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第13話 藤色のコートを着た人
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去年の十一月頃からの出来事。
休日はいつも近所の公園をジョギングする。行く時間はまちまちなのだが、ほぼ毎回、藤色のコートを着た三十歳前後の男性と二、三回は擦れ違う。
その男性はフードを被り、ファスナーを一番上まで上げ、襟の部分を紐でしっかり結び、ラジオを聞きながら、脇目も振らずただただ黙々とウォーキングをしている。
アスレチックやテニスコート等、諸々の施設を含めると約60ヘクタールの公園で、細い道太い道たくさんあるのに、同じ人と二回も三回も擦れ違うのはちょっと珍しいなと思ったが、まあそんなこともあるかと特に気にしなかった。
ある週末、隣町へ買い物に行った時のこと、せっかくなのでこの日は気分を変えて、こちらの公園を走ってみることにした。地元の公園よりは小ぢんまりとしているが、丘の上はとても景色が良いので気に入っている。
すると、背後から何やらガヤガヤと話し声が近付いてくる。ラジオか何かの音声のようだ。
振り返ると、見覚えのある藤色のコートの男性が歩いてくるのが見えた。
びっくりして、人違いだろうと思ってもう一度見たが(あまりジロジロ見るのは失礼だが)、私の地元の公園で擦れ違うあの男性に間違いなかった。
私は立ち止まって道の端により、男性が通り過ぎてから再び走り始めた。
……まあ、偶然だろう。あの男性もこの近辺に住んでいるとしたら、利用する公園も一か所とは限らないのだから。
そして平日。週二回程度、仕事帰りに少しだけ走ることにしている。日が短い秋冬だと、いつもの公園に隣接する観光牧場内が良い。所々外灯もあり、閉店後のレストランや売店も中は灯りが点いているので、足元が見える程度には薄明るいからだ。
もう少しで一回りする辺りで、何やらガヤガヤと大勢の話し声が聞こえてきて、だんだんと近付いてきた。
普段、こんな夜に大勢の人は来ない。せいぜい、日帰り温泉やコテージを利用しているお客さんがたまに散策している程度なのだ。
このガヤガヤ音、聞き覚えがある。
私は恐ろしくなり、近くの売店の陰に隠れた。
覗き見ると、やはりあの藤色のコートの男性が歩いてきた。
この時初めて気付いたのだが、ラジオの音声が日本語ではない。英語でもドイツ語でも中国語でも韓国語でも……とにかく、私の知り得る言語ではなかった。
男性はいつもの格好で、やはりただ脇目も振らずに黙々と歩き去って行った。
なぜ私のジョギングする時間と場所に、必ず出没するのだろう? ……とか、もしかしたらお互い様だったりして……。
実害は一切ないので、単に、外国語を勉強しながらウォーキングをする人……だと思うことにしている。
休日はいつも近所の公園をジョギングする。行く時間はまちまちなのだが、ほぼ毎回、藤色のコートを着た三十歳前後の男性と二、三回は擦れ違う。
その男性はフードを被り、ファスナーを一番上まで上げ、襟の部分を紐でしっかり結び、ラジオを聞きながら、脇目も振らずただただ黙々とウォーキングをしている。
アスレチックやテニスコート等、諸々の施設を含めると約60ヘクタールの公園で、細い道太い道たくさんあるのに、同じ人と二回も三回も擦れ違うのはちょっと珍しいなと思ったが、まあそんなこともあるかと特に気にしなかった。
ある週末、隣町へ買い物に行った時のこと、せっかくなのでこの日は気分を変えて、こちらの公園を走ってみることにした。地元の公園よりは小ぢんまりとしているが、丘の上はとても景色が良いので気に入っている。
すると、背後から何やらガヤガヤと話し声が近付いてくる。ラジオか何かの音声のようだ。
振り返ると、見覚えのある藤色のコートの男性が歩いてくるのが見えた。
びっくりして、人違いだろうと思ってもう一度見たが(あまりジロジロ見るのは失礼だが)、私の地元の公園で擦れ違うあの男性に間違いなかった。
私は立ち止まって道の端により、男性が通り過ぎてから再び走り始めた。
……まあ、偶然だろう。あの男性もこの近辺に住んでいるとしたら、利用する公園も一か所とは限らないのだから。
そして平日。週二回程度、仕事帰りに少しだけ走ることにしている。日が短い秋冬だと、いつもの公園に隣接する観光牧場内が良い。所々外灯もあり、閉店後のレストランや売店も中は灯りが点いているので、足元が見える程度には薄明るいからだ。
もう少しで一回りする辺りで、何やらガヤガヤと大勢の話し声が聞こえてきて、だんだんと近付いてきた。
普段、こんな夜に大勢の人は来ない。せいぜい、日帰り温泉やコテージを利用しているお客さんがたまに散策している程度なのだ。
このガヤガヤ音、聞き覚えがある。
私は恐ろしくなり、近くの売店の陰に隠れた。
覗き見ると、やはりあの藤色のコートの男性が歩いてきた。
この時初めて気付いたのだが、ラジオの音声が日本語ではない。英語でもドイツ語でも中国語でも韓国語でも……とにかく、私の知り得る言語ではなかった。
男性はいつもの格好で、やはりただ脇目も振らずに黙々と歩き去って行った。
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