不思議小話 ピンキリ

そうすみす

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第27話 初対面(?)の元同僚

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 三、四年前のこと。

 仕事帰り、いつも利用するセルフのガソリンスタンドで給油をしていた時、隣のレーンにいた中年男性がこちらを見て、親しげに笑いながら手を振ってきた。

 もしかして他の人に向かって手を振っているのかな? と思ったのだが、その男性は私の側までやって来た。

 ? 誰だろうこの人? 感じのいい男性だが、見知らぬ人物だった。

 「〇〇〇ちゃん、久しぶり!」

 男性が言った。

 「はい? ええと確か……?」

 私も一応笑顔で返事をしたが、ハジメマシテの感覚しかない。

 「ほら、(株)JPD(仮企業名)の☆☆☆だよ! 〇〇〇ちゃん、元気そうだね」

 確かに、(株)JPD(仮企業名)は私がかつて勤めていた会社で、私は皆に〇〇〇ちゃんというニックネームで呼ばれていた。一時期業績が悪化し、私はその時に先行きを案じて退職した。人間関係は良い方だったので、今でもそこの同僚とは出先で会えば普通に挨拶をしている。

 でも、全っ然思い出せない! ヤバい! どうしよう?

 大抵、長く会っていない友人でも、顔か名前かのどちらかは覚えているものなのだが、この人物に関してはいずれも私の記憶にはなかった。

 ココハドコ? アナタハダレ? 

 まあ、場所は行き付けのガソリンスタンドなのだが、アナタハダレ? は冗談抜きで、脳内でエンドレスリピートしていた。

 他部署の方だったのかな? でも私のことを覚えていて、しかもこうして割りと親しげに声を掛けてくるとなると、浅からぬ交流があったのだろう。

 ………が、ああ、やっぱり思い出せない!

 でも、どなたですか? と訊ける雰囲気ではないので、もうここは『久しぶりにお会いできてマジ嬉しいです!』な具合で、取りつくろうしかなかった。

 「ああ、そうでしたね♪ お久しぶりですヾ(≧▽≦)ノ 皆さんもお元気ですか?」

 我ながら秀逸しゅういつな演技力に感心。

 その後、給油待ちの車が結構並んでいたこともあったので、二言三言ふたことみことだけ交わして『じゃあ、皆さんによろしくお伝えください!』と調子良く別れた。

 長く喋っていたら、10,000%ボロを出していた自信がある。あの時は混雑していたことが幸いした。

 

 はなはだだ謎の出来事であり、謎の人物だった。

 私が若年性認知症を発症してしまったのか、それともあの男性が平行世界パラレルワールドから自覚なく迷い込んできた人物なのか……?

 絶対後者だ、と私は信じている。
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