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アップルパイ氏の悲劇、もしくは生け贄の夜
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外では雨が降っていた。
しとしととたゆうような心地の良い雨音の中で夢を見ていた。
夢の中では頭の後ろから誰かが細い声で『・・・へは行ってはいけない』と、私に囁く。か細い女の声。いつかどこかで聞いた事のある声。しかし、誰の声だか全く思い出せない。ああ、どこで聞いたのだろうか。
それにしても、一体全体どこへ行ってはいけないと彼女は言うのだろうか。皆目解らないし、さしたる思い当たりもない。
そういえば、昔、身近な誰かが私に事あるごとに言っていたような気もするが、それも記憶が定かではない。雨が降っている。ぶーんぶーんと繰り返す雑音と囁き声。私は長い夢を見ている。耳元で、羽が震えるような雑音がうるさい。タスケテクダサイ、タスケテクダサイ、ダレカ。ワタシヲ、タスケテクダサイ。ココカラ、スクイダシテクダサイ。
私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い悪夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は見果てぬ長い夢を見ている。
終わらない悪夢への埋没。夢の中では、私はどこかのお屋敷の奥座敷と思われる場所で屍衣のような白い単をを着て身動きもせず正座をしている。凍りついたかのようにピンと張りつめた空気。何故、このような格好でここにいるのだろうか。そんな私の疑問に答えてくれる者はこの場所にはいない。
私がいる部屋には、私の他に五人の少女がいた。
五人の少女は皆、顔の上半分を半紙で隠し、能の羽衣の天女のような格好をしている。
身動きする度に、少女達の衣服に縫い付けられている鈴が鳴る。お稚児行列の幼児が被っているような金属製の冠に付けられた鈴が鳴る。
しゃらん、しゃらん。
五人の少女の内、四人は手に鈴の付いた棒を持ち、しゃらんしゃらん鳴らしながら私の周りをぐるぐる歩く。
しゃらん、しゃらん。
残りの一人の少女は、私の目の前で能面のような無表情で一心不乱に祝詞のようなものを歌うような口調で唱えている。何かの呪文だろうか。一度も聞いた事がない筈なのに、何故か私は知っているような気がした。気がつけば、私も少女と一緒に呪文を唱えていた。
呪文を幾度繰り返しただろうか。
ふと、何かがやって来ると、ぼんやりと曇りがかっていた頭にそんな事が浮かぶ。
何故、そんな事が解るのだろうか。
そう思いながら顔を上げると、少女たちの背後の障子がパタパタと次々開き始めた。
何かがやってくる、何かがやってくる、何かがやってくる。
そして、何か目に見えない不定形なものがズルズルと障子の向こうから這いずようにやってくると、次々と少女達を包みこんだ。包み込んだ途端、少女の首がもげ、不定形なジャムのようなモノが林檎の皮のように紅く染まる。
不定形なゼリーの中で、少女の首はけたけたと嬉しそうに笑っている、笑っていた。
名状しがたい恐怖を覚えて、叫ぼうとするが声にならない。ずるりと、不定形のものが私を飲み込む。ずぶずぶと体が沈んで行く。まるで体の中にジャムに犯されていく感じがする。ずるずると体に浸み込んで行くのが解る。
漸く、声にならない、叫びが喉からほとばしる。
絶叫、絶叫、絶叫。タスケテクダサイ、タスケテクダサイ、ダレカ。ワタシヲ、タスケテクダサイ。ココカラ、スクイダシテクダサイ。そして、徐々に目の前が紅く染まっていく。その後にやって来たのは、終わりのない恍惚。
タスケテクダサイ、タスケテクダサイ、ダレカ。ワタシヲ、タスケテクダサイ。ココカラ、スクイダシテクダサイ。タスケテクダサイ、タスケテクダサイ、ダレカ、タスケテ。ワタシハ、アップルパイニハナリタクナイ。
しとしととたゆうような心地の良い雨音の中で夢を見ていた。
夢の中では頭の後ろから誰かが細い声で『・・・へは行ってはいけない』と、私に囁く。か細い女の声。いつかどこかで聞いた事のある声。しかし、誰の声だか全く思い出せない。ああ、どこで聞いたのだろうか。
それにしても、一体全体どこへ行ってはいけないと彼女は言うのだろうか。皆目解らないし、さしたる思い当たりもない。
そういえば、昔、身近な誰かが私に事あるごとに言っていたような気もするが、それも記憶が定かではない。雨が降っている。ぶーんぶーんと繰り返す雑音と囁き声。私は長い夢を見ている。耳元で、羽が震えるような雑音がうるさい。タスケテクダサイ、タスケテクダサイ、ダレカ。ワタシヲ、タスケテクダサイ。ココカラ、スクイダシテクダサイ。
私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い悪夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は長い夢を見ている。私は見果てぬ長い夢を見ている。
終わらない悪夢への埋没。夢の中では、私はどこかのお屋敷の奥座敷と思われる場所で屍衣のような白い単をを着て身動きもせず正座をしている。凍りついたかのようにピンと張りつめた空気。何故、このような格好でここにいるのだろうか。そんな私の疑問に答えてくれる者はこの場所にはいない。
私がいる部屋には、私の他に五人の少女がいた。
五人の少女は皆、顔の上半分を半紙で隠し、能の羽衣の天女のような格好をしている。
身動きする度に、少女達の衣服に縫い付けられている鈴が鳴る。お稚児行列の幼児が被っているような金属製の冠に付けられた鈴が鳴る。
しゃらん、しゃらん。
五人の少女の内、四人は手に鈴の付いた棒を持ち、しゃらんしゃらん鳴らしながら私の周りをぐるぐる歩く。
しゃらん、しゃらん。
残りの一人の少女は、私の目の前で能面のような無表情で一心不乱に祝詞のようなものを歌うような口調で唱えている。何かの呪文だろうか。一度も聞いた事がない筈なのに、何故か私は知っているような気がした。気がつけば、私も少女と一緒に呪文を唱えていた。
呪文を幾度繰り返しただろうか。
ふと、何かがやって来ると、ぼんやりと曇りがかっていた頭にそんな事が浮かぶ。
何故、そんな事が解るのだろうか。
そう思いながら顔を上げると、少女たちの背後の障子がパタパタと次々開き始めた。
何かがやってくる、何かがやってくる、何かがやってくる。
そして、何か目に見えない不定形なものがズルズルと障子の向こうから這いずようにやってくると、次々と少女達を包みこんだ。包み込んだ途端、少女の首がもげ、不定形なジャムのようなモノが林檎の皮のように紅く染まる。
不定形なゼリーの中で、少女の首はけたけたと嬉しそうに笑っている、笑っていた。
名状しがたい恐怖を覚えて、叫ぼうとするが声にならない。ずるりと、不定形のものが私を飲み込む。ずぶずぶと体が沈んで行く。まるで体の中にジャムに犯されていく感じがする。ずるずると体に浸み込んで行くのが解る。
漸く、声にならない、叫びが喉からほとばしる。
絶叫、絶叫、絶叫。タスケテクダサイ、タスケテクダサイ、ダレカ。ワタシヲ、タスケテクダサイ。ココカラ、スクイダシテクダサイ。そして、徐々に目の前が紅く染まっていく。その後にやって来たのは、終わりのない恍惚。
タスケテクダサイ、タスケテクダサイ、ダレカ。ワタシヲ、タスケテクダサイ。ココカラ、スクイダシテクダサイ。タスケテクダサイ、タスケテクダサイ、ダレカ、タスケテ。ワタシハ、アップルパイニハナリタクナイ。
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