私の婚約者様

ひろのひまり

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 かのご令嬢と殿下、その側近達の愚行は卒業の日まで続きました。

 そして、運命の卒業パーティーの日がやって来たのです。


 「ルー! 準備できた?」
 「フレディ……ちょっと早過ぎないかしら?」


 私は髪を結い上げている途中です。
 ドレスとアクセサリーはフレディが贈ってくれた物です。


 「待ちきれなくて……」
 「お茶でも飲んで待っていて。お父様達は先に王宮に行くって」
 「うん」

 
 サイドを編み込んでくるりんと持ち上げ後毛をカールさせて……侍女とメイドさん達の手は忙しなく動き、私をお姫様のように仕立て上げてくれます。

 
 「ルー様、仕上がりました」
 「ありがとう。じゃあ、フレ……」
 「ルー!! なんて美しいんだ! 皆ありがとう!!」


 仕上がりを見たフレディはフワリと色々なものが崩れないように抱きしめてきました。
 
 フレディの様子を見て侍女とメイドさん達はホッと息をついて安心した顔をしました。

 ふふと笑って立ち上がります。
 スッと横に立ってエスコートをしてくれるフレディはイイ男に仕上がっていますね。


 では出発しましょう。



 卒業パーティーの会場でもある王宮のホールに
到着すると既に沢山の人が来ておりました。


 「ベスはもう来てるかしら」
 「ジムがエスコート……するわけないか……」
 「あ、居たわ」


 ベスが私達に気付き小さく手を振ってくれました。

 ベスのドレスは……きっと殿下が用意した物では無いのでしょうね。


 パーティーは恙無く始まりを迎えました。

 楽しいひと時を皆が過ごしている中、会場の前方で騒めきが広がりました。


 殿下とその隣には黄色のドレスに緑のアクセサリーのかのご令嬢がピッタリとくっ付いていて、その横には側近の子息達が並んでおりました。

 彼等はベスに対峙しています。


 そして……例の茶番劇が始まったのです。


 
 ◇◇◇



 「エリザベス・ヴァントウェル! 今日この場でお前との婚約を破棄する!!」


 音楽も人の騒めきも全てが止まりシンと静まり返ったホールに一人の男性の声が響きました。


 「……ジェイムズ殿下、そのお言葉本心でございますか?」
 「ああ! 本当だとも!! 学園でのお前の悪行は聞いたぞ!そんな奴に王妃になる資格など無い! そして私は真実の愛を教えてくれたスザンヌ・マリオエラと新たに婚約を結ぶ!!」

 
 あぁ……と何とも言えない騒めきが起こりました。


 「……嘘偽りはございませんね?」
 「──あるわけが無い!!」
 「──皆様お聞き届け頂けましたか?」


 
 ベスは婚約破棄という不名誉な言葉を投げつけられ、それでも堂々と凛とした佇まいを崩す事なく周囲を見回しています。
 

 
 ホールの前方でそんな事が起こっているのにも関わらず、殿下の側近である筈のフレディが涼しい顔で私にケーキをアーンとしてきます。

 
 「……フレディ、GO」
 「はぁ……あとはお任せじゃダメかな」
 「ダメでしょう? あれを治めないとね」
 「はぁ────っっ」
 「婚約者様、がんばって」
 「──後で膝枕……」
 「いくらでも」
 「仕方なし!」
 

 盛大な溜息を吐きながらフレディはベスの元へと動きました。
 

 「ジェイムズ殿下、わたくしにはそのご令嬢の仰っている意味が毎回分からないのです。わたくしがお伝えしている事はただ一つです。婚約者の居る男性と懇意にされるのは良くないと。男性と二人きりになるのは良くないと」

 「ベス黙れ! スージーの事をどれだけ悪く言えば気が済むんだ!!」

 「マリオエラ子爵令嬢のその素行は良くないと申し上げているだけでごさいます」

 「お前のように冷徹な女にスージーの心の清らかさは分からないだろうな! やはりお前とは婚約破棄だ!」

 「……やはりお心は変わらないのですね?」

 「変わる物か! スージーとは永遠の愛を誓ったのだからな!」
 

 ザワッと騒めき、ご令嬢達は扇子で顔を隠しておりますが気分の良くない顔色の方も多いです。


 
 「ジェイムズ殿下。少しお話しをさせて頂きますが宜しいですか?」
 「フレディ! どこに行っていたんだ? 今、この女に婚約破棄を突き付けてやったぞ!」
 「フレディったら! 近くに居てくれなくちゃダメじゃない!」


 かのご令嬢がフレディの腕に触れようとして、フレディは大きく一歩下がると近寄るなと呟きました。

 ザワザワとしていた空気がまた少しシン……としてフレディの次の言葉を待っているようでした。


 「ジェイムズ・ブルオニア殿下、あなたの側近だった者として今から話をさせて頂きますが、最後までしっかり聞いていて下さいね」

 「──? なんだフレディ側近だった者とはどういう事だ?」

 「───まず、ジェイムズ殿下、最近王宮での公務についてですが、貴方が学園で乳繰り合って放棄されている分を婚約者であられるエリザベス嬢がこなされている事はご存知ですか?」

 「──っっ! それはっ、アイツが勝手に……」

 
 ベスが王妃様のお手伝いと称してジムの公務を補って……ではないですね、全てこなしていました。


 「今、王宮でジェイムズ殿下がどういった立場なのかご存知ですか?」

 「──っどういう意味だ!」
 
 「───継承権剥奪も止む無し」
 「───っっ」
 「ちょっ! フレディどういう事よ!?」

 あら、かのご令嬢が眉を吊り上げてフレディに掴みかからんばかりに問い詰めています。


 「───貴方方のその奔放な振る舞い、殿下におかれましては王宮での公務の放棄、側近達の職務怠慢……」
 「奔放だなんて! 私は皆と仲良く……」

 「───ハイデロ商会」
 「───っっ!!」
 「なっなんだ! ハイデロ商会がどうしたというのだ!?」


 ザワリと周囲が騒めき顔色が悪くなる人が現れ始めました。


 私の婚約者様は中々に焦らしますね。


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