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登場人物紹介

番犬×主人

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「ねーねー、てるてるは、お薬、何、飲んでるの?お兄さまが、てるてるは『色香フェロモンをまき散らさず、つつしぶかいのに』って、ホメるんだよ」
「君の番犬は、主人以外の色香を嗅ぎ回るような淫乱か?」
「ひっどーい!!ぼくのお兄さまを侮辱するな~!!」
 輝葉てるは芙雪ふゆきは、ポカスカ叩く。
「静かにしろ。補習の時間だぞ」
「先生が来るまでは、まだ補習の時間じゃありません~!」
 一番前の真ん中の席から振り返って注意する翡翠ひすいに、芙雪は言い返して、輝葉との話を続ける。
「お兄さま、ぼくのこと、くさいって言うんだよ。ひどくない?」
しゅう。君が芙雪の護衛だから、色香を強く感じるだけだよ。双子ということもあるんじゃないか」
「そうかな…」
 輝葉の護衛・紫陽しように言われて、芙雪の護衛であり、双子の兄でもある柊は、芙雪と全く同じ顔を曇らせる。
「僕が、こんなヤツらといっしょに補習を受けなきゃならないなんて…」
「補習は、出席日数の補填ほてんでもあるんだから」
 ぶつぶつ言う翡翠を、隣の席に座る護衛のりんはなだめる。


 放課後、発情期のために授業を休んだΩたちの補習が行われる教室。発情期は周期的に起こるので、必然と同じ顔が揃うことになる。皆、同学年の十八歳で、輝葉と紫陽、芙雪と柊は同じクラスだったが、翡翠と臨は特級組で、学年の首席を争っていた。


 紅と白を織り合わせた桜模様の着物と紅のはかま輝葉てるは(Ω)は士族。
 士族でありながら、家は商売に成功していた。短く切った黒髪、大きな瞳、のちの時代に「アヒルぐち」と呼ばれることになる形のよい唇、少々、鼻が低いような気がするのが誰にも言わない本人の悩みだったが、それが愛らしくもあった。

 藍染《あいぞめ》の着物と袴の紫陽しよう(α)は士族。
 輝葉の家の使用人の息子。髪を短く刈った毬栗いがぐり頭《あたま》、団栗どんぐりまなこ団子だんごっぱな、への字ぐち、木の幹のような胴体どうたい、枝のように真っすぐに伸びる手足、葉のように大きな手。輝葉に言わせれば、「同じ物を食べて、無駄に大きく育っただけ」である。


 透き通る絹を紅の衣の上に重ねた桜襲さくらがさねの着物と緋色の袴の芙雪ふゆき(Ω)は華族。
 眉の上、肩の上で童形おかっぱに切り揃えた艶やかな黒髪に包まれた丸顔、少し下がった眼尻まなじり、丸い鼻、ふくらかな紅い唇。

 同じ桜襲《さくらがさね》の着物に緋色の袴のしゅう(α)は華族。
 芙雪の双子の兄。顔も髪も背格好もそっくりで、二人が並ぶさまは、雅やかな雛人形ひなにんぎょうのようだった。


 名に合わせた翡翠色の綾織あやおりの着物と白絹しらぎぬの袴の翡翠ひすい(Ω)は華族。
 初のΩの主席卒業となるのではないかと、噂されている。もっとも、今までΩの主席卒業がいないのは、学業に秀でたΩであれば、なおさら持ち込まれる縁談も多くなり、在学中に結婚して寿中退してしまうからだ。切れ長の瞳と、なめらかに高い鼻、薄い唇。伸ばした長い黒髪は、のちの時代に「ポニーテール」と呼ばれるように、高く結い上げて下ろしている。

 薄青の綾織の着物と白絹の袴を着せられているりん(α)は平民。
 華族や士族というだけで入学が許されるが、平民の彼はαで、成績優秀であるために受験を許され、合格して入学した。ゆえに翡翠と首席を相争う仲である。キツく見られがちな顔立ちの翡翠と対照的に、真顔なのに微笑んでいるような顔立ち。毬栗いがぐりあたまだったが、坊主といっしょにいるようで嫌だと翡翠に言われて、髪を伸ばしてみたら、さらさらと美しい黒髪で、逆に「長く伸ばすな」と言われて、前髪は額の中ほど、耳を出して、後ろ髪も短くしている。


 扉が引き開けられ、教師が入って来た。βの教師は、αの紫陽、柊、臨の視線に本能的に身をすくめ、ひとつ深呼吸して、教壇に上がった。
「それでは、補習を始めます」
 Ωの補習は必ずβの教師がおこない、αの護衛が同席する。以前、αの教師が補習を護衛の同席なしに行なって乱交になったというのは、誤聞デマである。

 高貴な血筋のΩは優秀なαを産む存在として、番われるまで清い体を護り、つまらないαに襲われることのないように、そして持て余す性欲を処理するため、αの護衛がつけられる。
 αでありながら、Ωに仕える彼らは「番犬」と呼ばれた。主人であるΩを決して噛まないαには、ふさわしい呼び名ではあった。
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