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君のピアノに恋をした
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幸真は目を閉じて、クッションを枕代わりにソファーに寝そべって、黎のお母さんがレッスンする子どもの、たどたどしいピアノを聴いていた。
何度も、同じ小節を繰り返して、毎回、同じところで間違うピアノの音は、人をイライラさせるらしいが、幸真は嫌いじゃなかった。
幸真がお腹の上に乗せた両手の指は、無意識に動いて音をなぞっている。ふふ。また、同じところをまちがった。
すると、なめらかなピアノが聴こえ始めた。
黎のお母さんが見本を弾いている。その後、一音、一音、どの指で、どの鍵盤を弾くのかを教えながら、ゆっくりと弾く。
ピアノの音を聴きながら、幸真は眠りに落ちた。
幸真がピアノを習い始めたきっかけは、母親といっしょに歩いていた幼稚園の帰り道、ミンミン鳴くセミの声に混ざって聴こえた、ピアノの音だった。どこからから聴こえて来るピアノの音を探して、幸真は駆け出していた。
幸真の妹の手を引き、弟をおんぶした母親は追い駆けるわけにもいかず、探し回ると、幸真は鍵のかかった門を開けようと、がしゃがしゃ、体当たりを繰り返していた。アニメだと、鍵がかかっていても、体当たりすれば開くから。母親は、幸真の頭を叩いた。
あの時は、レッスン室のエアコンが壊れて、近所の家に頭を下げて、窓を開けて練習をしていたのだと、後で黎に聞いた。
新しいエアコンが取り付けられ、窓は閉め切られて、ピアノの音が聴こえなくなっても、閉じた門の前、爪先立ちして、きょろきょろしている幸真に、母親は聞いた。
「ピアノ、習いたい?」
「ピアノがききたい」
幸真は答えた。
幸真は黎のお母さんにピアノを習い始めた。聴こえていたピアノを弾いていた黎と、友達になった。
黎は同い年だったが、ピアノの練習のために、幼稚園にも保育園にも行っていなかった。幸真は毎日、おゆうぎや、おりがみや、おひるねが、ばかばかしくて仕方なかったので、うらやましかったが、黎は、幼稚園へ行っている幸真をうらやましがった。
初めてのピアノの発表会の後だった。文化会館のロビーの大きな変な絵を、黎と見上げていると、知らないおじいさんが幸真の名前を呼んで、話しかけてきた。
「知らない人としゃべってはいけない」ので、幸真はお口にチャックをしていたが、強制的に両手を持ち上げられて、しわしわの冷たい手で触られた。
「へんしつしゃ!!」
幸真が大きな悲鳴を上げ、発表会に出た子どもたちや保護者がいるロビーは騒然となった。慌てて黎のお母さんが駆けて来て、周りに向かって大きな声で何か説明をすると、なぜかみんなが大きな拍手をし始めた。へんしつしゃは、黎のお母さんの後ろに隠れる。へんしつしゃの方が体は大きくて、全然、隠れてないのに。
へんしつしゃは、黎のお母さんに連れられて行った。
「けいさつ、行くのかな?パトカーのるのかな?おれも、のりたい!」
幸真が駆け出そうとすると、黎に腕を掴まれた。黎は、なぜかとても悲しい顔をしていた。
幸真は、黎のお母さんのピアノ教室をやめて、電車に乗って、へんしつしゃのピアノ教室へ通えと、母親に言われた。幸真は家出をして、黎の家に行って、黎のお母さんに泣いて言った。
「もっとれんしゅうするから、やめないで」
「幸真くんは、うちを辞めても、ピアノを辞めるんじゃないよ。あの先生は、すごいピアノの先生なんだよ。あの先生に習ったら、幸真くん、もっとすごいピアノを弾けるようになって、きっとピアニストになれるよ」
「おれは、しょうぼうしになる。やだ。ピアノ、やめたくない」
「幸真」
黎が、頭を撫でてくれた。
「幸真は、すごい先生にえらばれたんだよ。がんばりなよ」
「がんばんない~~~。れいといっしょが、い~い~」
黎に「小学校は、いっしょだろ。毎日、いっしょだよ」と説得されて、へんしつしゃのピアノ教室に通うことになった。
人の声が聞こえて、びくっと、ソファーの上、幸真は飛び起きた。スリッパの足音が近付いて来る。
リビングルームのドアが開いた。
何度も、同じ小節を繰り返して、毎回、同じところで間違うピアノの音は、人をイライラさせるらしいが、幸真は嫌いじゃなかった。
幸真がお腹の上に乗せた両手の指は、無意識に動いて音をなぞっている。ふふ。また、同じところをまちがった。
すると、なめらかなピアノが聴こえ始めた。
黎のお母さんが見本を弾いている。その後、一音、一音、どの指で、どの鍵盤を弾くのかを教えながら、ゆっくりと弾く。
ピアノの音を聴きながら、幸真は眠りに落ちた。
幸真がピアノを習い始めたきっかけは、母親といっしょに歩いていた幼稚園の帰り道、ミンミン鳴くセミの声に混ざって聴こえた、ピアノの音だった。どこからから聴こえて来るピアノの音を探して、幸真は駆け出していた。
幸真の妹の手を引き、弟をおんぶした母親は追い駆けるわけにもいかず、探し回ると、幸真は鍵のかかった門を開けようと、がしゃがしゃ、体当たりを繰り返していた。アニメだと、鍵がかかっていても、体当たりすれば開くから。母親は、幸真の頭を叩いた。
あの時は、レッスン室のエアコンが壊れて、近所の家に頭を下げて、窓を開けて練習をしていたのだと、後で黎に聞いた。
新しいエアコンが取り付けられ、窓は閉め切られて、ピアノの音が聴こえなくなっても、閉じた門の前、爪先立ちして、きょろきょろしている幸真に、母親は聞いた。
「ピアノ、習いたい?」
「ピアノがききたい」
幸真は答えた。
幸真は黎のお母さんにピアノを習い始めた。聴こえていたピアノを弾いていた黎と、友達になった。
黎は同い年だったが、ピアノの練習のために、幼稚園にも保育園にも行っていなかった。幸真は毎日、おゆうぎや、おりがみや、おひるねが、ばかばかしくて仕方なかったので、うらやましかったが、黎は、幼稚園へ行っている幸真をうらやましがった。
初めてのピアノの発表会の後だった。文化会館のロビーの大きな変な絵を、黎と見上げていると、知らないおじいさんが幸真の名前を呼んで、話しかけてきた。
「知らない人としゃべってはいけない」ので、幸真はお口にチャックをしていたが、強制的に両手を持ち上げられて、しわしわの冷たい手で触られた。
「へんしつしゃ!!」
幸真が大きな悲鳴を上げ、発表会に出た子どもたちや保護者がいるロビーは騒然となった。慌てて黎のお母さんが駆けて来て、周りに向かって大きな声で何か説明をすると、なぜかみんなが大きな拍手をし始めた。へんしつしゃは、黎のお母さんの後ろに隠れる。へんしつしゃの方が体は大きくて、全然、隠れてないのに。
へんしつしゃは、黎のお母さんに連れられて行った。
「けいさつ、行くのかな?パトカーのるのかな?おれも、のりたい!」
幸真が駆け出そうとすると、黎に腕を掴まれた。黎は、なぜかとても悲しい顔をしていた。
幸真は、黎のお母さんのピアノ教室をやめて、電車に乗って、へんしつしゃのピアノ教室へ通えと、母親に言われた。幸真は家出をして、黎の家に行って、黎のお母さんに泣いて言った。
「もっとれんしゅうするから、やめないで」
「幸真くんは、うちを辞めても、ピアノを辞めるんじゃないよ。あの先生は、すごいピアノの先生なんだよ。あの先生に習ったら、幸真くん、もっとすごいピアノを弾けるようになって、きっとピアニストになれるよ」
「おれは、しょうぼうしになる。やだ。ピアノ、やめたくない」
「幸真」
黎が、頭を撫でてくれた。
「幸真は、すごい先生にえらばれたんだよ。がんばりなよ」
「がんばんない~~~。れいといっしょが、い~い~」
黎に「小学校は、いっしょだろ。毎日、いっしょだよ」と説得されて、へんしつしゃのピアノ教室に通うことになった。
人の声が聞こえて、びくっと、ソファーの上、幸真は飛び起きた。スリッパの足音が近付いて来る。
リビングルームのドアが開いた。
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