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最終章 王立図書館最下層
春
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春になり、なんとかオクトは進学できて、高等科1年生になれた。魔力が強くなっているんじゃないかと、ディセが期待した学年初めのオクトの魔力測定は、多少、強くなっていただけだった…
ディセは王立図書館に司書として就職して、一人暮らしを始めた。ディセが住むアパートにオクトは引っ越しの手伝いに押しかけて、そのまま住みついてしまっている。
朝、オクトはディセより半刻、早い鐘の音で起きて、朝ごはんを作り、高校へ行き、夕方、帰ると、まだ帰って来ていないディセの晩ごはんを作って置いて、あちこちの店を手伝いに行き、夜遅く、帰って来る。学校が休みの日は、朝から晩まで、手伝いに行っている。毎日、美味しいごはんを食べさせてもらっているディセは、オクトを追い出す理由が見付からなかった。
思っていた通り、オクトは、身体的・精神的な暴力や束縛で、Subを支配したいDomではなく、甘やかしてかわいがってSubを支配したいDomだった。
でも、いっしょに住んでいるのに、会えるのは、朝、オクトがディセを起こしてくれる時と、夜、オクトがディセの眠るベッドに、もぐりこんで来る時だけだった。
オクトは帰りに共同浴場に寄って来て、体は、ぽかぽかしていて、髪は、しっとり濡れている。
寮でも、大浴場に共同トイレだったので、アパートを選ぶ時に「バスなし・トイレ共同」でも気にもしなかったのだが、二人で暮らすなら、「バス・トイレ付き」がよかったかなあと、ディセは思う。部屋に備え付けのベッドも、二人で寝るには狭かった。
「お前、体、だいじょうぶなのか?」
「じゅ、あ、休み時間、寝てんから、ヘーキ!」
「『授業中』って言ったな?」
「『じゅ』しか言ってないっ」
「……――今までも、こんな生活してたの?」
「いや、ここまでは。――えーと、忙しいのは、あともう少しだから、ちょっと、もう少し、待ってて」
「無理すんなよ」
「うん。ありがと」
「おやすみ」
「おやすみ。Come」
オクトの命令に、ディセはキスをして、両腕の中に包まれて、眠る。
一日一命令で、欲求不満にはなっていないし、おやすみのキスで目を閉じると、すぐに寝息を立てるオクトに、ディセはおねだりもできなかった。
パートナーというか、恋人というか、そういう関係になったことは、誰にも言っていなかった。もちろん、オクトは無邪気に周囲に言って回ろうとしたのだが、ディセが止めた。
街の人たちは、祝福してくれる。と思う。
けれど、まだオクトが第三王子である以上は、同性のパートナーの存在は、王族として隠すべきことだった。
特に、ノーヴェには言えなかった。きっと「ディセのために」「弟のために」、別れるように説得されることは、明白だった。
ノーヴェに「弟と会わないで欲しい」と言われた以上は、ディセは毎週金曜日、オクトとごはんを食べるのをやめた。けれど、月に一度、ノーヴェが外泊する日に合わせて、ディセは王城のオクトの部屋に行っていた。寮の部屋でするよりは、まだましだと、心の中で、ずっと言い訳していた。
ノーヴェは魔術大学を卒業すると、魔術軍に入り、初年訓練で外部との連絡すら許されず、今、王国のどこにいるかも、わからない。
ディセは王立図書館に司書として就職して、一人暮らしを始めた。ディセが住むアパートにオクトは引っ越しの手伝いに押しかけて、そのまま住みついてしまっている。
朝、オクトはディセより半刻、早い鐘の音で起きて、朝ごはんを作り、高校へ行き、夕方、帰ると、まだ帰って来ていないディセの晩ごはんを作って置いて、あちこちの店を手伝いに行き、夜遅く、帰って来る。学校が休みの日は、朝から晩まで、手伝いに行っている。毎日、美味しいごはんを食べさせてもらっているディセは、オクトを追い出す理由が見付からなかった。
思っていた通り、オクトは、身体的・精神的な暴力や束縛で、Subを支配したいDomではなく、甘やかしてかわいがってSubを支配したいDomだった。
でも、いっしょに住んでいるのに、会えるのは、朝、オクトがディセを起こしてくれる時と、夜、オクトがディセの眠るベッドに、もぐりこんで来る時だけだった。
オクトは帰りに共同浴場に寄って来て、体は、ぽかぽかしていて、髪は、しっとり濡れている。
寮でも、大浴場に共同トイレだったので、アパートを選ぶ時に「バスなし・トイレ共同」でも気にもしなかったのだが、二人で暮らすなら、「バス・トイレ付き」がよかったかなあと、ディセは思う。部屋に備え付けのベッドも、二人で寝るには狭かった。
「お前、体、だいじょうぶなのか?」
「じゅ、あ、休み時間、寝てんから、ヘーキ!」
「『授業中』って言ったな?」
「『じゅ』しか言ってないっ」
「……――今までも、こんな生活してたの?」
「いや、ここまでは。――えーと、忙しいのは、あともう少しだから、ちょっと、もう少し、待ってて」
「無理すんなよ」
「うん。ありがと」
「おやすみ」
「おやすみ。Come」
オクトの命令に、ディセはキスをして、両腕の中に包まれて、眠る。
一日一命令で、欲求不満にはなっていないし、おやすみのキスで目を閉じると、すぐに寝息を立てるオクトに、ディセはおねだりもできなかった。
パートナーというか、恋人というか、そういう関係になったことは、誰にも言っていなかった。もちろん、オクトは無邪気に周囲に言って回ろうとしたのだが、ディセが止めた。
街の人たちは、祝福してくれる。と思う。
けれど、まだオクトが第三王子である以上は、同性のパートナーの存在は、王族として隠すべきことだった。
特に、ノーヴェには言えなかった。きっと「ディセのために」「弟のために」、別れるように説得されることは、明白だった。
ノーヴェに「弟と会わないで欲しい」と言われた以上は、ディセは毎週金曜日、オクトとごはんを食べるのをやめた。けれど、月に一度、ノーヴェが外泊する日に合わせて、ディセは王城のオクトの部屋に行っていた。寮の部屋でするよりは、まだましだと、心の中で、ずっと言い訳していた。
ノーヴェは魔術大学を卒業すると、魔術軍に入り、初年訓練で外部との連絡すら許されず、今、王国のどこにいるかも、わからない。
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