不思議小話 ピンキリ

そうすみす

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第20話 3.11のカミナリオヤジ

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 これは私の友人から聞いた話だが、その友人もさらに又聞またぎきなので、どこまでが事実なのかは不明である。

 パチンコ好きな二十代(←当時)男性Kさんの体験談。

 仕事が休みだったこの日もKさんはパチンコをしていた。珍しく大当たりし、ジャンジャンバリバリ出まくっていたとのこと。

 そんな上機嫌で最高潮にウハウハだった時に、突然揺れ出した。

 最初は小さな揺れだったが、次第に激しくなってきた。

 店全体が大きく揺れている。ドドドドドドドドド! と物凄い轟音ごうおんで床と天井がうねり、積んであったパチンコ玉も崩れて散乱してしまった。

 いつもの地震ではない。立っていられない。天地が引っくり返るのではないかと思うほどの大地震で、さすがに危険を感じた客達は、揺れとパチンコ玉で転びそうになりながらも、大急ぎで外へと逃げていった。

 2011年3月11日14時46分。東日本大震災である。

 数分間にもおよんだ大揺れはようやく収まったが、まだ余震(と呼ぶにはかなり大きな揺れ)が続いていた。

 Kさんはまだパチンコ店の中にいた。客も従業員もいなくなってしまった店内に、たった一人で台にしがみ付いていた。

 あまりの恐怖で動けなかったわけではなく、大当たりの真っ最中だったので、パチンコを続けたい一心で残っていたのだ。停電になってしまったというのに。

 震度6強の大地震の最中にパチンコを優先させたのだから、もうきもわっているのか、ただの莫迦なのか分からない。

 それからも大きな余震はずっと続き、店全体がギシギシと音を立てて揺れていた。

 Kさんはまだあきらめが付かずに、暗くなった店内をウロウロと歩き出した。ここまで来ると、もはや症候群シンドロームいきである。

 それから何秒もたないうちに、

 「なぁにしてんだ、コラ!!!」 
 
 と、店の奥から男性の尋常じんじょうではない怒鳴り声が聞こえた。

 振り返ると、六十手前ぐらいの男性が歩いてきた。

 「(1※)ごっこと外ぉ出んだよ!! この(※2)デレスケがっ!!」

 その凄まじい剣幕けんまくにKさんは驚き、なかば反射的に謝りながら、慌てて外へ飛び出した。震度6強の地震より恐かったようだ。

 駐車場に出て間もなく、店の中でダダダーン! と大きな音がした。

 のぞき見ると、先程までKさんがいた通路の天井板が一部崩落ほうらくしていた。

 古いパチンコ店だったので、かなり劣化れっかが進んでいたのだろう。

 それより、あの怒鳴り付けてきた男性のことが気掛かりだった。

 
 しかし、その後いくら捜索しても、店内からあの男性は発見されなかった。

 後になってから、Kさんは思い出した。あの時、あの男性の足音が全く聞こえなかったことと、それに、パチンコ玉がそこら中に散乱する床を平然と歩いていたことを。

 あの男性が何者だったのかは謎だが、Kさんは今でも感謝しているそうだ。

 パチンコの頻度ひんどもほどほどになった? かどうかは分からない……。


●(1※)ごっこと:早く、急いで、という意味。使用されている地域はおそらく筆者の住む集落。ごく局地的?

●(※2)デレスケ:バカ、アホ、マヌケ等ののしりの言葉。主に福島、茨城、栃木、千葉で使用されている。
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