5 / 16
第一話 忠犬×うそつき
真実
しおりを挟む
輝葉の親は、舜の母が営む金貸しに店を渡すことになった。借金の代償である輝葉が、きちんと借用証を書いて店の金を持ち出し、紫陽と駆け落ちしてしまったのだから、仕方のないことだった。
「『子ども同士の金の貸し借りのことは知りませ~ん』って、あたしが言ったら、狐につままれたような顔をして、お帰りになったよ」
家の縁側、着物で煙管をふかしている息子に、母は楽しそうに話す。
「金は輝樹本人に俺が取り立てるから、問題ない」
煙を吐き、酷薄な横顔を見せる息子に、髪を結い上げ、よく似たほっそりとした白い顔に白粉を塗り重ね、毒々しいほどの紅を引いた唇の端を引き上げて母は尋ねる。
「輝葉の方はどうする?飛んでも、うちの者に探させれば、すぐに見付かるよ」
「必要ない」
紅い唇を母は尖らせた。
「言えばよかったのに~。あんたが輝葉ちゃんを助けるために、輝葉ちゃんを家から追ん出そうとしてる根性悪のお兄ちゃんの博打の借金を肩代わりしたこと」
煙管をくわえたまま、息子は何も答えない。母は聞いた。
「言ったの?」
やはり息子は何も言わず、ただ煙を吐く。母は袖を目元に当てて、よよよとウソ泣きする。
「言ったのに、番犬に首根っこ噛まれて、駆け落ちされちゃったの…」
「うるせえ……」
舜は言い返す声も力ない。
痛むのは、胸よりも腹だった。
あの後、家に帰って、うっかり腹を押さえて「痛い」とつぶやいたのを母に聞かれて、虫下しの苦い薬を飲まされて寝かしつけられて、ふて寝している間に、輝葉と紫陽に駆け落ちされてしまった。
母には、輝葉の兄に呼ばれて、発情期の輝葉の部屋へ行き、番犬に殴り倒されたことは言っていない。自分が抱き締めていたのに、輝葉が番犬の視線に発情したことも。言えば、笑い死ぬまで笑われる。
「自分の想いは伝えたのかい?」
息子の顔が、みるみる赤くなってゆくのを気付いてしまった母は着物の袖を振って、きゃらきゃらと笑う。
「伝えたの?!」
舜は決心した。何も言わなくても笑われるなら、言っちまえ。笑い死にやがれ!!
「伝えたよ!――『愛してやる』って…」
母は、目・鼻・口・眉間の皺を総動員して、顔をしかめた。
「何それ~。ちゃんと『お店で働く輝いてる君に一目惚れでした!』って言いなさいよおおおおお」
ばしばし、息子の肩を叩く母の手は、やがて、ぽんぽんと、子どもをあやすようになった。
「恋に不器用なのは、お母さんに似ちゃったのね」
「番を見付けられないあんたに言われると、絶望がハンパないから、やめて」
「童貞に言われたくないわ~!」
「『子ども同士の金の貸し借りのことは知りませ~ん』って、あたしが言ったら、狐につままれたような顔をして、お帰りになったよ」
家の縁側、着物で煙管をふかしている息子に、母は楽しそうに話す。
「金は輝樹本人に俺が取り立てるから、問題ない」
煙を吐き、酷薄な横顔を見せる息子に、髪を結い上げ、よく似たほっそりとした白い顔に白粉を塗り重ね、毒々しいほどの紅を引いた唇の端を引き上げて母は尋ねる。
「輝葉の方はどうする?飛んでも、うちの者に探させれば、すぐに見付かるよ」
「必要ない」
紅い唇を母は尖らせた。
「言えばよかったのに~。あんたが輝葉ちゃんを助けるために、輝葉ちゃんを家から追ん出そうとしてる根性悪のお兄ちゃんの博打の借金を肩代わりしたこと」
煙管をくわえたまま、息子は何も答えない。母は聞いた。
「言ったの?」
やはり息子は何も言わず、ただ煙を吐く。母は袖を目元に当てて、よよよとウソ泣きする。
「言ったのに、番犬に首根っこ噛まれて、駆け落ちされちゃったの…」
「うるせえ……」
舜は言い返す声も力ない。
痛むのは、胸よりも腹だった。
あの後、家に帰って、うっかり腹を押さえて「痛い」とつぶやいたのを母に聞かれて、虫下しの苦い薬を飲まされて寝かしつけられて、ふて寝している間に、輝葉と紫陽に駆け落ちされてしまった。
母には、輝葉の兄に呼ばれて、発情期の輝葉の部屋へ行き、番犬に殴り倒されたことは言っていない。自分が抱き締めていたのに、輝葉が番犬の視線に発情したことも。言えば、笑い死ぬまで笑われる。
「自分の想いは伝えたのかい?」
息子の顔が、みるみる赤くなってゆくのを気付いてしまった母は着物の袖を振って、きゃらきゃらと笑う。
「伝えたの?!」
舜は決心した。何も言わなくても笑われるなら、言っちまえ。笑い死にやがれ!!
「伝えたよ!――『愛してやる』って…」
母は、目・鼻・口・眉間の皺を総動員して、顔をしかめた。
「何それ~。ちゃんと『お店で働く輝いてる君に一目惚れでした!』って言いなさいよおおおおお」
ばしばし、息子の肩を叩く母の手は、やがて、ぽんぽんと、子どもをあやすようになった。
「恋に不器用なのは、お母さんに似ちゃったのね」
「番を見付けられないあんたに言われると、絶望がハンパないから、やめて」
「童貞に言われたくないわ~!」
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説



【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない
天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。
ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。
運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった――――
※他サイトにも掲載中
★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★
「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」
が、レジーナブックスさまより発売中です。
どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

もし、運命の番になれたのなら。
天井つむぎ
BL
春。守谷 奏斗(α)に振られ、精神的なショックで声を失った遊佐 水樹(Ω)は一年振りに高校三年生になった。
まだ奏斗に想いを寄せている水樹の前に現れたのは、守谷 彼方という転校生だ。優しい性格と笑顔を絶やさないところ以外は奏斗とそっくりの彼方から「友達になってくれるかな?」とお願いされる水樹。
水樹は奏斗にはされたことのない優しさを彼方からたくさんもらい、初めてで温かい友情関係に戸惑いが隠せない。
そんなある日、水樹の十九の誕生日がやってきて──。

顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!
小池 月
BL
男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。
それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。
ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。
ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。
★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★
性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪
11月27日完結しました✨✨
ありがとうございました☆
【完結】たとえ彼の身代わりだとしても貴方が僕を見てくれるのならば… 〜初恋のαは双子の弟の婚約者でした〜
葉月
BL
《あらすじ》
カトラレル家の長男であるレオナルドは双子の弟のミカエルがいる。天真爛漫な弟のミカエルはレオナルドとは真逆の性格だ。
カトラレル家は懇意にしているオリバー家のサイモンとミカエルが結婚する予定だったが、ミカエルが流行病で亡くなってしまい、親の言いつけによりレオナルドはミカエルの身代わりとして、サイモンに嫁ぐ。
愛している人を騙し続ける罪悪感と、弟への想いを抱き続ける主人公が幸せを掴み取る、オメガバースストーリー。
《番外編 無垢な身体が貴方色に染まるとき 〜運命の番は濃厚な愛と蜜で僕の身体を溺れさせる〜》
番になったレオとサイモン。
エマの里帰り出産に合わせて、他の使用人達全員にまとまった休暇を与えた。
数日、邸宅にはレオとサイモンとの2人っきり。
ずっとくっついていたい2人は……。
エチで甘々な数日間。
ー登場人物紹介ー
ーレオナルド・カトラレル(受け オメガ)18歳ー
長男で一卵性双生児の弟、ミカエルがいる。
カトラレル家の次期城主。
性格:内気で周りを気にしすぎるあまり、自分の気持ちを言えないないだが、頑張り屋で努力家。人の気持ちを考え行動できる。行動や言葉遣いは穏やか。ミカエルのことが好きだが、ミカエルがみんなに可愛がられていることが羨ましい。
外見:白肌に腰まである茶色の髪、エメラルドグリーンの瞳。中世的な外見に少し幼さを残しつつも。行為の時、幼さの中にも妖艶さがある。
体質:健康体
ーサイモン・オリバー(攻め アルファ)25歳ー
オリバー家の長男で次期城主。レオナルドとミカエルの7歳年上。
レオナルドとミカエルとサイモンの父親が仲がよく、レオナルドとミカエルが幼い頃からの付き合い。
性格:優しく穏やか。ほとんど怒らないが、怒ると怖い。好きな人には尽くし甘やかし甘える。時々不器用。
外見:黒髪に黒い瞳。健康的な肌に鍛えられた肉体。高身長。
乗馬、剣術が得意。貴族令嬢からの人気がすごい。
BL大賞参加作品です。

孤独を癒して
星屑
BL
運命の番として出会った2人。
「運命」という言葉がピッタリの出会い方をした、
デロデロに甘やかしたいアルファと、守られるだけじゃないオメガの話。
*不定期更新。
*感想などいただけると励みになります。
*完結は絶対させます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる