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第2章 最弱王子
#元彼
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2週間の教育実習のお礼を言って校長室を出て行こうとするディセの背中に、校長は聞いた。
「本気で先生になる気はないですか?」
ディセは立ち止まり、振り返ると、校長室の奥のデスクの校長の椅子に座る校長に向かって、頭を下げた。
「本当にすみません。教師を目指してもいないのに、私が教育実習に来たことを、校長先生は見抜かれていたのですね」
「いや、そういう意味じゃなくってね」
「教員免許をもらえるなら、もらっておこうという軽い気持ちでいました」
「責めてないよ、ゼンゼン!君、よくやってくれてた」
「ご迷惑をおかけしてなかったのならば、幸いです。本当にありがとうございました」
ディセが出て行き、閉じた扉の前には、菫色にも見える銀髪を三つ編みにひとつにまとめて、くすんだ灰色の上着とズボンの男が立っていた。第一ボタンを外したシャツの襟元から、細い首に嵌めた漆黒の首輪から下がる鎖の先、古めかしい鍵が付いている。水晶のように色のない瞳が、校長を睨んだ。
「私の養子を誘惑しないでください」
「人聞き悪いな!」
ディセの養父である図書館館長に言われて、校長は言い返した。
「教え方が上手かったからね。教師になってくれれば、と思ったんだよ」
図書館長の首輪から下がる鎖の先の鍵へと、校長は視線を落とす。
「やはり図書館司書にして、鍵を譲るつもりなのかい」
「そのために拾った子ですから」
校長は深くため息をつき、椅子に、もたれた。
「しかし、君によく似ていた。――自分に理解できないことがあると、苛立つ感じが、君にそっくりだった」
「自分に似て、かわいくて、賢い子を、選び抜きましたから」
自分に似た子を選んだのならば、どうして黒い瞳の子を選んだのか。
校長は問うことができずに、質問を変えた。
「立ち話するには、遠すぎない?」
扉の前に立ったままでいる図書館長は、校長室の奥、校長の椅子に座る校長に向かって、唇をひらめかせて、微笑んだだけだった。
SubばかりがDomの命令に逆らえないと思われているが、同様にDomも、Subの「支配されたい」というおねだりには逆らえないのだ。
Domである校長は、大学時代の元パートナーの無言のおねだりに、逆らえなかった。
「Come」
命令に図書館長は、校長の膝の上にまたがった。
「あなたの『Come』は、ここまで来ちゃうんだからな…」
空間移動魔術で、扉の前から膝の上まで一瞬だった。
「もっとちょうだい」
命令を、いや、それ以上のことをねだる図書館長の口を、校長は手のひらでふさいだ。
「神聖な学校ですから」
ねっとりと舌で、手のひらを舐め上げられて、校長は手を退く。けれど、もう手首を、図書館長に捕らえられている。
「だいじょうぶ。見えないようにするよ」
空間移動魔術を自在に操る図書館長が、この世界の「外」に二人の身を置いて、続きをする。
図書館長は出した赤い舌で、網目のように皺の浮く白っぽい老いた手の、中指の先を、ちろちろと舐め回す。
口淫を思い出させる舌の動きを見ているだけで、校長は、図書館長に膝の上にまたがられて、当たっている自分の物に、全身の血が集中して流れ込んで来るのを感じる。中指を、図書館長の涎が滴り落ちる。その感触に、校長は全身を、ぞくぞく震わせた。
「Kneel」と命令して、校長の椅子に座る自分の脚の間にひざまずかせて、
「Lick」と命令して、自分の物を舐めしゃぶらせたい。
けれど、耐えた。
「Stop」
Domの校長の命令に、Subの図書館長の舌は止まった。赤子のように涎で、べちゃべちゃの口元を光らせて微笑う。
「Normalの奥様とのプレイの真似事で、満足できているんですか~?」
魔力の強い者同士だと、魔力を打ち消し合うのか、魔力が弱い、魔力を持たない子が生まれることが多い。そのため、魔力の強い王族や貴族は、魔力が弱い、魔力を持たない者と婚姻する。校長は、家が選んだ魔力を持たない元・貴族の娘と結婚した。――パートナーを解消した理由は、そればかりではなかったが。
「学校を支配することで満たされています」
校長の答えに、水晶のような色のない瞳に、侮蔑が満ちた。しかし、それは一瞬だった。
「Domの『支配したい』という欲望の捌け口にされている子どもたちが、かわいそう~」
「人聞き悪いな!――毎週の朝礼で、子どもたちが、ぴしっと並んだまま、自分の話を聞いてくれるように、ネタを探したり、悩んでる先生がいたら、相談聞いたり、設備が壊れたら、自分で修理できるところは修理したり、いろいろ、大変なんですよっ」
校長の苦労を聞いているんだか、いないんだか、図書館長は校長の膝の上から下りる。その腕を校長は掴んだ。
「気が変わった?」
図書館長は小首を傾げる。校長は腕を掴んだまま、自分の上着のポケットからハンカチを出して、涎で汚れた図書館長の口元を拭った。図書館長は、校長に上目遣いで聞いた。
「それ、他の子の涎を拭いた、トイレの後の自分の手を拭いたハンカチじゃないよね…?」
「本気で先生になる気はないですか?」
ディセは立ち止まり、振り返ると、校長室の奥のデスクの校長の椅子に座る校長に向かって、頭を下げた。
「本当にすみません。教師を目指してもいないのに、私が教育実習に来たことを、校長先生は見抜かれていたのですね」
「いや、そういう意味じゃなくってね」
「教員免許をもらえるなら、もらっておこうという軽い気持ちでいました」
「責めてないよ、ゼンゼン!君、よくやってくれてた」
「ご迷惑をおかけしてなかったのならば、幸いです。本当にありがとうございました」
ディセが出て行き、閉じた扉の前には、菫色にも見える銀髪を三つ編みにひとつにまとめて、くすんだ灰色の上着とズボンの男が立っていた。第一ボタンを外したシャツの襟元から、細い首に嵌めた漆黒の首輪から下がる鎖の先、古めかしい鍵が付いている。水晶のように色のない瞳が、校長を睨んだ。
「私の養子を誘惑しないでください」
「人聞き悪いな!」
ディセの養父である図書館館長に言われて、校長は言い返した。
「教え方が上手かったからね。教師になってくれれば、と思ったんだよ」
図書館長の首輪から下がる鎖の先の鍵へと、校長は視線を落とす。
「やはり図書館司書にして、鍵を譲るつもりなのかい」
「そのために拾った子ですから」
校長は深くため息をつき、椅子に、もたれた。
「しかし、君によく似ていた。――自分に理解できないことがあると、苛立つ感じが、君にそっくりだった」
「自分に似て、かわいくて、賢い子を、選び抜きましたから」
自分に似た子を選んだのならば、どうして黒い瞳の子を選んだのか。
校長は問うことができずに、質問を変えた。
「立ち話するには、遠すぎない?」
扉の前に立ったままでいる図書館長は、校長室の奥、校長の椅子に座る校長に向かって、唇をひらめかせて、微笑んだだけだった。
SubばかりがDomの命令に逆らえないと思われているが、同様にDomも、Subの「支配されたい」というおねだりには逆らえないのだ。
Domである校長は、大学時代の元パートナーの無言のおねだりに、逆らえなかった。
「Come」
命令に図書館長は、校長の膝の上にまたがった。
「あなたの『Come』は、ここまで来ちゃうんだからな…」
空間移動魔術で、扉の前から膝の上まで一瞬だった。
「もっとちょうだい」
命令を、いや、それ以上のことをねだる図書館長の口を、校長は手のひらでふさいだ。
「神聖な学校ですから」
ねっとりと舌で、手のひらを舐め上げられて、校長は手を退く。けれど、もう手首を、図書館長に捕らえられている。
「だいじょうぶ。見えないようにするよ」
空間移動魔術を自在に操る図書館長が、この世界の「外」に二人の身を置いて、続きをする。
図書館長は出した赤い舌で、網目のように皺の浮く白っぽい老いた手の、中指の先を、ちろちろと舐め回す。
口淫を思い出させる舌の動きを見ているだけで、校長は、図書館長に膝の上にまたがられて、当たっている自分の物に、全身の血が集中して流れ込んで来るのを感じる。中指を、図書館長の涎が滴り落ちる。その感触に、校長は全身を、ぞくぞく震わせた。
「Kneel」と命令して、校長の椅子に座る自分の脚の間にひざまずかせて、
「Lick」と命令して、自分の物を舐めしゃぶらせたい。
けれど、耐えた。
「Stop」
Domの校長の命令に、Subの図書館長の舌は止まった。赤子のように涎で、べちゃべちゃの口元を光らせて微笑う。
「Normalの奥様とのプレイの真似事で、満足できているんですか~?」
魔力の強い者同士だと、魔力を打ち消し合うのか、魔力が弱い、魔力を持たない子が生まれることが多い。そのため、魔力の強い王族や貴族は、魔力が弱い、魔力を持たない者と婚姻する。校長は、家が選んだ魔力を持たない元・貴族の娘と結婚した。――パートナーを解消した理由は、そればかりではなかったが。
「学校を支配することで満たされています」
校長の答えに、水晶のような色のない瞳に、侮蔑が満ちた。しかし、それは一瞬だった。
「Domの『支配したい』という欲望の捌け口にされている子どもたちが、かわいそう~」
「人聞き悪いな!――毎週の朝礼で、子どもたちが、ぴしっと並んだまま、自分の話を聞いてくれるように、ネタを探したり、悩んでる先生がいたら、相談聞いたり、設備が壊れたら、自分で修理できるところは修理したり、いろいろ、大変なんですよっ」
校長の苦労を聞いているんだか、いないんだか、図書館長は校長の膝の上から下りる。その腕を校長は掴んだ。
「気が変わった?」
図書館長は小首を傾げる。校長は腕を掴んだまま、自分の上着のポケットからハンカチを出して、涎で汚れた図書館長の口元を拭った。図書館長は、校長に上目遣いで聞いた。
「それ、他の子の涎を拭いた、トイレの後の自分の手を拭いたハンカチじゃないよね…?」
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