1 / 1
夏だけでいい
しおりを挟む
凍えるほど冷えきったこの部屋で眠り始めてから、どれほどの時間が流れたのだろう。少しの変化も色もない、暗く閉鎖された日々。もしもこの存在が忘れ去られているのならば、世界にとって不要になったのならば、今すぐ命のスイッチを押して、無機質な白い床にこの身ごと溶かしてしまいたい。
外から活発な足音が聞こえる。不意に明るい光が差し込み、生まれてからまだ数年の瞳に上からのぞきこまれた。嬉しそうに何かの言葉を発しながら、身体をむやみに触っては外へ引っ張り出そうとしてくる。渋々付き合うけれど、一緒に遊ぶときはいつも昔のガラクタで攻撃される役だ。轟音が流れる中で押し潰されたり回転させられるから、遊びが終わる頃にはこの身が粉々に砕け散る。
満足気な幼い手が、浮かれた色の服を羽織らせてきた。手の主は喜びを顔面で輝かせ、スプーンと共に幸せな時間を味わっている。久々のぬくもりだ。身も心もとかされてしまいそうになる。激しすぎるくらいの変化と、眩しいほど鮮やかな色彩。こんな奇跡がくるのなら、やはり命のスイッチは押さなくてよかった。
おぼつかない足音が遠くなり、また無音の日々が始まった。外の世界から隔離されたこの無機質な白い部屋で、身動きもせずに過ごす寒さはとてつもなく厳しい。絶望で黒くなった目の奥に、ふと浮かれた色の服が映った。また、あの無条件に可愛いぬくもりは、夏とともにやってきてくれるだろうか。勝手に信じて、消えずに暗闇の中で生き長らえてもいいのだろうか。
外から活発な足音が聞こえる。不意に明るい光が差し込み、生まれてからまだ数年の瞳に上からのぞきこまれた。嬉しそうに何かの言葉を発しながら、身体をむやみに触っては外へ引っ張り出そうとしてくる。渋々付き合うけれど、一緒に遊ぶときはいつも昔のガラクタで攻撃される役だ。轟音が流れる中で押し潰されたり回転させられるから、遊びが終わる頃にはこの身が粉々に砕け散る。
満足気な幼い手が、浮かれた色の服を羽織らせてきた。手の主は喜びを顔面で輝かせ、スプーンと共に幸せな時間を味わっている。久々のぬくもりだ。身も心もとかされてしまいそうになる。激しすぎるくらいの変化と、眩しいほど鮮やかな色彩。こんな奇跡がくるのなら、やはり命のスイッチは押さなくてよかった。
おぼつかない足音が遠くなり、また無音の日々が始まった。外の世界から隔離されたこの無機質な白い部屋で、身動きもせずに過ごす寒さはとてつもなく厳しい。絶望で黒くなった目の奥に、ふと浮かれた色の服が映った。また、あの無条件に可愛いぬくもりは、夏とともにやってきてくれるだろうか。勝手に信じて、消えずに暗闇の中で生き長らえてもいいのだろうか。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
I'm in...
かぼす
現代文学
英語で書いた短編です。英語勉強中なので、ミスがあるかもしれません。内容はフィクションです。
It is written in English and in Japanese.
寝室のクローゼットから女の声がする!夫の浮気相手が下着姿で隠れていてパニックになる私が下した天罰に絶句
白崎アイド
大衆娯楽
寝室のクローゼットのドアがゴトゴトと小刻みに震えて、中から女の声が聞こえてきた。
異様な現象を目の当たりにした私。
誰か人がいるのかパニック状態に。
そんな私に、さらなる恐ろしい出来事が目の前で起きて…
夫の不倫で離婚することになったから、不倫相手の両親に告発してやった。
ほったげな
恋愛
夫から離婚したいと言われた。その後私は夫と若い伯爵令嬢が不倫していることを知ってしまう。離婚は承諾したけど、許せないので伯爵令嬢の家に不倫の事実を告発してやる……!
シニカルな話はいかが
小木田十(おぎたみつる)
現代文学
皮肉の効いた、ブラックな笑いのショートショート集を、お楽しみあれ。 /小木田十(おぎたみつる) フリーライター。映画ノベライズ『ALWAIS 続・三丁目の夕日 完全ノベライズ版』『小説 土竜の唄』『小説 土竜の唄 チャイニーズマフィア編』『闇金ウシジマくん』などを担当。2023年、掌編『限界集落の引きこもり』で第4回引きこもり文学大賞 三席入選。2024年、掌編『鳥もつ煮』で山梨日日新聞新春文芸 一席入選(元旦紙面に掲載)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる