亡国の王、幼なじみDomと癒され再会ラブ

切羽未依

文字の大きさ
上 下
29 / 34
暗殺者

短剣

しおりを挟む
 ウェリスは、円卓の下、短剣をさやの方を持って、差し出した。


 つかにも、さやにも、きらびやかな宝石が散りばめられた豪奢ごうしゃな短剣だった。


 円卓の下、伸びて来た手が、短剣のつかを掴み、ウェリスが持つ鞘から引き抜く。
 そして、隣の椅子に座る僭王せんおうの胸にやいばを突き立てた。

「ギャー!!」
 僭王は叫ぶ。

 僭王――ドニの胸から、ビズーイは短剣を引き抜いた。
 刃には、血も付いていない。
 ドニの黒いシャツの胸に、血の染みが広がってゆくこともない。


 短剣を持ったビズーイは、ドニに言う。
「セイフは、俺より、腕が長いだろ。もう少し、ドニは椅子を引いて、後ろに下がった方が刺しやすいんじゃないか?」
「刺しやすい位置に、わざわざ座るって、何?」
 ドニは言いながら、椅子を少し引き、円卓から離れる。

 ビズーイが、短剣を戻すために向き直ると、ウェリスは、にっこにこ、鞘を差し出して来る。

「そこには、俺の暗殺の協力が、楽しくって楽しくって、仕方ないヤツがいるし!」
 ドニは、ウェリスを指差して、わめく。


 ビズーイは短剣を、ウェリスが差し出す鞘に納めた。

「ビズーイ、一度だけ、ぼく、暗殺者、やらせてもらえない?一度だけ。」
 ウェリスが、短剣を納めた鞘を差し出したまま、小首を傾げて、ビズーイの深緑の瞳を覗き込む。さらさらと銀髪が流れる。

「ついに、実行犯、やりたいってよ」
 ドニは、ぐでえっと、椅子の背もたれに寄り掛かって、ウェリスを見る。

「昨日、一日、寝込んでたんだから、そんなに、はしゃぐなよ」
「マジで、今すぐ、ブッ殺したい」
 笑顔でウェリスは吐き捨てた。


 ビズーイは、ドニの隣を立つと、椅子を納めて、後ろに退がった。


「やった~!マジでブッ殺せる~!」
 大喜びでウェリスは、椅子を立つと、いきなり短剣のつかを掴み、鞘から引き抜く。短剣を高く振り上げると、ドニの胸に突き立てる。
「死ね~!」
「うわ~!」
 短剣を胸に突き立てられたドニは、両手、両足を、ばたばたさせる。


 冷ややかな瞳で、ビズーイは、幼なじみ同士がじゃれ合うのを、眺めていた。


「ビズーイが、冷たい瞳で見てるって。」
 ドニが、ウェリスに短剣を突き立てられたまま、背もたれに頭を載せて、ビズーイの方を見る。


 笑っている琥珀色の瞳と、瞳が合って、ビズーイは、顔はドニに向けたまま、視線を逸らした。


「すごいよね~、これ。」
 ウェリスは、ぶすぶす、ドニに短剣を突き刺す。


 突き刺すと、偽物にせものやいばが引っ込む仕掛けの短剣だった。


 クウィム王国には、『演劇』という、物語の中の出来事を、人が本当にやって、みんなに見せることがあって、それに使われる物だそうだ。


「見たい!」
 ウェリスが叫ぶと、ドニは、手を横に振った。
「つまんないよ。長い時間、椅子に座って、静かにして、見てなきゃいけないんだぜ。俺、何回か、行ったけど、毎回、寝る」
「個人の感想です」
 ビズーイは、思わず付け足して言ってしまった。『演劇』は好きだった。


「ビズーイも、見たこと、あるの?」
 水晶のような透き通った瞳を、きらきら輝かせてウェリスは、ビズーイを覗き込んだ。
「あります」
 ビズーイが答えると、いきなり、ウェリスに両手を掴まれた。

「連れてって~、連れてって~、連れてって~、連れてって~、」
 ビズーイは、ウェリスに両手を引っ張られて、離してくれそうもないので、演劇に連れて行く約束をさせられてしまった…



 ウェリスは、物静かに見えて、ドニよりも騒々しかった。
 好奇心旺盛おうせいで、無知を恥じることなく、何でも聞いて来る。



 『演劇』で言えば、本番当日。
 ビズーイから短剣を受け取ったウェリスは、小首を傾げた。
 兵が持っているような、何の飾りもない短剣だった。

「あそ」
「遊んでた時に」と、ウェリスは言いかけて、言い直した。
「練習してた時に使ってた短剣より、重いね」

「刺した時に、血のように赤いインクが出るようになっています。そのインクの重さ」
 ビズーイの説明の途中で、
「すっげ!」
「すご~い!」
 ドニとウェリスが同時に声を上げた。

 さすがにビズーイは、額を手のひらで押さえた。
「一度きりなので、試したりしないでください、。」
 ドニとウェリスは、揃って、首を、ぶんぶん、横に振った。
――ビズーイに言われなければ、早速、二人で試していた。


 ビズーイは、額から手を下ろして、言った。
「それでは、練習の通りに。」
「はいっ」
「任せろ」
 同時に答えるウェリスとドニを見て、無意識にビズーイの手のひらは、額を押さえていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

処理中です...