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第32話 本当に大切なこと
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確か昨年の今頃、少林寺のS先生が某TV番組に出演することになった。
S先生はそういったことにはあまり興味がなく、お断りしようとしたらしいが、S先生の師匠であるT先生に『少林寺を多くの人達に知ってもらう良い機会になるから』と勧められ、引き受けたのだった。
放送日時と番組名を教えてもらったので、私もその番組を観た。
二人の番組司会者がいろいろな武器の扱いを挑戦するコーナーになり、いよいよS先生が登場した。
三節棍(棒が三本繫がったヌンチャクのような物)での演武。素人なら確実に自分の頭や体にバシバシ当たってしまう、かなり扱いの難しい武器だが、もちろんS先生はクールに完璧に一つのミスもなく演武をこなし、最後に掛け声と同時に正拳突きの構えで終了した。
S先生が一礼して去ったあと、司会者の一人が笑って拳を突き出しながら『え~? あれだけ振り回して、最後にコレかよぉ~ww!』と小莫迦にしたようなコメントを吐いた。
少林寺とS先生を莫迦にされたようで、私はカチン! と来た。特にその司会者のファンというわけではなかったのだが、私の中で好感度が急降下した。
もし私があの場にいたら、その司会者を怒鳴り付けていたことだろう。
それから数日後、少林寺の教室の練習に行き、休憩時間にS先生とお喋りをした。
私:先生、TV観ましたよ。カッコ良かったですねー。
S先生:そうですかぁ~。ありがとうございます。
私:それにしても、演武の後のあの発言はちょっとムカッとしました。
S先生:まぁいいじゃないですか。みんなちょっと笑って楽しかったですし。
てっきり、あの司会者を無礼な輩だとでも言うのかと思いきや、S先生は別段気にする様子もなく普通に笑って答えた。
その時は不思議に思ったが、私は後になって理解した。
あの司会者の発言で、特定の誰かの名誉を傷付けるわけでもなく、ましてや何ら害が及ぶわけでもない。
大切なのは、あの時みんなが一時でも楽しいと感じられて良かったということ。S先生はそう言いたかったのだろう。
達人に近付けば近づくほど寛容になり度量も大きくなり、そしてあらゆる物事において、何が本当に大切なのかを知るようになるのである。
私はまだまだ短気でお莫迦だったのだ。でもそんな人間を目指したい。
S先生はそういったことにはあまり興味がなく、お断りしようとしたらしいが、S先生の師匠であるT先生に『少林寺を多くの人達に知ってもらう良い機会になるから』と勧められ、引き受けたのだった。
放送日時と番組名を教えてもらったので、私もその番組を観た。
二人の番組司会者がいろいろな武器の扱いを挑戦するコーナーになり、いよいよS先生が登場した。
三節棍(棒が三本繫がったヌンチャクのような物)での演武。素人なら確実に自分の頭や体にバシバシ当たってしまう、かなり扱いの難しい武器だが、もちろんS先生はクールに完璧に一つのミスもなく演武をこなし、最後に掛け声と同時に正拳突きの構えで終了した。
S先生が一礼して去ったあと、司会者の一人が笑って拳を突き出しながら『え~? あれだけ振り回して、最後にコレかよぉ~ww!』と小莫迦にしたようなコメントを吐いた。
少林寺とS先生を莫迦にされたようで、私はカチン! と来た。特にその司会者のファンというわけではなかったのだが、私の中で好感度が急降下した。
もし私があの場にいたら、その司会者を怒鳴り付けていたことだろう。
それから数日後、少林寺の教室の練習に行き、休憩時間にS先生とお喋りをした。
私:先生、TV観ましたよ。カッコ良かったですねー。
S先生:そうですかぁ~。ありがとうございます。
私:それにしても、演武の後のあの発言はちょっとムカッとしました。
S先生:まぁいいじゃないですか。みんなちょっと笑って楽しかったですし。
てっきり、あの司会者を無礼な輩だとでも言うのかと思いきや、S先生は別段気にする様子もなく普通に笑って答えた。
その時は不思議に思ったが、私は後になって理解した。
あの司会者の発言で、特定の誰かの名誉を傷付けるわけでもなく、ましてや何ら害が及ぶわけでもない。
大切なのは、あの時みんなが一時でも楽しいと感じられて良かったということ。S先生はそう言いたかったのだろう。
達人に近付けば近づくほど寛容になり度量も大きくなり、そしてあらゆる物事において、何が本当に大切なのかを知るようになるのである。
私はまだまだ短気でお莫迦だったのだ。でもそんな人間を目指したい。
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