不思議小話 ピンキリ

そうすみす

文字の大きさ
上 下
13 / 41

第13話 藤色のコートを着た人

しおりを挟む
 去年の十一月頃からの出来事。

 休日はいつも近所の公園をジョギングする。行く時間はまちまちなのだが、ほぼ毎回、藤色のコートを着た三十歳前後の男性と二、三回はれ違う。

 その男性はフードをかぶり、ファスナーを一番上まで上げ、えりの部分をひもでしっかり結び、ラジオを聞きながら、脇目わきめらずただただ黙々もくもくとウォーキングをしている。

 アスレチックやテニスコート等、諸々もろもろの施設を含めると約60ヘクタールの公園で、細い道太い道たくさんあるのに、同じ人と二回も三回も擦れ違うのはちょっと珍しいなと思ったが、まあそんなこともあるかと特に気にしなかった。

 ある週末、隣町へ買い物に行った時のこと、せっかくなのでこの日は気分を変えて、こちらの公園を走ってみることにした。地元の公園よりは小ぢんまりとしているが、丘の上はとても景色が良いので気に入っている。

 すると、背後から何やらガヤガヤと話し声が近付いてくる。ラジオか何かの音声のようだ。

 振り返ると、見覚えのある藤色のコートの男性が歩いてくるのが見えた。

 びっくりして、人違いだろうと思ってもう一度見たが(あまりジロジロ見るのは失礼だが)、私の地元の公園で擦れ違うあの男性に間違いなかった。

 私は立ち止まって道のはしにより、男性が通り過ぎてから再び走り始めた。

 ……まあ、偶然だろう。あの男性もこの近辺に住んでいるとしたら、利用する公園も一か所とはかぎらないのだから。

 
 そして平日。週二回程度、仕事帰りに少しだけ走ることにしている。日が短い秋冬だと、いつもの公園に隣接する観光牧場内が良い。所々外灯もあり、閉店後のレストランや売店も中はあかりがいているので、足元が見える程度には薄明うすあかるいからだ。

 もう少しで一回りする辺りで、何やらガヤガヤと大勢の話し声が聞こえてきて、だんだんと近付いてきた。

 普段、こんな夜に大勢の人は来ない。せいぜい、日帰り温泉やコテージを利用しているお客さんがたまに散策さんさくしている程度なのだ。

 このガヤガヤ音、聞き覚えがある。

 私は恐ろしくなり、近くの売店のかげに隠れた。

 のぞき見ると、やはりあの藤色のコートの男性が歩いてきた。

 この時初めて気付いたのだが、ラジオの音声が日本語ではない。英語でもドイツ語でも中国語でも韓国語でも……とにかく、私の知りる言語ではなかった。

 男性はいつもの格好かっこうで、やはりただ脇目も振らずに黙々と歩き去って行った。

 なぜ私のジョギングする時間と場所に、必ず出没しゅつぼつするのだろう? ……とか、もしかしたらお互い様だったりして……。

 実害は一切いっさいないので、単に、外国語を勉強しながらウォーキングをする人……だと思うことにしている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

歩きスマホ

宮田 歩
ホラー
イヤホンしながらの歩きスマホで車に轢かれて亡くなった美咲。あの世で三途の橋を渡ろうとした時、通行料の「六文銭」をモバイルSuicaで支払える現実に——。

ショートホラーストーリー「帰宅途中に」

『むらさき』
ホラー
短い短編です。帰宅途中などに読んでもらうと幸いです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

アポリアの林

千年砂漠
ホラー
 中学三年生の久住晴彦は学校でのイジメに耐えかねて家出し、プロフィール完全未公開の小説家の羽崎薫に保護された。  しかし羽崎の家で一ヶ月過した後家に戻った晴彦は重大な事件を起こしてしまう。  晴彦の事件を捜査する井川達夫と小宮俊介は、晴彦を保護した羽崎に滞在中の晴彦の話を聞きに行くが、特に不審な点はない。が、羽崎の家のある林の中で赤いワンピースの少女を見た小宮は、少女に示唆され夢で晴彦が事件を起こすまでの日々の追体験をするようになる。  羽崎の態度に引っかかる物を感じた井川は、晴彦のクラスメートで人の意識や感情が見える共感覚の持ち主の原田詩織の助けを得て小宮と共に、羽崎と少女の謎の解明へと乗り出す。

【完結】本当にあった怖い話 コマラセラレタ

駒良瀬 洋
ホラー
ガチなやつ。私の体験した「本当にあった怖い話」を短編集形式にしたものです。幽霊や呪いの類ではなく、トラブル集みたいなものです。ヌルい目で見守ってください。人が死んだり怖い目にあったり、時には害虫も出てきますので、苦手な方は各話のタイトルでご判断をば。 ---書籍化のため本編の公開を終了いたしました---

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結済】僕の部屋

野花マリオ
ホラー
僕の部屋で起きるギャグホラー小説。 1話から8話まで移植作品ですが9話以降からはオリジナルリメイクホラー作話として展開されます。

お化け団地

宮田 歩
ホラー
「お化け団地」と呼ばれている朽ち果てた1階に住む不気味な老婆。彼女の部屋からは多頭飼育された猫たちがベランダから自由に出入りしていて問題になっていた。警察からの要請を受け、猫の保護活動家を親に持つ少年洋介は共に猫たちを捕獲していくが——。

処理中です...