くん、大きくなったねえ」
「何だよ?いきなり」
「昔は、毛虫みたいに這って、スイッチ入れに行ってたからさ。今は、横になっただけで、手が届くんだなと思って。」
幸真は黎の背中から両手を伸ばし、抱き締めた。腕の中、振り返る黎に、瞳を閉じて、くちづけた。
甘い匂いが満ちていた。幸真は、発情期だった。
幸真が唇を開くと、黎は深くくちづけて、舌を挿し入れる。幸真は舌を重ね合わせる。ぬちゅ…と濡れた音が、耳じゃなく、体に響く。
「やっぱベッド行けよ」
「ここがいい」
ぎゅっと、幸真に抱き締められて、ちらっと目だけで黎は、壁時計を見た。リビングルームに行く途中で、レッスン室へ入って行く子どもとあいさつをした。
30分か、1時間。母はレッスンが終わるまで、リビングルームには戻って来ない。
完全防音のレッスン室の扉は閉められていて、ピアノの音は聴こえない。
付き添いの保護者はレッスン室の外の廊下に置いたイスに座って待つが、希望すれば、レッスンが見えるように、扉を少し開ける。さっき、あいさつをした子どもは、小学校高学年のようで、一人でレッスンに来ていた。
黎はローテーブルの下のティッシュを手を伸ばし、そばに引き寄せた。
幸真が抱き締めている腕を解くと、黎は振り返って座り直す。幸真は、いたずらっぽく笑って、体を退き、クッションに頭を預けて寝そべった。
寝そべった幸真に、黎は覆いかぶさるようにして、唇を、舌を重ね合わせる。黎は両手を、幸真のハイネックのセーターの長い裾から忍び込ませ、中で、長袖のアンダーウェアを掴むと引き上げる。引き上げたアンダーウェアの裾から、肌を撫でて両手を這い上らせる。くちづけを続ける黎の両頬を、幸真は両手で包み込んで、唇を離した。
「黎の手、あったかい」
「寒いなら、エアコンの温度、上げろよ」
「寒くない。体、熱い」
言う通り、手のひらに感じる幸真の体は熱かった。黎は両手で、幸真の両方の乳首を、やさしく摘んだ。
「んふっ」
くすぐったそうに幸真は声を上げ、両手で両頬を包み込んだ黎の顔を引き寄せ、くちづけの続きをする。
舌と舌が絡み合う、ぬちゅぬちゅ、濡れた音。唇と唇の隙間から、こぼれ出る幸真の声。
「っは…ぁ、っん……ぅ…っあ、」
黎の指先に摘まれて、親指の先で擦られて、硬く膨れ上がる両方の乳首。甘いΩのフェロモンが、ますます強く濃く匂い立つ。
キスで唇を塞ぎ合っているからじゃない、Ωのフェロモンに鼻を塞がれて息苦しく、黎は唇を離した。二人の舌の先と先から、つうっと、涎が糸を引き、途切れる。
幸真の切れ長の瞳は熱っぽく潤んで、涎に濡れた唇は、てらてらと光って、半開きで、浅い熱い息を繰り返している。黎は手のひらで、幸真の熱い体を撫で下ろす。
「ぁはぅっ」
幸真は声を上げ、腰を浮かせる。セーターの長い裾に隠して、黎は幸真のジーンズのボタンを外し、ファスナーを下ろす。
「やだ」
幸真は、黎の手を両手で掴んだ。ちらっと目だけで黎は、壁時計を見る。さっさと抜いて、後始末をしなきゃ、レッスンが終わったら、母がリビングルームに来るかもしれない。来ないかもしれない。
「抜くんじゃなくて、――挿れて」
幸真が潤んだ瞳で見つめて、濡れた唇で言う。黎は見下ろして、笑った。
「何言ってんだよ?」
発情期に強く濃く匂い立つαを誘惑するフェロモンは、性的絶頂を得られれば、静まる。幸真は自慰では静めることができなくて、いつもモノを黎が手で扱いて抜いてやっていた。
セックスをしたことはなかった。抜いた後、幸真はシャワーを浴びに行き、ベッドに一人残った黎は、Ωのフェロモンに反応してしまったαの自分のモノを、自分で慰めた。
これは、幸真がΩであることを誰にも知られないための、隠蔽作業だ。隠蔽作業でしかない。隠蔽作業でなければならなかった。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたの恋人(Ω)になれますか?〜後天性オメガの僕〜
MEIKO
BL
この世界には3つの性がある。アルファ、ベータ、オメガ。その中でもオメガは希少な存在で。そのオメガで更に希少なのは┉僕、後天性オメガだ。ある瞬間、僕は恋をした!その人はアルファでオメガに対して強い拒否感を抱いている┉そんな人だった。もちろん僕をあなたの恋人(Ω)になんてしてくれませんよね?
前作「あなたの妻(Ω)辞めます!」スピンオフ作品です。こちら単独でも内容的には大丈夫です。でも両方読む方がより楽しんでいただけると思いますので、未読の方はそちらも読んでいただけると嬉しいです!
後天性オメガの平凡受け✕心に傷ありアルファの恋愛
※独自のオメガバース設定有り
勇者は魔王!?〜愛を知らない勇者は、魔王に溺愛されて幸せになります〜
天宮叶
BL
十歳の誕生日の日に森に捨てられたソルは、ある日、森の中で見つけた遺跡で言葉を話す剣を手に入れた。新しい友達ができたことを喜んでいると、突然、目の前に魔王が現れる。
魔王は幼いソルを気にかけ、魔王城へと連れていくと部屋を与え、優しく接してくれる。
初めは戸惑っていたソルだったが、魔王や魔王城に暮らす人々の優しさに触れ、少しずつ心を開いていく。
いつの間にか魔王のことを好きになっていたソル。2人は少しずつ想いを交わしていくが、魔王城で暮らすようになって十年目のある日、ソルは自身が勇者であり、魔王の敵だと知ってしまい_____。
溺愛しすぎな無口隠れ執着魔王
×
純粋で努力家な勇者
【受け】
ソル(勇者)
10歳→20歳
金髪・青眼
・10歳のとき両親に森へ捨てられ、魔王に拾われた。自身が勇者だとは気づいていない。努力家で純粋。闇魔法以外の全属性を使える。
ノクス(魔王)
黒髪・赤目
年齢不明
・ソルを拾い育てる。段々とソルに惹かれていく。闇魔法の使い手であり、歴代最強と言われる魔王。無口だが、ソルを溺愛している。
今作は、受けの幼少期からスタートします。それに伴い、攻めとのガッツリイチャイチャは、成人編が始まってからとなりますのでご了承ください。
BL大賞参加作品です‼️
本編完結済み
真柴さんちの野菜は美味い
晦リリ
BL
運命のつがいを探しながら、相手を渡り歩くような夜を繰り返している実業家、阿賀野(α)は野菜を食べない主義。
そんななか、彼が見つけた運命のつがいは人里離れた山奥でひっそりと野菜農家を営む真柴(Ω)だった。
オメガなのだからすぐにアルファに屈すると思うも、人嫌いで会話にすら応じてくれない真柴を落とすべく山奥に通い詰めるが、やがて阿賀野は彼が人嫌いになった理由を知るようになる。
※一話目のみ、攻めと女性の関係をにおわせる描写があります。
※2019年に前後編が完結した創作同人誌からの再録です。
アルファとアルファの結婚準備
金剛@キット
BL
名家、鳥羽家の分家出身のアルファ十和(トワ)は、憧れのアルファ鳥羽家当主の冬騎(トウキ)に命令され… 十和は豊富な経験をいかし、結婚まじかの冬騎の息子、榛那(ハルナ)に男性オメガの抱き方を指導する。 😏ユルユル設定のオメガバースです。
お酒に酔って、うっかり幼馴染に告白したら
夏芽玉
BL
タイトルそのまんまのお話です。
テーマは『二行で結合』。三行目からずっとインしてます。
Twitterのお題で『お酒に酔ってうっかり告白しちゃった片想いくんの小説を書いて下さい』と出たので、勢いで書きました。
執着攻め(19大学生)×鈍感受け(20大学生)
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
零れる
午後野つばな
BL
やさしく触れられて、泣きたくなったーー
あらすじ
十代の頃に両親を事故で亡くしたアオは、たったひとりで弟を育てていた。そんなある日、アオの前にひとりの男が現れてーー。
オメガに生まれたことを憎むアオと、“運命のつがい”の存在自体を否定するシオン。互いの存在を否定しながらも、惹かれ合うふたりは……。 運命とは、つがいとは何なのか。
★リバ描写があります。苦手なかたはご注意ください。
★オメガバースです。
★思わずハッと息を呑んでしまうほど美しいイラストはshivaさん(@kiringo69)に描いていただきました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる