不思議小話 ピンキリ

そうすみす

文字の大きさ
上 下
37 / 41

第37話 私のことをよく知っている知らないおじさん

しおりを挟む
 あのおじさん(Kさん)に初めて出会ったのはいつのことなのか、私にも分からない。

 今思い出せる一番古い出会いは、十数年前、私が地元の半導体工場に勤めていた時のこと。
 
 私にとっては初めましてだったのだが、どうやらKさんは私をよく知っているようだった。

 私のことを下の名前にちゃん付けで呼び、親しげにいろいろな話をしてくる。年齢は五十代半ば~後半だろう。気さくでとても雰囲気が良い。工場内で時々会うことがあったので、いろいろお喋りをしたのを覚えている。

 私の両親の友人かと思ったのだが、両親に訊いてもKさんのことは知らないと言っていた。

 それから何年かち、都合でその半導体工場を辞めて職業訓練校に行くと、なんとKさんがいた。

 そこにKさんがいたことにも驚いたが、Kさんがあの半導体工場を私と同じタイミングで退職していたことの方が意外だった。

 もっとも、あの時は工場の業績が悪化している時期だったので、Kさんも私と同様に先行きが不安になって転職を決意したのかもしれない。

 そして職業訓練校を卒業し、職探しのためにハローワークに行くと、またそこでKさんに会った。『この歳になると、なかなか決まらなくてねぇ……』などとぼやいていた。

 それからまた何年か経ち、あれは確か六年前だったと思う。伯父が亡くなり、私も手伝いのために母親の実家に行っていたのだが、そこでなんとあのKさんがご焼香しょうこうにやって来た。

 『あれ? 〇〇ちゃん(私のこと)も来てたの?』と訊かれ、『私の伯父なんです』と答えると、『あ~そうだったんだね』とKさんは少し驚いていた。 伯父とはそれなりに付き合いがあったようだ。

 それにしても疑問なのはKさんの年齢である。あくまで私の見立てでしかないが、初めて出会った時点ですでに五十代半ば~に見えた。

 だが、ご焼香に来た時に話をしたら、ある資格を取るために勉強を始めたとかで『まぁ、五十過ぎての手習いだよ』などと笑いながら言っていた。

 ただ単に年齢より老けて見えるタイプなのかもしれないが、私が思っていたより実年齢は若かったようだ。

 Kさんに会ったのは伯父が亡くなった時で最後だが、また忘れた頃にどこかでばったり再会するのではなかろうか?

 好感の持てる人好きな人物だが、神出鬼没しんしゅつきぼつでどうにも小気味こぎみの悪いおじさんである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

歩きスマホ

宮田 歩
ホラー
イヤホンしながらの歩きスマホで車に轢かれて亡くなった美咲。あの世で三途の橋を渡ろうとした時、通行料の「六文銭」をモバイルSuicaで支払える現実に——。

ショートホラーストーリー「帰宅途中に」

『むらさき』
ホラー
短い短編です。帰宅途中などに読んでもらうと幸いです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

アポリアの林

千年砂漠
ホラー
 中学三年生の久住晴彦は学校でのイジメに耐えかねて家出し、プロフィール完全未公開の小説家の羽崎薫に保護された。  しかし羽崎の家で一ヶ月過した後家に戻った晴彦は重大な事件を起こしてしまう。  晴彦の事件を捜査する井川達夫と小宮俊介は、晴彦を保護した羽崎に滞在中の晴彦の話を聞きに行くが、特に不審な点はない。が、羽崎の家のある林の中で赤いワンピースの少女を見た小宮は、少女に示唆され夢で晴彦が事件を起こすまでの日々の追体験をするようになる。  羽崎の態度に引っかかる物を感じた井川は、晴彦のクラスメートで人の意識や感情が見える共感覚の持ち主の原田詩織の助けを得て小宮と共に、羽崎と少女の謎の解明へと乗り出す。

【完結】本当にあった怖い話 コマラセラレタ

駒良瀬 洋
ホラー
ガチなやつ。私の体験した「本当にあった怖い話」を短編集形式にしたものです。幽霊や呪いの類ではなく、トラブル集みたいなものです。ヌルい目で見守ってください。人が死んだり怖い目にあったり、時には害虫も出てきますので、苦手な方は各話のタイトルでご判断をば。 ---書籍化のため本編の公開を終了いたしました---

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結済】僕の部屋

野花マリオ
ホラー
僕の部屋で起きるギャグホラー小説。 1話から8話まで移植作品ですが9話以降からはオリジナルリメイクホラー作話として展開されます。

お化け団地

宮田 歩
ホラー
「お化け団地」と呼ばれている朽ち果てた1階に住む不気味な老婆。彼女の部屋からは多頭飼育された猫たちがベランダから自由に出入りしていて問題になっていた。警察からの要請を受け、猫の保護活動家を親に持つ少年洋介は共に猫たちを捕獲していくが——。

処理中です...