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暗殺者
告白
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ドニが魔術を使う時に、ビズーイは、いつも付いて行くことはなかった。
魔力がない自分は役立たずだからだ。
だから、セイフを邸に蟄居させるドニたちに付いて行かなくても、何とも思われていない。
この間に、ビズーイは消えてしまうつもりだった。
ビズーイは、広間から外へ出る扉を必死に押し開けようとしていた。
「ご都合主義な封印魔術だなあ。跳ね返されるかと思ったら、入れちゃった」
つぶやきに、ビズーイは振り返った。
緋色の正装のウェリスが、円卓の前、立っていた。
花は、誰からも愛され、褒め称えられ、大切にしてもらえる。
雑草は、誰の目にも止まらず、名も与えられず、毎日、踏み付けにされていることさえ、気付いてもらえない。
ビズーイは開かない扉に、ぐったり、もたれると、ウェリスを見つめて言った。
「君は、美しい」
「えっ!どうしたの?いきなり。」
美しい水晶のような透き通った瞳を見開き、ウェリスは驚く。
ビズーイは、厚い唇の口角を、ひらめかせて笑った。
「俺は、カレンダ王国の建国王をかばって死んで、英雄として歴史に名が刻まれるはずだった」
どうしてビズーイが本物の短剣を、自分に渡したのか、ウェリスは知らされて、どうして刃が消去魔術で消されたのか、わかった。
「セイフも、排除できる。やっぱり、あんたが、自分の国を奪われたことを恨んでて、本物の短剣にすり替えたんじゃないかって、ちょっとでも、ドニに疑わせることもできるかもしれない。――素晴らしい権謀術数だろ?」
ビズーイの深緑の瞳が、怒りに満ち満ちる。
「なのに!どうして助けたんだよ?!」
「どんなに、ちゃんとした理由があったって、自殺なんかして欲しくないからだよ」
ビズーイに、ウェリスは即答した。
「もう、生きてる理由なんかないんだよ!!」
「いきなり、何、言ってるんだよ?何があったの?」
吐き捨てるビズーイに、ウェリスは駆け寄る。
「お前のせいだ!!」
ビズーイに怒鳴られて、ウェリスの足は止まった。
何にもわかっていない、悲しい表情のウェリスに、ビズーイは苛立つ。
「ドニは、あんたを宰相にするつもりだ」
さらさらと、美しく銀髪を揺らして、首を横に振り、ウェリスは否定する。
「ドニは、そんなことしないよ」
「何度も、ぼくに言いかけてる」
「そんなこと……――」
ウェリスは、言葉に詰まり、うつむいて、そして、顔を上げた。
「もし、ドニがそんなことしようとしてるなら、命令されたって、ぼくは断る」
ビズーイは、せせら笑って、ウェリスに聞き返した。
「俺のためか?俺に気を遣って?」
「ちがうよ。カレンダ王国は、君たちが創った国だもの。――ぼくは、何にもしてない」
最後に付け足した言葉を言う時に、ウェリスは、声が震えてしまった。
「それでも、ドニは」
言いかけたビズーイが、突然、ぐらりと後ろへと倒れ込んで、ウェリスは手を伸ばした。
「ぅおっと。ビズーイ」
外から扉を引き開けたドニは、扉に背中を押し付けるようにして、やっと立っていたビズーイが後ろ向きに倒れ込そうになったのを、片腕に抱えた。
「やっぱり気になって……」
ビズーイは、心配顔のドニの黒い瞳を見上げ、胸に手をついて、押しのけ、自分で立った。
「短剣、やっぱり本物じゃなかったよ。壊れて、刃が出なくなっちゃっただけ」
ウェリスは言った。
「そうか……」
ドニは安心した顔になって、ビズーイの頭を見下ろした。そして、そっぽを向いた。
「あのぉ~、こんな時だけど、ビズーイ、………………」
ドニは、そっぽを向いて、言い出して、結局、沈黙した。
ウェリスは、腕組みをした。
「今までも、これからも、カレンダ王国の宰相は、ビズーイだよな?」
聞くと、ドニは、ウェリスを見て、きょとんとして、うなずいた。
「うん。そうだよ。何、突然、言ってんの?ウェリス」
「今、ビズーイに、何か、言いかけて、やめたよね?何だよ?ドニ。」
「あ~…それは、う~ん、……………」
ウェリスに聞かれても、ドニは、もごもご、言って、結局、沈黙してしまう。
「Say」
ウェリスは、ドニに命令した。
ウェリスの命令に、ドニは、ブーツの踵を巡らせて、ビズーイと、真っすぐに向かい合うと、言った。
「俺っ、ウェリスと、お付き合いしてますっ!!」
「お前、ビズーイに言ってなかったのか?!」
ウェリスは、今さら宣言されると、恥ずかしすぎて、顔を覆って、背中を向けてしまった。
「お付き合いって……」
呆然とビズーイは、ドニを見上げて、聞き返した。
「幼なじみじゃなく、恋人になりましたっ!」
茹で上がったカニのような真っ赤っかな顔で、ドニは答えた。
ビズーイは笑い出した。――それは、やがて泣き声に変わった。
魔力がない自分は役立たずだからだ。
だから、セイフを邸に蟄居させるドニたちに付いて行かなくても、何とも思われていない。
この間に、ビズーイは消えてしまうつもりだった。
ビズーイは、広間から外へ出る扉を必死に押し開けようとしていた。
「ご都合主義な封印魔術だなあ。跳ね返されるかと思ったら、入れちゃった」
つぶやきに、ビズーイは振り返った。
緋色の正装のウェリスが、円卓の前、立っていた。
花は、誰からも愛され、褒め称えられ、大切にしてもらえる。
雑草は、誰の目にも止まらず、名も与えられず、毎日、踏み付けにされていることさえ、気付いてもらえない。
ビズーイは開かない扉に、ぐったり、もたれると、ウェリスを見つめて言った。
「君は、美しい」
「えっ!どうしたの?いきなり。」
美しい水晶のような透き通った瞳を見開き、ウェリスは驚く。
ビズーイは、厚い唇の口角を、ひらめかせて笑った。
「俺は、カレンダ王国の建国王をかばって死んで、英雄として歴史に名が刻まれるはずだった」
どうしてビズーイが本物の短剣を、自分に渡したのか、ウェリスは知らされて、どうして刃が消去魔術で消されたのか、わかった。
「セイフも、排除できる。やっぱり、あんたが、自分の国を奪われたことを恨んでて、本物の短剣にすり替えたんじゃないかって、ちょっとでも、ドニに疑わせることもできるかもしれない。――素晴らしい権謀術数だろ?」
ビズーイの深緑の瞳が、怒りに満ち満ちる。
「なのに!どうして助けたんだよ?!」
「どんなに、ちゃんとした理由があったって、自殺なんかして欲しくないからだよ」
ビズーイに、ウェリスは即答した。
「もう、生きてる理由なんかないんだよ!!」
「いきなり、何、言ってるんだよ?何があったの?」
吐き捨てるビズーイに、ウェリスは駆け寄る。
「お前のせいだ!!」
ビズーイに怒鳴られて、ウェリスの足は止まった。
何にもわかっていない、悲しい表情のウェリスに、ビズーイは苛立つ。
「ドニは、あんたを宰相にするつもりだ」
さらさらと、美しく銀髪を揺らして、首を横に振り、ウェリスは否定する。
「ドニは、そんなことしないよ」
「何度も、ぼくに言いかけてる」
「そんなこと……――」
ウェリスは、言葉に詰まり、うつむいて、そして、顔を上げた。
「もし、ドニがそんなことしようとしてるなら、命令されたって、ぼくは断る」
ビズーイは、せせら笑って、ウェリスに聞き返した。
「俺のためか?俺に気を遣って?」
「ちがうよ。カレンダ王国は、君たちが創った国だもの。――ぼくは、何にもしてない」
最後に付け足した言葉を言う時に、ウェリスは、声が震えてしまった。
「それでも、ドニは」
言いかけたビズーイが、突然、ぐらりと後ろへと倒れ込んで、ウェリスは手を伸ばした。
「ぅおっと。ビズーイ」
外から扉を引き開けたドニは、扉に背中を押し付けるようにして、やっと立っていたビズーイが後ろ向きに倒れ込そうになったのを、片腕に抱えた。
「やっぱり気になって……」
ビズーイは、心配顔のドニの黒い瞳を見上げ、胸に手をついて、押しのけ、自分で立った。
「短剣、やっぱり本物じゃなかったよ。壊れて、刃が出なくなっちゃっただけ」
ウェリスは言った。
「そうか……」
ドニは安心した顔になって、ビズーイの頭を見下ろした。そして、そっぽを向いた。
「あのぉ~、こんな時だけど、ビズーイ、………………」
ドニは、そっぽを向いて、言い出して、結局、沈黙した。
ウェリスは、腕組みをした。
「今までも、これからも、カレンダ王国の宰相は、ビズーイだよな?」
聞くと、ドニは、ウェリスを見て、きょとんとして、うなずいた。
「うん。そうだよ。何、突然、言ってんの?ウェリス」
「今、ビズーイに、何か、言いかけて、やめたよね?何だよ?ドニ。」
「あ~…それは、う~ん、……………」
ウェリスに聞かれても、ドニは、もごもご、言って、結局、沈黙してしまう。
「Say」
ウェリスは、ドニに命令した。
ウェリスの命令に、ドニは、ブーツの踵を巡らせて、ビズーイと、真っすぐに向かい合うと、言った。
「俺っ、ウェリスと、お付き合いしてますっ!!」
「お前、ビズーイに言ってなかったのか?!」
ウェリスは、今さら宣言されると、恥ずかしすぎて、顔を覆って、背中を向けてしまった。
「お付き合いって……」
呆然とビズーイは、ドニを見上げて、聞き返した。
「幼なじみじゃなく、恋人になりましたっ!」
茹で上がったカニのような真っ赤っかな顔で、ドニは答えた。
ビズーイは笑い出した。――それは、やがて泣き声に変わった。
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