寮長の恋~ふわふわボディのSub、とろあまDomが溺愛中♡

切羽未依

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本当の理由

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「ライっ」
 オーガスは振り返り、床に這いつくばって、ライを抱き起こす。胸に耳を押し当てる。

――心臓の鼓動を感じた。

 ライが気を失っただけだとわかって、オーガスは体がしぼむほど、深い息をついた。ライを抱え上げ、膝枕する。
「ごめん…本当にごめん…ライ…」

 オーガスDomが欲望を押し付けただけの、一方的な暴力で支配されて、Subサブ dropドロップを起こさないわけがない。

「ごめん、ライ…ごめん、本当に…ごめん…」
「ぐごっ」
 喉を鳴らして、ライが目を開けた。

 ライが目を開けると、オーガスの顔があった。

 また部屋に勝手に入って来て、じと~っと、寝顔を覗き込んでやがって。と、ライは思う。息をすると、ずずっと鼻が詰まって、軽く咳き込んだ。
「鼻、ちーんして!」
 オーガスが言って移動魔術で、そんなに要らないほどの、ちり紙ティッシュでライの顔を埋める。オーガスの魔力の暴走は続いていた。ライは顔を埋め尽くすちり紙を払いのけ、鼻をかんで、鼻先に痛みを感じ、貼っていたガーゼが取れて、どこかに行ってしまったことに気付く。口の中も、上唇の傷が開いてしまったのだろう、血の味がする。顔は涙で、びしょ濡れだった。ちり紙で顔を拭く。

 こわい夢を見てたことを、ライは思い出す。

 オーガスに無理矢理、拘束魔術でひざまずかされ、床に頭を押し付けられる夢。

 そんな夢を見たことを、オーガスに言ったら、笑われるに決まっている。そんな夢を見てしまったのは、あんなことがあったからだ。


 オーガスに顔の傷を見られて、「転んだ」って嘘をついて、ブランケットをかぶった。
「じゃあ、お大事に」
 オーガスが言って、部屋を出て行った後、眠って、こわい夢を見た。


 本当のこと、オーガスに言わなきゃ。


 オーガスを見上げ、ライは言った。
「エリシダとプレイをした」

 オーガスは唇を震わせ、深呼吸する。
――どうして、ぼくは気付いてあげられなかったんだろう。ライの声は震えていたのに。

 オーガスはやさしく、ライに言った。
「こわかったんだね」
「うん……」

 部屋は暗いままで、よく見えなかったけれど、オーガスは自分のシャツを、ライが掴んだのを感じた。ぼくの手を掴めばいいのに。と思いながらオーガスは、ライの手を自分の手のひらの中に包み込む。

「エリシダは、その気だったんだろうけど、ぼくは、普通に部屋で、二人で話したいことがあるんだって思って、付いて行っちゃったから……いきなりで、」
 ライが黙り込む。

 オーガスは、やっぱりどうしても聞かずにいられなかった。
「セックス、したのか?」
「してないっ。してないよっ。プレイしただけ。」
 まるで悪夢を繰り返すように、同じ答えをライが言って、オーガスは笑ってしまった。
「笑うなよっ。――命令コマンドだけだよ。あと、ちょっと…踏まれた」
「ちょっとじゃねえだろ!」と怒鳴りたいのを、オーガスはこらえた。大きな声を出して、ライをこわがらせたくない。
「……勃起もしなかった」
「ぅぶっ」
 オーガスは吹き出してしまう。ライは叫んだ。
「笑うなよっ!」
「ぶふぇふぇふぇふぇふぇふぇふぇふぇふぇ」
 こらえるが、オーガスは笑いが止まらない。
「お前の短小ちんぽがしなびてるの、想像したら、笑いがぅふぇふぇふぇふぇ。エリシダ様も、ガッカリだな」
「踏み付けて、ぐにぐにされて、嘲笑わらわれた…」
真性しんせい嗜虐趣味しぎゃくしゅみだな。この先の夫婦生活が思いやられる――」
 オーガスの両目から涙がこぼれ落ちた。

 部屋が暗いままでよかった。泣いていても、笑っていると、ごまかせる。
「ふぇっ、ふぇ、っふ、っは、ほんと、笑える、ぅふぇっ、ぅくっ、ふ、」

 けれど、オーガスの涙は、ライの顔に降り、泣いていることは気付かれていた。傷が開いてしまった唇に、塩辛い涙が染みて、痛む。ライは言った。
「それが『初めて』だったら、Subって、Domに、こういうことされるんだって思って、受け入れたと思う」

 『調教』は、「支配したい」という本能の欲求を持つDomと「支配されたい」という本能の欲求を持つSubの、愛情表現のひとつであることは事実だった。

 オーガスが手に包み込んだライの手が、ギュッとオーガスのシャツを掴む。
「お前が、いっつも、ぬるいプレイばっかりするからっ。痛いのが、こわくてどうしようもなかったっ」
「ごめん、ライ。ごめん。本当にごめんなさい」
 オーガスはライを抱き締める。ライがこわくてどうしようもないことをしてしまった。
「そうだよ。謝れよ。お前のせいだ」
「ごめん。本当にごめん」

 こうして抱き締めたかっただけなのに。こうして抱き締めればよかっただけなのに。

 オーガスは、ライのふわふわボディに、ふにふに、頬ずりする。
「ライが好きだ。好きだから、他のDomに、ううん。他の誰にも渡したくない。触らせたくない。大好きだよっ」

 ライは自分の体を抱き締めるオーガスの両腕に溺れる。
 自分じゃ好きじゃない自分の体を、オーガスに愛されている時、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、自分を好きになれる、ような気がした。貧弱なライの物でさえ、自分の中に包み込んでオーガスは、「気持ち良い」と言ってくれる。

 傷が開いてオーガスの涙が染みて痛む唇で、ライは言った。
「ぼくも、オーガスがっ、」















 長い沈黙の後、ライは、ふううううううっと、長い息をいた。オーガスは笑って、言った。
「ぶぎゅっ」
「痛い!」
 命令コマンドを言おうとしたオーガスの唇は、ライの頭突きに塞がれた。ライは包帯を巻いた額の傷の痛みに声を上げる。
 オーガスはライの包帯を巻いた額に、やさしくくちづける。
「ぼくが命令してあげなきゃ、一生、言えないだろ?」
「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
「素直じゃないところも、大好きだから、そのままでいいよ。でも、一度だけでいいんだ。Say言って

 さらっと、命令された!――Domオーガス命令コマンドに、Subライは逆らうことができない。

「…好きだよ…」
 かすかな声でライは言った。
「聞こえないな~、Say言って!」
「『一度だけ』って言っただろっ――好きだ」
「もっともっと~、Say言って!」
「大好きだっ」
「まだまだ~、Say言って!」
「愛してるっ」


 オーガスの結界魔術で何も聞こえず、隣の部屋では2段ベッドの下の段で、ブランケットにくるまって、フェブは自分の腕枕で眠るユアリィの長い黒髪を、飽きず、さらさらと指で梳いていた。


 食堂では、西寮の寮生が、我らが寮長オーガスがいないことに気付き、東寮の寮生は、副寮長のユアリィとパートナーのフェブがいないことに気付き、空間移動魔術で、自分の部屋から教科書やノートや本を取り寄せて、悶々と、夏休みの宿題や勉強や読書をしていた。
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