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第一話 忠犬×うそつき
真実
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輝葉の親は、舜の母が営む金貸しに店を渡すことになった。借金の代償である輝葉が、きちんと借用証を書いて店の金を持ち出し、紫陽と駆け落ちしてしまったのだから、仕方のないことだった。
「『子ども同士の金の貸し借りのことは知りませ~ん』って、あたしが言ったら、狐につままれたような顔をして、お帰りになったよ」
家の縁側、着物で煙管をふかしている息子に、母は楽しそうに話す。
「金は輝樹本人に俺が取り立てるから、問題ない」
煙を吐き、酷薄な横顔を見せる息子に、髪を結い上げ、よく似たほっそりとした白い顔に白粉を塗り重ね、毒々しいほどの紅を引いた唇の端を引き上げて母は尋ねる。
「輝葉の方はどうする?飛んでも、うちの者に探させれば、すぐに見付かるよ」
「必要ない」
紅い唇を母は尖らせた。
「言えばよかったのに~。あんたが輝葉ちゃんを助けるために、輝葉ちゃんを家から追ん出そうとしてる根性悪のお兄ちゃんの博打の借金を肩代わりしたこと」
煙管をくわえたまま、息子は何も答えない。母は聞いた。
「言ったの?」
やはり息子は何も言わず、ただ煙を吐く。母は袖を目元に当てて、よよよとウソ泣きする。
「言ったのに、番犬に首根っこ噛まれて、駆け落ちされちゃったの…」
「うるせえ……」
舜は言い返す声も力ない。
痛むのは、胸よりも腹だった。
あの後、家に帰って、うっかり腹を押さえて「痛い」とつぶやいたのを母に聞かれて、虫下しの苦い薬を飲まされて寝かしつけられて、ふて寝している間に、輝葉と紫陽に駆け落ちされてしまった。
母には、輝葉の兄に呼ばれて、発情期の輝葉の部屋へ行き、番犬に殴り倒されたことは言っていない。自分が抱き締めていたのに、輝葉が番犬の視線に発情したことも。言えば、笑い死ぬまで笑われる。
「自分の想いは伝えたのかい?」
息子の顔が、みるみる赤くなってゆくのを気付いてしまった母は着物の袖を振って、きゃらきゃらと笑う。
「伝えたの?!」
舜は決心した。何も言わなくても笑われるなら、言っちまえ。笑い死にやがれ!!
「伝えたよ!――『愛してやる』って…」
母は、目・鼻・口・眉間の皺を総動員して、顔をしかめた。
「何それ~。ちゃんと『お店で働く輝いてる君に一目惚れでした!』って言いなさいよおおおおお」
ばしばし、息子の肩を叩く母の手は、やがて、ぽんぽんと、子どもをあやすようになった。
「恋に不器用なのは、お母さんに似ちゃったのね」
「番を見付けられないあんたに言われると、絶望がハンパないから、やめて」
「童貞に言われたくないわ~!」
「『子ども同士の金の貸し借りのことは知りませ~ん』って、あたしが言ったら、狐につままれたような顔をして、お帰りになったよ」
家の縁側、着物で煙管をふかしている息子に、母は楽しそうに話す。
「金は輝樹本人に俺が取り立てるから、問題ない」
煙を吐き、酷薄な横顔を見せる息子に、髪を結い上げ、よく似たほっそりとした白い顔に白粉を塗り重ね、毒々しいほどの紅を引いた唇の端を引き上げて母は尋ねる。
「輝葉の方はどうする?飛んでも、うちの者に探させれば、すぐに見付かるよ」
「必要ない」
紅い唇を母は尖らせた。
「言えばよかったのに~。あんたが輝葉ちゃんを助けるために、輝葉ちゃんを家から追ん出そうとしてる根性悪のお兄ちゃんの博打の借金を肩代わりしたこと」
煙管をくわえたまま、息子は何も答えない。母は聞いた。
「言ったの?」
やはり息子は何も言わず、ただ煙を吐く。母は袖を目元に当てて、よよよとウソ泣きする。
「言ったのに、番犬に首根っこ噛まれて、駆け落ちされちゃったの…」
「うるせえ……」
舜は言い返す声も力ない。
痛むのは、胸よりも腹だった。
あの後、家に帰って、うっかり腹を押さえて「痛い」とつぶやいたのを母に聞かれて、虫下しの苦い薬を飲まされて寝かしつけられて、ふて寝している間に、輝葉と紫陽に駆け落ちされてしまった。
母には、輝葉の兄に呼ばれて、発情期の輝葉の部屋へ行き、番犬に殴り倒されたことは言っていない。自分が抱き締めていたのに、輝葉が番犬の視線に発情したことも。言えば、笑い死ぬまで笑われる。
「自分の想いは伝えたのかい?」
息子の顔が、みるみる赤くなってゆくのを気付いてしまった母は着物の袖を振って、きゃらきゃらと笑う。
「伝えたの?!」
舜は決心した。何も言わなくても笑われるなら、言っちまえ。笑い死にやがれ!!
「伝えたよ!――『愛してやる』って…」
母は、目・鼻・口・眉間の皺を総動員して、顔をしかめた。
「何それ~。ちゃんと『お店で働く輝いてる君に一目惚れでした!』って言いなさいよおおおおお」
ばしばし、息子の肩を叩く母の手は、やがて、ぽんぽんと、子どもをあやすようになった。
「恋に不器用なのは、お母さんに似ちゃったのね」
「番を見付けられないあんたに言われると、絶望がハンパないから、やめて」
「童貞に言われたくないわ~!」
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