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暗殺者
短剣
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ウェリスは、円卓の下、短剣を鞘の方を持って、差し出した。
柄にも、鞘にも、きらびやかな宝石が散りばめられた豪奢な短剣だった。
円卓の下、伸びて来た手が、短剣の柄を掴み、ウェリスが持つ鞘から引き抜く。
そして、隣の椅子に座る僭王の胸に刃を突き立てた。
「ギャー!!」
僭王は叫ぶ。
僭王――ドニの胸から、ビズーイは短剣を引き抜いた。
刃には、血も付いていない。
ドニの黒いシャツの胸に、血の染みが広がってゆくこともない。
短剣を持ったビズーイは、ドニに言う。
「セイフは、俺より、腕が長いだろ。もう少し、ドニは椅子を引いて、後ろに下がった方が刺しやすいんじゃないか?」
「刺しやすい位置に、わざわざ座るって、何?」
ドニは言いながら、椅子を少し引き、円卓から離れる。
ビズーイが、短剣を戻すために向き直ると、ウェリスは、にっこにこ、鞘を差し出して来る。
「そこには、俺の暗殺の協力が、楽しくって楽しくって、仕方ないヤツがいるし!」
ドニは、ウェリスを指差して、わめく。
ビズーイは短剣を、ウェリスが差し出す鞘に納めた。
「ビズーイ、一度だけ、ぼく、暗殺者、やらせてもらえない?一度だけ。」
ウェリスが、短剣を納めた鞘を差し出したまま、小首を傾げて、ビズーイの深緑の瞳を覗き込む。さらさらと銀髪が流れる。
「ついに、実行犯、やりたいってよ」
ドニは、ぐでえっと、椅子の背もたれに寄り掛かって、ウェリスを見る。
「昨日、一日、寝込んでたんだから、そんなに、はしゃぐなよ」
「マジで、今すぐ、ブッ殺したい」
笑顔でウェリスは吐き捨てた。
ビズーイは、ドニの隣を立つと、椅子を納めて、後ろに退がった。
「やった~!マジでブッ殺せる~!」
大喜びでウェリスは、椅子を立つと、いきなり短剣の柄を掴み、鞘から引き抜く。短剣を高く振り上げると、ドニの胸に突き立てる。
「死ね~!」
「うわ~!」
短剣を胸に突き立てられたドニは、両手、両足を、ばたばたさせる。
冷ややかな瞳で、ビズーイは、幼なじみ同士がじゃれ合うのを、眺めていた。
「ビズーイが、冷たい瞳で見てるって。」
ドニが、ウェリスに短剣を突き立てられたまま、背もたれに頭を載せて、ビズーイの方を見る。
笑っている琥珀色の瞳と、瞳が合って、ビズーイは、顔はドニに向けたまま、視線を逸らした。
「すごいよね~、これ。」
ウェリスは、ぶすぶす、ドニに短剣を突き刺す。
突き刺すと、偽物の刃が引っ込む仕掛けの短剣だった。
クウィム王国には、『演劇』という、物語の中の出来事を、人が本当にやって、みんなに見せることがあって、それに使われる物だそうだ。
「見たい!」
ウェリスが叫ぶと、ドニは、手を横に振った。
「つまんないよ。長い時間、椅子に座って、静かにして、見てなきゃいけないんだぜ。俺、何回か、行ったけど、毎回、寝る」
「個人の感想です」
ビズーイは、思わず付け足して言ってしまった。『演劇』は好きだった。
「ビズーイも、見たこと、あるの?」
水晶のような透き通った瞳を、きらきら輝かせてウェリスは、ビズーイを覗き込んだ。
「あります」
ビズーイが答えると、いきなり、ウェリスに両手を掴まれた。
「連れてって~、連れてって~、連れてって~、連れてって~、」
ビズーイは、ウェリスに両手を引っ張られて、離してくれそうもないので、演劇に連れて行く約束をさせられてしまった…
ウェリスは、物静かに見えて、ドニよりも騒々しかった。
好奇心旺盛で、無知を恥じることなく、何でも聞いて来る。
『演劇』で言えば、本番当日。
ビズーイから短剣を受け取ったウェリスは、小首を傾げた。
兵が持っているような、何の飾りもない短剣だった。
「あそ」
「遊んでた時に」と、ウェリスは言いかけて、言い直した。
「練習してた時に使ってた短剣より、重いね」
「刺した時に、血のように赤いインクが出るようになっています。そのインクの重さ」
ビズーイの説明の途中で、
「すっげ!」
「すご~い!」
ドニとウェリスが同時に声を上げた。
さすがにビズーイは、額を手のひらで押さえた。
「一度きりなので、試したりしないでください、絶ッ対に。」
ドニとウェリスは、揃って、首を、ぶんぶん、横に振った。
――ビズーイに言われなければ、早速、二人で試していた。
ビズーイは、額から手を下ろして、言った。
「それでは、練習の通りに。」
「はいっ」
「任せろ」
同時に答えるウェリスとドニを見て、無意識にビズーイの手のひらは、額を押さえていた。
柄にも、鞘にも、きらびやかな宝石が散りばめられた豪奢な短剣だった。
円卓の下、伸びて来た手が、短剣の柄を掴み、ウェリスが持つ鞘から引き抜く。
そして、隣の椅子に座る僭王の胸に刃を突き立てた。
「ギャー!!」
僭王は叫ぶ。
僭王――ドニの胸から、ビズーイは短剣を引き抜いた。
刃には、血も付いていない。
ドニの黒いシャツの胸に、血の染みが広がってゆくこともない。
短剣を持ったビズーイは、ドニに言う。
「セイフは、俺より、腕が長いだろ。もう少し、ドニは椅子を引いて、後ろに下がった方が刺しやすいんじゃないか?」
「刺しやすい位置に、わざわざ座るって、何?」
ドニは言いながら、椅子を少し引き、円卓から離れる。
ビズーイが、短剣を戻すために向き直ると、ウェリスは、にっこにこ、鞘を差し出して来る。
「そこには、俺の暗殺の協力が、楽しくって楽しくって、仕方ないヤツがいるし!」
ドニは、ウェリスを指差して、わめく。
ビズーイは短剣を、ウェリスが差し出す鞘に納めた。
「ビズーイ、一度だけ、ぼく、暗殺者、やらせてもらえない?一度だけ。」
ウェリスが、短剣を納めた鞘を差し出したまま、小首を傾げて、ビズーイの深緑の瞳を覗き込む。さらさらと銀髪が流れる。
「ついに、実行犯、やりたいってよ」
ドニは、ぐでえっと、椅子の背もたれに寄り掛かって、ウェリスを見る。
「昨日、一日、寝込んでたんだから、そんなに、はしゃぐなよ」
「マジで、今すぐ、ブッ殺したい」
笑顔でウェリスは吐き捨てた。
ビズーイは、ドニの隣を立つと、椅子を納めて、後ろに退がった。
「やった~!マジでブッ殺せる~!」
大喜びでウェリスは、椅子を立つと、いきなり短剣の柄を掴み、鞘から引き抜く。短剣を高く振り上げると、ドニの胸に突き立てる。
「死ね~!」
「うわ~!」
短剣を胸に突き立てられたドニは、両手、両足を、ばたばたさせる。
冷ややかな瞳で、ビズーイは、幼なじみ同士がじゃれ合うのを、眺めていた。
「ビズーイが、冷たい瞳で見てるって。」
ドニが、ウェリスに短剣を突き立てられたまま、背もたれに頭を載せて、ビズーイの方を見る。
笑っている琥珀色の瞳と、瞳が合って、ビズーイは、顔はドニに向けたまま、視線を逸らした。
「すごいよね~、これ。」
ウェリスは、ぶすぶす、ドニに短剣を突き刺す。
突き刺すと、偽物の刃が引っ込む仕掛けの短剣だった。
クウィム王国には、『演劇』という、物語の中の出来事を、人が本当にやって、みんなに見せることがあって、それに使われる物だそうだ。
「見たい!」
ウェリスが叫ぶと、ドニは、手を横に振った。
「つまんないよ。長い時間、椅子に座って、静かにして、見てなきゃいけないんだぜ。俺、何回か、行ったけど、毎回、寝る」
「個人の感想です」
ビズーイは、思わず付け足して言ってしまった。『演劇』は好きだった。
「ビズーイも、見たこと、あるの?」
水晶のような透き通った瞳を、きらきら輝かせてウェリスは、ビズーイを覗き込んだ。
「あります」
ビズーイが答えると、いきなり、ウェリスに両手を掴まれた。
「連れてって~、連れてって~、連れてって~、連れてって~、」
ビズーイは、ウェリスに両手を引っ張られて、離してくれそうもないので、演劇に連れて行く約束をさせられてしまった…
ウェリスは、物静かに見えて、ドニよりも騒々しかった。
好奇心旺盛で、無知を恥じることなく、何でも聞いて来る。
『演劇』で言えば、本番当日。
ビズーイから短剣を受け取ったウェリスは、小首を傾げた。
兵が持っているような、何の飾りもない短剣だった。
「あそ」
「遊んでた時に」と、ウェリスは言いかけて、言い直した。
「練習してた時に使ってた短剣より、重いね」
「刺した時に、血のように赤いインクが出るようになっています。そのインクの重さ」
ビズーイの説明の途中で、
「すっげ!」
「すご~い!」
ドニとウェリスが同時に声を上げた。
さすがにビズーイは、額を手のひらで押さえた。
「一度きりなので、試したりしないでください、絶ッ対に。」
ドニとウェリスは、揃って、首を、ぶんぶん、横に振った。
――ビズーイに言われなければ、早速、二人で試していた。
ビズーイは、額から手を下ろして、言った。
「それでは、練習の通りに。」
「はいっ」
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