不思議小話 ピンキリ

そうすみす

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第34話 不思議な同僚

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 私の両親は若い頃、ボーリング場に勤めていた。当時ボーリングは最盛期で、特に若者には人気だった。

 今とは違い、他に娯楽があまりなかったためでもあると思うが、視覚障がい者の方達が大勢で遊びに来ることもあった。

 しかし、やはり見えないせいなのだろう。隣のレーンに投げてしまったり、はたまたレーンとは全然違う方向に投げてしまうこともしばしば……。物損・人身事故がなかったのは幸いである。

 そんなふうに、とにかく猫も杓子しゃくしもボーリング! の時代だったので、毎日昼夜を問わず大忙しだった。

 そんな中ある日、一人の女性(Uさん)が入社してきた。

 Uさんは簿記の資格を持っており、社長は大喜び。今まで社長が経理等を担当していたが、これからはUさんに任せることにした。

 ……が……

 Uさんは事務所で算盤そろばんを弾き(この頃は計算機などほとんど出回っていなかった)、しばらくパチパチと計算していたのだが、ある瞬間にピタリと動きを止め、完全静止したまま正面の壁をじーーーっと見つめる。

 十数秒間の完全静止の後、何を思ったのか、算盤を傾けてリセットすると、上段の五玉をシャアアアっと戻して、また最初から計算を始める。

 Uさんのそんな謎の行動を、当時私の両親とその同僚は何度か目撃したことがあった。

 それだけなら、仕事中にちょっとボンヤリしてしまっただけだろうとも言えるのだが、Uさんの奇異きいぶりは他にもあった。

 普段お喋りをしていて、話題によっては何か簡単な計算が少し入ったりすることもあったのだが、Uさんはそのような計算が誰よりも苦手で遅かった。

 これは私の両親の推測なので確かではないが、もしかしたら掛け算九九すら真面まともに覚えていなかったのでは? とのこと。

 だが、掛け算九九も覚えていない人間が、簿記の資格など取れるのだろうか?

 私は両親にそう訊ねたが、それに関しては両親も未だに分からないらしい。

 深夜に男性の同僚と二人のシフトを組まれた時など、Uさんは毎回『やだぁ、〇〇君に襲われちゃったりしてぇ♥』とか体をクネクネさせながら喜んでいたりもした。

 ちなみにUさんと組んだ男性の同僚は皆『いや、あいつだけは頼まれても絶対襲わん!』と断言していた。

 とにかく、ただ『天然』の一言では片付けられない人物だった。

 それから十数年後、Uさんは首吊り自殺をしてしまった。原因はノイローゼだそうだが、これも本当かどうかは私の両親にも分からない。

 
 そしてこれは最近の話なのだが、私の母親がパートで勤めているコンビニに、Uさんの娘さんが同じくパートで入社してきた。

 私の母親も最初は気付かなかったのだが、いろいろと話をするうちに、Uさんの娘さんだということが判明したのだとか。

 その娘さんもUさん譲りか、良くも悪くもかなりの奇異人間だそうだ。母親は『最初からちょっとイヤな感じがしたと思ったら、やっぱり……』と言っていた。野性の勘でも働いたのだろう。

 私はUさんにもその娘さんにも会ったことがないので何とも言えないが、とりあえず自殺だけはしないでほしいものである。
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