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4 学校
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生徒玄関で3-1の下駄箱の左上から上履きを取り、階段を上って一番端の教室に向かった。登校時間が普段より早いせいでやたら静かってこと以外、いつも通りだった。
廊下を渡りながら他の教室を流し見する。静かではあるが生徒はどのクラスにもいた。どうやら6時半頃から来ている連中は朝から勉強しているらしい。知らなかった。でももう3年で普通なら受験生か。そういう生徒がいてもおかしくない。
1組の教室まで来て音を立てないようにゆっくりドアを開ける。それでも音は鳴ってしまうから教室にいる生徒の数人は反射的にこっちを向く。
あれ?
知らない顔だった。入る前に札を確認するが3-1。ん?ん?
あ、あぁ、朝って補習とかあったりするのかな?
反射的に顔を上げた生徒たちはすぐに下を向いたが、ドアを開けたまま突っ立っている俺を不審に思ってかまたチラ見してくる。やめろっ、俺をそんな目で見るな。
仕方がない。図書室にでも行って時間をつぶそう。
図書室にも数人勉強している生徒がいた。うちの生徒ってそんな勉強熱心だったか?まあなるべく邪魔にならないように離れた席に座ろう。窓際の端っこの席に荷物を置くと適当な文庫本を手に取り、席に戻って読み始める。
しばらく読書に集中していたが、時間が経つにつれて春の日差しが入り込み暖かくなってきて、頭がぼーっとしてくる。眠い。そういえば俺4時間くらいしか寝てないんだった。
腕時計を確認すると7時半だった。朝のHRまであと1時間はある。ちょっと左右を見てみた。俺の座ってる机は前と左右に不透明の仕切りがあるため周囲に見られにくい。少し椅子を引いて体を出し、同じ机に座っている生徒を見てみるが、顔までは見えず腕が動いていなければ突っ伏しているように見えなくもない。これなら俺が寝たとしてもバレなそうだ。文庫本を机の端によけ寝る体勢をとる。黒の詰襟は春の日差しをどんどん吸収し背中を温め、俺をすぐに眠りに誘いこんだ。
......ンコーン。
「ぅん...」
今チャイムが聞こえたような...。それからカチャカチャとペン同士か当たる音やガタガタと椅子を引くような音が聞こえた。頭を上げて重たいまぶたを開く。目の前に仕切り。あれ?教室じゃない。ここどこだ?ああそうだ図書室だ。今出る準備してるってことは予鈴が鳴ったのか。HR開始のチャイムじゃなくて良かった。
文庫本を戻しリュックを右肩だけで背負って、急ぎ気味で教室に向かった。
本日2度目、3-1の教室にたどり着き、ドアを開けてすぐの俺の席に座ろうと入りかけ...、誰?俺は相澤夏帆という女子生徒の後ろの席なんだが...。入って一番前に座っているのは男。しかも見たことない奴。
「はよ-」
俺の視線に気づいてかそいつはスマホから頭を上げてゆるーく挨拶してきた。まるで友人に話しかけるように。
「なんで入んねーの?にしてもお前今日はいつにも増してギリギリじゃん。近いっていーよなー」
「えっ、ああ、うん。君誰?」
「はあ?お前何言ってんの。事故にでもあったか?」
おそらく俺の言葉を冗談として捉えたのだろう。そいつはまたスマホをいじり出した。
俺は教室を一望する。違う。いつもの教室と違う!俺は知らない。この人たちを。
そのことを自覚した瞬間、ゾクッと心臓が震え上がった。やっぱり...、おかしいんだ。昨日までは普通だったのに、今日世界がおかしくなったんだ!今日守護霊とか言ってきたあいつに出会ってから街の様子を見て、何となく突然、唐突に異変が起こったような予感がしていた。でもそんな事ありえない!そう思って色々おかしな事は考えないようにしていたけど…。もうこれは誤魔化しきれない。交番も警察本部も、そしていくつかの住宅もが一日にして更地になり、俺の通っている高校の生徒はなぜか別人になっている!
すぐにこの場から逃げ出したくなった。
「どいて」
「あっ、ごめん」
逃げ出そうとした瞬間、後ろから声が聞こえて反射的に教室に入ってしまった。その直後にチャイムが鳴る。
「やばっ」
そう言ってちょっと息上がり気味の女子生徒は俺のすぐ側を横切り、走って席に着く。それにつられて俺も焦って自分の席(誰も座ってないから多分そう)に着いてしまう。大丈夫なのか?俺がここにいても。さりげなく隣の席の生徒を見る。髪を1本縛りにして眼鏡をかけた、真面目そうな女子生徒だった。その子は俺が隣に座っても別段驚いた様子はなく、スマホの電源を切ってリュックにしまっていた。さっき話しかけてきた前の席のやつもスマホをしまっているようだった。校則は同じなのか。俺もスマホの電源を...、うん。とりあえず切っておこう。もし教師も知らないやつになっていたら面倒そうだからな。でも休み時間にこのおかしな状況を調べられたら調べたい。いきなり学校の生徒たちが別人になってたなんてどう調べりゃいいのかわからんけど...。
とにかく電源は切っておいて、いつでも取り出せるようにポケットにスマホを放り込んだ。それと同時にドアが開きびくっとする。なんかやましいことしてるみたいだ。電源は切ってるし校則は守っているんだが...。
いやっ、そんなことより!
入ってきた教師の顔を見る。あぁ、やっぱそうなのか。全くの別人、それにこの学校...、異変が起きる前の学校では見かけたことのない人だ。俺の担任は30、確か4、5あたりの、比較的若めの男性教諭なのだが、今入ってきた人は定年退職が近そうな年老いた男性教諭だ。とはいえ顔立ちは整っていて落ち着いた雰囲気を醸し出しているため、とても風格がある。身長は低めで坊主頭(ハゲというより多分わざと坊主にしていそう)というのが少し残念な感じではあるが。
「はいじゃあ号令」
随分と渋く品のある声だった。
日直であることを忘れていたのか、1拍間を置いてから慌てたように号令がかかる。その後は淡々と連絡事項が話され、あっという間にHRが終わった。
さて、この後どうするか。どうやって今日を乗り切るか。授業スタイルだとか移動教室とか変わっていたら面倒だぞ。そもそも時間割は俺が用意してきた教科であっているのか?
「荒木、行こ」
気づいたら朝話しかけてきた前の席のやつが隣に立っていた。どうやら移動教室は一緒に行くくらいの仲らしい。
「ああ。教科なんだっけ?」
「物理。つかいちいち聞くなよ-。前に貼ってあるじゃん」
そう言って親指で前を指す。その方向を見ると確かに黒板横の棚の扉に時間割が貼ってあった。
「この位置なら見えるだろ?」
「ああそうだな。悪い」
ノリが良いという訳では無さそうだが、言葉の割に口調が軽く、話しやすそうなやつでよかった。今日はなるべくこいつを頼ることにしよう。にしても物理で移動教室か…。いつもはここなんだけどな。
教室を出る前に時間割をさっと全体的に見てみたが、どうやら結構変わってしまっている。大変なことになりそうだ…。
「なあ、俺っていつもどんな感じ?」
移動中さりげなく、俺がここで、この変わってしまった学校でどう振舞えばいいのか探りを入れてみた。
「どんな感じ?えぇー、どんな感じって聞かれても」
「ああ悪い。休み時間は何してる印象が強いとか、誰とよく話してるとか、そういうの」
「えー、いちいちお前のことばっか見てるわけじゃねーからわかんねーよ」
笑い混じりにそう言われてしまった。まあ確かにそれが自然な回答だな。自分が思っている以上に周りは俺の事なんて気にしちゃいないはずだ。にしても隣の教室(3-2)じゃん。
「まあでも」
やつ(そろそろ名前が知りたい)は廊下側の1番前の席に座りながらまた口を開いた。3-1と同じ席に座ったってことは番号順なのかもしれない。俺も後ろの席に座る。
「3年になってからは俺といること多くね?1、2年の頃どうだったかは知らんけど。クラス違うし」
それだけ言うとやつは前を向いた。なるほど?つまり俺はお前を頼りにしていいわけだな?
色々不安は残しつつ、それでも安心材料を確保できてほっとしたところでチャイムが鳴った。今日一日の授業の始まりだ。さあ、俺は乗り切れるのだろうか…。
廊下を渡りながら他の教室を流し見する。静かではあるが生徒はどのクラスにもいた。どうやら6時半頃から来ている連中は朝から勉強しているらしい。知らなかった。でももう3年で普通なら受験生か。そういう生徒がいてもおかしくない。
1組の教室まで来て音を立てないようにゆっくりドアを開ける。それでも音は鳴ってしまうから教室にいる生徒の数人は反射的にこっちを向く。
あれ?
知らない顔だった。入る前に札を確認するが3-1。ん?ん?
あ、あぁ、朝って補習とかあったりするのかな?
反射的に顔を上げた生徒たちはすぐに下を向いたが、ドアを開けたまま突っ立っている俺を不審に思ってかまたチラ見してくる。やめろっ、俺をそんな目で見るな。
仕方がない。図書室にでも行って時間をつぶそう。
図書室にも数人勉強している生徒がいた。うちの生徒ってそんな勉強熱心だったか?まあなるべく邪魔にならないように離れた席に座ろう。窓際の端っこの席に荷物を置くと適当な文庫本を手に取り、席に戻って読み始める。
しばらく読書に集中していたが、時間が経つにつれて春の日差しが入り込み暖かくなってきて、頭がぼーっとしてくる。眠い。そういえば俺4時間くらいしか寝てないんだった。
腕時計を確認すると7時半だった。朝のHRまであと1時間はある。ちょっと左右を見てみた。俺の座ってる机は前と左右に不透明の仕切りがあるため周囲に見られにくい。少し椅子を引いて体を出し、同じ机に座っている生徒を見てみるが、顔までは見えず腕が動いていなければ突っ伏しているように見えなくもない。これなら俺が寝たとしてもバレなそうだ。文庫本を机の端によけ寝る体勢をとる。黒の詰襟は春の日差しをどんどん吸収し背中を温め、俺をすぐに眠りに誘いこんだ。
......ンコーン。
「ぅん...」
今チャイムが聞こえたような...。それからカチャカチャとペン同士か当たる音やガタガタと椅子を引くような音が聞こえた。頭を上げて重たいまぶたを開く。目の前に仕切り。あれ?教室じゃない。ここどこだ?ああそうだ図書室だ。今出る準備してるってことは予鈴が鳴ったのか。HR開始のチャイムじゃなくて良かった。
文庫本を戻しリュックを右肩だけで背負って、急ぎ気味で教室に向かった。
本日2度目、3-1の教室にたどり着き、ドアを開けてすぐの俺の席に座ろうと入りかけ...、誰?俺は相澤夏帆という女子生徒の後ろの席なんだが...。入って一番前に座っているのは男。しかも見たことない奴。
「はよ-」
俺の視線に気づいてかそいつはスマホから頭を上げてゆるーく挨拶してきた。まるで友人に話しかけるように。
「なんで入んねーの?にしてもお前今日はいつにも増してギリギリじゃん。近いっていーよなー」
「えっ、ああ、うん。君誰?」
「はあ?お前何言ってんの。事故にでもあったか?」
おそらく俺の言葉を冗談として捉えたのだろう。そいつはまたスマホをいじり出した。
俺は教室を一望する。違う。いつもの教室と違う!俺は知らない。この人たちを。
そのことを自覚した瞬間、ゾクッと心臓が震え上がった。やっぱり...、おかしいんだ。昨日までは普通だったのに、今日世界がおかしくなったんだ!今日守護霊とか言ってきたあいつに出会ってから街の様子を見て、何となく突然、唐突に異変が起こったような予感がしていた。でもそんな事ありえない!そう思って色々おかしな事は考えないようにしていたけど…。もうこれは誤魔化しきれない。交番も警察本部も、そしていくつかの住宅もが一日にして更地になり、俺の通っている高校の生徒はなぜか別人になっている!
すぐにこの場から逃げ出したくなった。
「どいて」
「あっ、ごめん」
逃げ出そうとした瞬間、後ろから声が聞こえて反射的に教室に入ってしまった。その直後にチャイムが鳴る。
「やばっ」
そう言ってちょっと息上がり気味の女子生徒は俺のすぐ側を横切り、走って席に着く。それにつられて俺も焦って自分の席(誰も座ってないから多分そう)に着いてしまう。大丈夫なのか?俺がここにいても。さりげなく隣の席の生徒を見る。髪を1本縛りにして眼鏡をかけた、真面目そうな女子生徒だった。その子は俺が隣に座っても別段驚いた様子はなく、スマホの電源を切ってリュックにしまっていた。さっき話しかけてきた前の席のやつもスマホをしまっているようだった。校則は同じなのか。俺もスマホの電源を...、うん。とりあえず切っておこう。もし教師も知らないやつになっていたら面倒そうだからな。でも休み時間にこのおかしな状況を調べられたら調べたい。いきなり学校の生徒たちが別人になってたなんてどう調べりゃいいのかわからんけど...。
とにかく電源は切っておいて、いつでも取り出せるようにポケットにスマホを放り込んだ。それと同時にドアが開きびくっとする。なんかやましいことしてるみたいだ。電源は切ってるし校則は守っているんだが...。
いやっ、そんなことより!
入ってきた教師の顔を見る。あぁ、やっぱそうなのか。全くの別人、それにこの学校...、異変が起きる前の学校では見かけたことのない人だ。俺の担任は30、確か4、5あたりの、比較的若めの男性教諭なのだが、今入ってきた人は定年退職が近そうな年老いた男性教諭だ。とはいえ顔立ちは整っていて落ち着いた雰囲気を醸し出しているため、とても風格がある。身長は低めで坊主頭(ハゲというより多分わざと坊主にしていそう)というのが少し残念な感じではあるが。
「はいじゃあ号令」
随分と渋く品のある声だった。
日直であることを忘れていたのか、1拍間を置いてから慌てたように号令がかかる。その後は淡々と連絡事項が話され、あっという間にHRが終わった。
さて、この後どうするか。どうやって今日を乗り切るか。授業スタイルだとか移動教室とか変わっていたら面倒だぞ。そもそも時間割は俺が用意してきた教科であっているのか?
「荒木、行こ」
気づいたら朝話しかけてきた前の席のやつが隣に立っていた。どうやら移動教室は一緒に行くくらいの仲らしい。
「ああ。教科なんだっけ?」
「物理。つかいちいち聞くなよ-。前に貼ってあるじゃん」
そう言って親指で前を指す。その方向を見ると確かに黒板横の棚の扉に時間割が貼ってあった。
「この位置なら見えるだろ?」
「ああそうだな。悪い」
ノリが良いという訳では無さそうだが、言葉の割に口調が軽く、話しやすそうなやつでよかった。今日はなるべくこいつを頼ることにしよう。にしても物理で移動教室か…。いつもはここなんだけどな。
教室を出る前に時間割をさっと全体的に見てみたが、どうやら結構変わってしまっている。大変なことになりそうだ…。
「なあ、俺っていつもどんな感じ?」
移動中さりげなく、俺がここで、この変わってしまった学校でどう振舞えばいいのか探りを入れてみた。
「どんな感じ?えぇー、どんな感じって聞かれても」
「ああ悪い。休み時間は何してる印象が強いとか、誰とよく話してるとか、そういうの」
「えー、いちいちお前のことばっか見てるわけじゃねーからわかんねーよ」
笑い混じりにそう言われてしまった。まあ確かにそれが自然な回答だな。自分が思っている以上に周りは俺の事なんて気にしちゃいないはずだ。にしても隣の教室(3-2)じゃん。
「まあでも」
やつ(そろそろ名前が知りたい)は廊下側の1番前の席に座りながらまた口を開いた。3-1と同じ席に座ったってことは番号順なのかもしれない。俺も後ろの席に座る。
「3年になってからは俺といること多くね?1、2年の頃どうだったかは知らんけど。クラス違うし」
それだけ言うとやつは前を向いた。なるほど?つまり俺はお前を頼りにしていいわけだな?
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