不思議小話 ピンキリ

そうすみす

文字の大きさ
上 下
41 / 41

第41話 救いの風邪?

しおりを挟む
 少林寺の気功のお陰なのか、ここ数年、頭痛と貧血以外の体調不良はほぼなくなった。今は月に一週間ぐらい増血剤を飲んでいるので貧血も治り、頭痛も貧血由来だったようで、以前と比べると格段に軽く少なくなってきている。

 しかし、一度だけやや酷い風邪を引いたことがあった。それは二〇二〇年の二月の頭である。

 熱は出なかったのだが、とにかく喉の痛みと鼻水が凄まじかった。咳は止まらなくなると苦しく体力も消耗するので、気合いと根性で最低限にとどめた。

 両親も私も特にアレルギー等はなかったので、家族全員マスクを着ける習慣なんてなかった。出先でマスクを着用している人を見掛けると、私の両親は『花粉の時期でもないのに、どうしてマスクなんかしてるんだろうね?』とさげすんでいたほどだ。別にいーじゃん、と私は思ったが……。

 とは言え、風邪を職場の同僚に感染うつしてはいけないので、私はドラッグストアでマスクを一箱買い、一週間マスクを着用して仕事をした。

 そして風邪も治り、マスクの入った箱はリビングのすみに置かれたまま、存在すら忘れられた。

 それから一ヶ月も経たないうちだった。あの新型ウイルスの感染が日本で本格的に騒がれるようになったのは。

 店頭からマスクは消え、全く手に入らなくなった。

 それまでマスクに否定的だった両親でさえもさすがに困った。これまでのウイルスとは異なる全く未知のウイルス。危険で得体が知れない。感染予防のため、どこもかしこもマスク着用が求められる。だがどのお店もマスクは品切れ。

……ふと、私は思い出した。

 そう言えば、この前風邪を引いた時に一箱買ったのだった。確かまだ五枚しか使っていなかったので、残りは十分にある。

 けれども、またいつ購入できるか分からないので、一枚を洗ったり消毒したりして三~四日は使用した。

 その甲斐あって、次に手に入る時まで凌ぐことができた。

 不思議だった。何年も風邪を引いたことのない私が、あのタイミングで真面まともな(?)風邪を引くとは……。
 
 あの時風邪を引かなければ、きっとマスクを買うことはなかった。特に両親はマスクに否定的で、それに私も鈍くさく危機感が薄い方なので、必要だと気付いた頃にはもう手遅れになって購入できなかっただろう。

 結果的には助かったので、あれは救いの風邪だと信じ、今も感謝している。 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

限界集落

宮田 歩
ホラー
下山中、標識を見誤り遭難しかけた芳雄は小さな集落へたどり着く。そこは平家落人の末裔が暮らす隠れ里だと知る。その後芳雄に待ち受ける壮絶な運命とは——。

歩きスマホ

宮田 歩
ホラー
イヤホンしながらの歩きスマホで車に轢かれて亡くなった美咲。あの世で三途の橋を渡ろうとした時、通行料の「六文銭」をモバイルSuicaで支払える現実に——。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...