不思議小話 ピンキリ

そうすみす

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第9話 覚められない夢 ②

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 「久しぶりだね。お茶でも飲んでいってよ。友達もいっぱい来てるし」

 グリーンマンは気さくに誘ってきたが、冗談ではない。それどころではない。こっちはトイレに行きたくてたまらないのに、お茶なんて飲んだらますますトイレが近くなる。

 「ごめん。悪いけど、今トイレに行きたいから、戻らなきゃ」

 親しき仲にも礼儀あり。私は丁寧にお断りした。

 「戻ってもつまらないよ。こっちに繋いでるから戻れないし」

 「それは困る。こっちは変なトイレばっかりで嫌だから、戻りたいんだけど」

 とにかくトイレに行きたい。本当に悪いけど、面白いとかつまらないとかの問題ではないのだ。これ以上引き止めてくれるな。それに『こっちに繋いでるから戻れないし』とか意味不明。

 「……そっか。じゃあ仕方がない。そこに入れば戻れるよ」

 グリーンマンはすぐそこの納屋を指差す。

 あまりしつこく喰い下がってこなかったので、私はホッとした。このグリーンマンを説得すれば、夢から覚めることができるという確信があったからである。

 今になって思えば、なぜそんな根拠のない確信を抱いていたのか分からない。くどいようだが、夢だから何でもアリなのだろう。

 グリーンマンに指定された納屋の戸を開けて中に入った瞬間、私は目覚めることができた。

 まだ夜明け前。私はトイレに駆け込んだ。これは間違いなく現実? と確認をしながら。夢の中だったエラいことになる。

 それからまた寝ると、私は再びあの変な牧場にいた。夢の続きかと思いきや、グリーンマンの姿はなかった。

 
 あれから数年経つが、以来、彼(彼女?)は夢に出てきていない。

 今でもふと考えることがある。あの時、グリーンマンのお宅へお茶を飲みに行っていたら、一体どうなっていたのだろう? と。ずっと目覚めなかったかもしれない。たぶん、グリーンマンが私を夢の中にとどめていたのだろうから。

 何はともあれ、今度はトイレが必要ではない時に誘ってほしい。

 ★追伸:お気づきの方もいらっしゃると思います。夢に出てきたこの謎のグリーンマンは、私の別の拙作せっさく『極東のアンブローズ』にも、人間に不思議な能力を与える謎の人物として登場させました。本人に断りもなく……(笑)

 今度会うことがあったら、おびしておきます(;・∀・)
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