もう死んでしまった私へ

ツカノ

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前世の彼女が知らない話と魔女のような聖女

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思えば、奇妙な双子の兄妹だった。

彼のことを知ったのは、姉が残した王家と婚約が結ばれた姪である『彼女』の家に養子として入った話を聞いた時だった。近縁の者ではなく辛うじて血が繋がっているかもしれない亡国の聖女の末裔の子孫を選んだと聞いて、周囲はかなり驚いていたものだった。

『彼女』の先祖が滅ぼした国の聖女の末裔。

聖女は何かを供物にすることによって、他者の願いを叶えることができたという。その力は洗脳のように抗えぬ程に絶大で、聖女の国を滅ぼす際に我々の先祖はかなり苦労したらしい。かの国にとっては聖女でも、我が国にとっては禍をもたらす魔女のような女だったのは言うまでもなく。その聖女に立ち向かったのが、数代前に王妃を輩出した姉が嫁いだ家の先祖だった。

多大な犠牲を払って勝利した『彼女』の先祖が下した聖女の末路は、陰惨で。話に寄れば、拷問の末に娼婦として売られた挙句に悪質な客に刺殺された聖女は死に際に『彼女』の家を呪い、その後何十年も数々の不幸をもたらしたという。余りに不幸が続いた為、呪いを鎮めるため我が国の魔女のご託宣により数代前の先祖が聖女の末裔を探して婚姻を結び、祟り避けの家と呼ばれた家が兄妹の実家であった。

その祟り避けの家と呼ばれる家の少年を『彼女』の父親は、周囲の反対を気にした様子もなく自分の後継者として迎え入れたのである。それだけではなく、彼を養子に迎えてから、彼の妹を実娘よりも可愛がり、その上血の繋がった実弟や死んだ妻の身内からも遠ざり付き合いを殆ど絶ったのだった。

今更だが、その時に周囲は、もう少し疑ってみるべきだったのかもしれない。

少なくとも、溌剌とした美少女の妹がいるとは思えない目は虚ろで青黒い顔色の彼を迎え入れた途端に、それまで溺愛していた筈の実の娘に義兄が見向きもしなくなったことに違和感を覚えるべきだったと、かの兄妹がいなくなった後に思っても、全ては後のまつりで。『彼女』に近しい血縁すら何の違和感を覚えなかったことが、謎の一つなのかもしれない。

謎は、それだけではない。

何故、彼の妹が登城を厭う我が儘な『彼女』の代わりと称して、婚約者に会いに来ていたのを誰も不思議に思わなかったのか。
何故、彼が養子に来てから交流の為に屋敷へ足を運んでも婚約者は、邪悪な『彼女』には一度も会えずに、彼の妹が代わりに婚約者のように振るまい歓待したのか。
何故、彼の妹が聖女のように『彼女』の家や婚約者の周囲で崇拝されていたのか。
何故、『彼女』の婚約者の側近候補たちが、次々に虚ろな目に青黒い顔になった上に、『彼女』がいなくなった後、ほぼ全員家系図からも『いない者』とされたのか。
何故、『彼女』の婚約者は学園を卒業する筈の年に謎の病に倒れ、そのまま通学も卒業せずに廃嫡されたのか。
何故、『彼女』はその卒業パーティーが行われる予定だった夜に行方不明になったのか。

それだけではなく、『彼女』がいなくなった屋敷から、養子を取った頃にはすでに死亡していたような『彼女』の父親や使用人の木乃伊のような死体が見つかったのは、どうしてなのだろうか。

いったい、あの兄妹は何者だったのだろうか。
おかしいと気がついた時には、あの兄妹も生家も綺麗に消えていたのである。王太子の婚約者で有力な貴族が一夜で全滅した事態を重く見た王家は、彼らの生家を詳しく調査したと聞くが詳細は未だにつまびらかにはされていない。

一つだけ解っていることは、『彼女』がすでに死んでしまっていること。

何故なら、『彼女』はいなくなった時に所持していたと思われる姉の遺品を手に握り締めて、私の娘として生まれたから。このことは魔力のある家には、偶に起こる事象なので何も不思議ではないけれど。

できることなら、娘には前世に囚われることなく生きて欲しいけれど、何故か『彼女』の義兄の妹とうり二つの男爵令嬢や娘の年上の婚約者を見かける度に、そう簡単には行きそうもないとため息をつくしかなかったのだった。

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(注)色々な食い違いの理由や内容は、この後明らかになる予定です。『信用できない語り手』はどれだ。。。みたいな感じです。
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