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おあずけ
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ライが結婚したら、愛人になろうと決めたオーガスは、自分の父母の愛人に会って、「愛人生活」がどんなものか、聞いてみようとして、失敗に終わった。ライは、もう一度、故郷の第2区に帰り、領主の長女との婚約を断って来た。
東寮の食堂での夕食の後、
「話がある」
と、ライが話しかけ、オーガスはライのシャツの胸倉を掴み、空間移動魔術で、西寮の自分の部屋に連れ込んだ。ライは机のイスに座り、婚約を断ったことを話し出した。
オーガスは、並ぶ机のイスに座ることもできず、立って聞いていた。
「そしたらさ~~~~、『大きくなったら、結婚しようね』なんて、子どもの頃の約束を真に受けてたのかって、すんげ~おじさんに笑われた」
「うぷぷぷぷ」
オーガスは笑ったが、区から永久追放とか、莫大な慰謝料とか、ひどい展開にならなくてよかった。と、安心すると同時に、王城でのパーティーで聞いた、魔力が無いに等しい最弱第三王子の婚約者候補に、第2区の領主の長女が上がっているという噂は、本当だったのかと思う。第2区の領主は、婚約を元々、なかったことにして、第三王子を婿にするべく、堂々と名乗りを上げるつもりなのだろう。
「エリシダには、ちゃんと、お別れして来た」
「『は?あんたのことなんか好きじゃねえし』と言われた!」
「――『もう、あんなことしないから』って、泣かれた」
領主の長女は、親に言われたからじゃなく、子どもの頃の約束を守って、幼なじみのライのお嫁さんになりたかったんだ。と、オーガスは知って、胸は痛んだ。
ライは、うつむく。
「そう言われて、わかったんだ。ぼくは、エリシダをSubとして、しあわせにできない」
オーガスは何も言えずに、ライの薄茶の髪のつむじを見下ろして、聞いていた。
「エリシダの、Domとしての悦びは、虐めることだろ。それを『もうしない』って言うのは、エリシダは欲求不満になっちゃうと思う。だから、これでよかったんだよ――多分。」
第2区の領主の娘が第三王子の婚約者候補というのは、ただの噂の可能性もあるが、オーガスは、念のため、ライが婚約破棄されないように、第三王子と、いい感じになっていた西寮の寮生と関係を持つように仕向けて、できたてほやほや、あっちっち~である。
令嬢が主人公の物語ならば、オーガスは、婚約者を寝取り、第三王子を婿にすることも阻んだ大極悪人キャラである。
オーガスは跪き、うつむくライの包帯を巻いた額に、傷が痛まないように、やさしくキスした。
「ライは何にも悪くない。大極悪人は、ぼくだから。」
「そうだよ。お前が、ぼくの人生、めちゃくちゃにしたんだ」
「そう言われると、ちょっとドキドキしちゃうな…。大極悪人キャラ、楽しいかも。」
ドキドキする胸に両手を重ね合わせるオーガスを、ライは見下ろした。
オーガスの手がライのシャツの胸元を掴んだ。ライは、瞳を閉じた。
ふおおおおおおおおおおおおおおおっ!ちゅー待ち顔、たまらん。キンチョーしちゃって、まつ毛、ぶるぶる、まぶた、ぴくぴく、唇、きゅっとしちゃって、しわしわ~。ぷにぷにほっぺた、両手に包み込んで、ちゅっちゅ、ちゅぱちゅぱ、れろれろ、ぶっちゅ~、ぢゅっぷ~、してえええええええええ
けれど、オーガスは暴走する自分の欲望を抑え込んだ。
「Stay」
オーガスに命令されて、ライは緑の瞳を見開いた。
自分自身にも言って聞かせてるみたいな命令だなと思いながら、オーガスは言う。
「ライが痛いこと、もうしたくない」
ライは額に包帯を巻いていて、鼻にはガーゼを貼り、食事中、唇の傷跡に染みて、何度か、顔をしかめるのを、オーガスは見ていた。自分が拘束魔術で、さらに痛めつけてしまった傷だった。オーガスはライに酷いことをしたと、ちゃんと話した。
ライが散々、「好き」を言わされた後、オーガスが泣き出して、酷いことをしたと謝られた。そして、「ライが痛いこと、もうしない」と言われた。
こわい夢が現実だったと、オーガスに言われても、ライは今も、信じられない。
「オーガスも、こわい夢を見ただけだよ」
ライは言ったけれど、オーガスは、ふわふわの髪を揺らして、首を横に振った。
ライは、自分のシャツの胸元を掴んでいるオーガスの手を、握り締めた。
同じDomで、同じ酷いことをされて、「もうしない」と同じことを言われた。
それがエリシダにとっては「我慢」で、オーガスにとっては「やさしさ」になるのが、ライは不思議だった。
同じ「支配」なのに、こんなにも、かたちはちがう。
オーガスは「ライが痛いこと、もうしない」と言って、何もしなかった。ずっと何もしていない。
ライは、オーガスに言った。
「もう、だいじょうぶだよ」
「やだ。傷が、ちゃんと治るまではしない。ライのこと、めちゃくちゃにするのに、躊躇しちゃうから」
そんなことを言われて、ぷにぷにほっぺたを真っ赤っかにしたライは、オーガスの空間魔術で、食堂に連れ戻された。
短時間で食堂に戻って来たのに、東寮の寮長の顔は真っ赤っかで、西寮の寮長はドヤ顔で、ヤッたのか?!ヤッてないのか?!東寮の寮生と、西寮の寮生は、ムダに悩んだ。
東寮の食堂での夕食の後、
「話がある」
と、ライが話しかけ、オーガスはライのシャツの胸倉を掴み、空間移動魔術で、西寮の自分の部屋に連れ込んだ。ライは机のイスに座り、婚約を断ったことを話し出した。
オーガスは、並ぶ机のイスに座ることもできず、立って聞いていた。
「そしたらさ~~~~、『大きくなったら、結婚しようね』なんて、子どもの頃の約束を真に受けてたのかって、すんげ~おじさんに笑われた」
「うぷぷぷぷ」
オーガスは笑ったが、区から永久追放とか、莫大な慰謝料とか、ひどい展開にならなくてよかった。と、安心すると同時に、王城でのパーティーで聞いた、魔力が無いに等しい最弱第三王子の婚約者候補に、第2区の領主の長女が上がっているという噂は、本当だったのかと思う。第2区の領主は、婚約を元々、なかったことにして、第三王子を婿にするべく、堂々と名乗りを上げるつもりなのだろう。
「エリシダには、ちゃんと、お別れして来た」
「『は?あんたのことなんか好きじゃねえし』と言われた!」
「――『もう、あんなことしないから』って、泣かれた」
領主の長女は、親に言われたからじゃなく、子どもの頃の約束を守って、幼なじみのライのお嫁さんになりたかったんだ。と、オーガスは知って、胸は痛んだ。
ライは、うつむく。
「そう言われて、わかったんだ。ぼくは、エリシダをSubとして、しあわせにできない」
オーガスは何も言えずに、ライの薄茶の髪のつむじを見下ろして、聞いていた。
「エリシダの、Domとしての悦びは、虐めることだろ。それを『もうしない』って言うのは、エリシダは欲求不満になっちゃうと思う。だから、これでよかったんだよ――多分。」
第2区の領主の娘が第三王子の婚約者候補というのは、ただの噂の可能性もあるが、オーガスは、念のため、ライが婚約破棄されないように、第三王子と、いい感じになっていた西寮の寮生と関係を持つように仕向けて、できたてほやほや、あっちっち~である。
令嬢が主人公の物語ならば、オーガスは、婚約者を寝取り、第三王子を婿にすることも阻んだ大極悪人キャラである。
オーガスは跪き、うつむくライの包帯を巻いた額に、傷が痛まないように、やさしくキスした。
「ライは何にも悪くない。大極悪人は、ぼくだから。」
「そうだよ。お前が、ぼくの人生、めちゃくちゃにしたんだ」
「そう言われると、ちょっとドキドキしちゃうな…。大極悪人キャラ、楽しいかも。」
ドキドキする胸に両手を重ね合わせるオーガスを、ライは見下ろした。
オーガスの手がライのシャツの胸元を掴んだ。ライは、瞳を閉じた。
ふおおおおおおおおおおおおおおおっ!ちゅー待ち顔、たまらん。キンチョーしちゃって、まつ毛、ぶるぶる、まぶた、ぴくぴく、唇、きゅっとしちゃって、しわしわ~。ぷにぷにほっぺた、両手に包み込んで、ちゅっちゅ、ちゅぱちゅぱ、れろれろ、ぶっちゅ~、ぢゅっぷ~、してえええええええええ
けれど、オーガスは暴走する自分の欲望を抑え込んだ。
「Stay」
オーガスに命令されて、ライは緑の瞳を見開いた。
自分自身にも言って聞かせてるみたいな命令だなと思いながら、オーガスは言う。
「ライが痛いこと、もうしたくない」
ライは額に包帯を巻いていて、鼻にはガーゼを貼り、食事中、唇の傷跡に染みて、何度か、顔をしかめるのを、オーガスは見ていた。自分が拘束魔術で、さらに痛めつけてしまった傷だった。オーガスはライに酷いことをしたと、ちゃんと話した。
ライが散々、「好き」を言わされた後、オーガスが泣き出して、酷いことをしたと謝られた。そして、「ライが痛いこと、もうしない」と言われた。
こわい夢が現実だったと、オーガスに言われても、ライは今も、信じられない。
「オーガスも、こわい夢を見ただけだよ」
ライは言ったけれど、オーガスは、ふわふわの髪を揺らして、首を横に振った。
ライは、自分のシャツの胸元を掴んでいるオーガスの手を、握り締めた。
同じDomで、同じ酷いことをされて、「もうしない」と同じことを言われた。
それがエリシダにとっては「我慢」で、オーガスにとっては「やさしさ」になるのが、ライは不思議だった。
同じ「支配」なのに、こんなにも、かたちはちがう。
オーガスは「ライが痛いこと、もうしない」と言って、何もしなかった。ずっと何もしていない。
ライは、オーガスに言った。
「もう、だいじょうぶだよ」
「やだ。傷が、ちゃんと治るまではしない。ライのこと、めちゃくちゃにするのに、躊躇しちゃうから」
そんなことを言われて、ぷにぷにほっぺたを真っ赤っかにしたライは、オーガスの空間魔術で、食堂に連れ戻された。
短時間で食堂に戻って来たのに、東寮の寮長の顔は真っ赤っかで、西寮の寮長はドヤ顔で、ヤッたのか?!ヤッてないのか?!東寮の寮生と、西寮の寮生は、ムダに悩んだ。
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