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108.貴方達一体何者ですか!!

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 「………… 」
 「クソッ! なんなんだっ!!」

 
 トレファス兄が何度も何度も手を向けてくるがその度に黒いモヤモヤは近付く事も出来ずに拡散していく。


 「…………あの」
 「チッ!! この!! くそっ!!」

 
 「…………えと」
 「何なんだよっ!! チッ!! チッ!!」

 
 「すみませーーん!!」
 「──っなんだよっ!!」
 「えーと、多分ですね……そのモヤモヤはですね……言い難いのですが……」
 「だからなんだよっっ!!」
 「えーと……無意味だと思われます……」
 「──えっっ」


 トレファス兄が驚愕の表情を浮かべて固まってしまった。

 
 「──ちょっと!! 何なのアンタ!!」
 「え? 何なのと言われましても……」


 私は私だし……。何というか兄の方は何となくだけど戦意喪失してる感じがして、妹の方はキーキー叫んでいる。


 『……魔のモノよ。お前一体何の為にここにやってきたんだ?』


 気配を消して少し隠れていたセルが声を掛けるとトレファス兄は視線をセル達の方へ向けて更に驚愕の表情を浮かべた。


 『なっ……何故ここ……にヨルムンガンドっっ!!』
 「───え? ヨルムンガンド? 何でこんな所で……」
 『オイ!! どうなってるんだ!! 話が違うじゃないか!!』


 トレファス兄は驚き過ぎたのか魔のモノの姿に戻ってしまっていた。そしてその姿のままトレファス妹に詰め寄った。


 「──っちょ、アンタ姿が……」
 『そんなもんもうどうでもいい! どうなってんだよ! アンタがまだ弱い段階の聖女を喰えるって言うから着いてきたのに!!』
 「ちょっと!! そんな事今言わないでよ」
 
 「?? 聖女??」
 「──っっちょ」
 『そうだよ!! 聖女!! お前が今世代の聖女なんだろ?』


 この人達何言ってるのだろうか? とりあえず否定はしておかなくちゃね。


 「違いますけど」
 『────え?』
 「え? だから違いますけど?」
 

 顔を見合わせてトレファス兄妹が止まった。
  

 どれくらいそうしていただろうか、一瞬だったような気もするし数分だったような気もする。

 この固まった時間を動かしたのは妖精王オベロンだった。


 『……聖女の話はどこから?』
 「えっ!? せ、精霊王じゃん!? じゃあやっぱりアンタが聖女のエリーって事でしょ!? ちょっと髪色とか違うけど……」
 「? 私はリリィですけど?」
 「えっ!? リリィって誰……?」


 トレファス妹が訳の分からない事を言っています。私はエリーではないし。ん? エリーってあのエリーの事?
 訳が分からなくなってしまって頭がフリーズしそうになってしまいました。

 
 『……リリィは確かに今世代の聖女としての資質等は全てクリアしているけどな』
 「──オベロンも急に何言ってるのよ?」
 『うん? 聖女という枠に囚われる事はない、という事だよ?』

 
 なんかよく分からない……。


 「リリィ? 大丈夫?」


 こういう時に声を掛けてくれるのはレオなのよね。

 「えーと、頭こんがらがってる……」
 「だよね。とりあえず聖女の件は置いておいて……でいいんじゃないかな?」
 「そうした方が良さそうな気がするよね……」
 

 二人で話をまとめて、トレファス兄妹の方へ向かおうとするとアンデッドドラゴンが急に動き出した。


 あ、そうでした。そっちも忘れていましたね。
 んー。いいのかな? 浄化? それとも消滅?

 
 「ロウ達、このドラゴンの事知ってるんだよね? 消す? 浄化する?」
 『そうだなぁ……浄化……かな?』
 


 ギャ───ッッと吠えると此方に首を振り攻撃をしようとしてくるアンデッドドラゴンに対してレオが重力魔法を放ちその場に縫いとめた。


 心の中で【ピュリフィケイション浄化】を唱えアンデッドドラゴンを見つめると苦しそうにのたうち回りやがて動きを止めた。
 
 黄金の光がアンデッドドラゴンを包み込んでその後元の姿を現しそのまま消えた。


 後にはサラサラと光の粒子だけが残った。


 『リリィ、ありがとう』
 
 
 ロウがそう言うとセルもネスルも頷いた。
 
 良かったこれが正解だったみたい。


 さて、残るはトレファス兄妹のみかな?
 どうするべきなのか……。


 『おっお前!! 』

 唖然としていた魔のモノが驚愕の表情のまま口をパクパクさせている。


 「あ、えーと、トレファス兄……さんは結局の所魔のモノなのですか?」

 
 とりあえず疑問に思った事を確認させてもらいましょう。


 『──っっ、それがどうした!!』
 「あら本当に魔のモノなのですね。じゃあ本物のトレファス兄は?」
 『アイツはココだ!!』
 「ん? 外身は兄? 中身が魔のモノ? 精神が? 乗っ取った? それでトレファス兄を名乗って乗り込んで来たという事ですか?」
 『ハンッ!! そう言う事だ!!』
 「えーと、あまり勝手な事されると困るので……」


 おしおきのデコピンをしておきましょう。


 ペシッと。


 『──なっ!!』

 
 トレファス兄(偽)にデコピンをおみまいするとおでこを押さえて顔を青くしながらプルプルと震え始めました。

 もう一発くらいデコピンしたら中身を外に出せそうな気がします。
 

 「トレファス妹……さんは彼が……中身が魔のモノだと知って連れてきているのですよね?」
 「そうよ!! 文句ある!?」
 「それが……大有りなのですよね……」
 「──え?」
 「えーと、分かりやすく説明……セナ様お願いしても宜しいですか?」

 
 セナ様に振り返るとあー、と言う顔で頷いてバトンタッチしてくれました。


 「簡単に説明しますと、我がマルタン王国は入国の際に契約獣、契約精霊等についてやその他虚偽申請がありますと即刻国外退去、又は拘留し実刑が下りますと塔での拘束や罰則が行われます。それは入国の際に誓約魔法で……」
 「でも入国できたわ!! それは其方の不備なのではなくて?」
 「……そうなのですよね、誓約魔法が発動せず魔のモノを入れてしまった……我が国の落ち度ではありますが、果たしてどうやって審査を通ったのでしょう?」
 「フンッ! 私はトレファス王国の王女よ!! そんな審査なんてせずとも通れるわよ!!」
 「……成る程無理に通って来た……という事ですね」


 フンッと横を向いて扇子で顔を覆いニヤリと私達を下に見てくる王女の顔はとても美しいとは言えなかった。


 「無理に通って来たのは……まあ仕方ないですけど今回の件でバレてしまいましたし、これからどうなさるおつもりなのですか? それに何がしたくてマルタン王国に?」


 私はやっぱり疑問に思った事を口に出してしまっていました。
 
 
 「──勿論!! 私の推しメンのレオ様に会う為よ!! そしてトレファスに連れて帰るの!!」

 
 推しって……そういうのに疎い私でも聞いた事があります……。アイドルとかその人の事が好きで応援するっていう意味でしょ?
 

 「……レオって凄いんだねぇ……国外の人にも知られてるって事?」

 
 シミジミとレオを見てしまった。
 レオは少し困った顔をしていた。


 「オレそんなの初めて聞いたけど……」
 「レオ様!! 私をそんじょそこらの女共と一緒にしないでくださるっ!? アナタのポスター、ポストカード、バッチ、カバン、Tシャツにタオルその他全てのグッズはオークションも利用して全てゲットしたわ!! それにゲーム内課金でしか見られない映像、クリア報酬の特典映像、一週目はそのまま見惚れて終わってしまって保存もスクショもし忘れて、もう一巡回っても気が済まずに何回も周回して課金して!! それなのに保存は課金しないと出来ないしそりゃあしますよ!! ボーナス全ぶっ込みしたんだから!!」


 ゼハゼハと息を切らせながら一気に捲し立てたトレファス妹を唖然として皆が見つめていた。

 
 えーと、なんだろう。この世界では使わない言葉が色々出てきた気がします。

 この場はどうしたらいいのでしょうか……。
 

 
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