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第五話
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今日もまた恒例のお茶会をしている。
別に、いつもお茶会だけをしに王宮に来ている訳ではなく、ちゃんと王子妃教育を受けた後で、お茶会をしているのだ。
ただ食べて、ボーッと気を抜きに来てるわけではないっ!
「どうしたの? ジル。そんなに力を込めながらクッキーを握ったら、ポロポロに砕けちゃうよ?」
ハッ!
つい、力を込めてしまった!
もったいない!
「ホホッ 何でもありませんわ。今日もとても美味しくて、つい食べ過ぎてしまって。
さすがは、王宮の料理長自慢のスイーツの数々ですわね」
私は上手く誤魔化しながら、スイーツを堪能する。そんな私をいつもアルベルト様はニコニコと見ているのだ。
そんなに見られたら食べにくいじゃない。
……まぁ、食べるけどっ
「ジル、今日は僕は用事があって、見送る事が出来ないんだ。馬車の手配は出来てるから、乗り場まで1人で行ける?」
アルベルト様が心配そうに言うが、もう何年も王宮に通っているのだ。場所はちゃんと把握済み。行けないわけがない!
「もちろんですわ。ご心配には及びません。ほんの少しの距離ですもの」
私はそう言って、にっこり笑う。
「良かった。じゃ、また次の王子妃教育の日にね」
アルベルト様は、安心したように席を立つ。私も挨拶をして、馬車乗り場に向かった。
しばらく歩いていると、徐々に知らない場所に……
ん?
ここは、何処だ?
確か、この先が馬車乗り場のはず?
がーん!
まさかの迷子!?
アルベルト様に行けると豪語したのに、これはヤバい!
必死で乗り場を探そうとキョロキョロしている私に声を掛けてくれる人がいた。
「お嬢さん、どうしたの? 迷子かな?」
迷子だとバレてる……!
恥ずかしくて、顔が上げられないでいると、優しい表情で、
「おいで。一緒に連れて行ってあげよう」
と、言ってくれた。
「あ、ありがとうございます……」
モジモジしながら、お礼を言い、顔を上げると、そこには……
そこには……。
何と!
とても素晴らしいナイスミドルが立っていたのだ!
アッシュグレー色の七三分けしたツーブロックの髪、やや筋肉質なのに、紺色のスっとしたスーツを着こなし、優雅に立っているおじ様が!
おじ様は、私にスっと腕を出し、笑顔でエスコートを申し出る。
そのスマートな動きに見惚れながら、エスコートを受け、共に歩む。
チラリとおじ様を見ると、その視線に気付いたように、にっこりと微笑んでくれる。
至福の時を過ごしながら、行き先を告げ、あっという間に馬車乗り場に到着した。
「ここまで送って頂き、感謝申し上げます」
私はお礼を言い、馬車に向かう。
「ちゃんとお礼が言えて偉いね。お嬢さんこそ気を付けて帰ってね」
そう言って去っていった。
ハッ!
名前を聞くのを忘れてた!
ナンテコト!
見蕩れすぎてる場合じゃないじゃない!
こちらの名前すら名乗ってない……
なんて失礼な娘だと思われてるわね……
何気に子供扱いだったし……
そう気づくと、地面にめり込んでしまいそうなくらい落ち込みながら、帰途に就くのであった。
別に、いつもお茶会だけをしに王宮に来ている訳ではなく、ちゃんと王子妃教育を受けた後で、お茶会をしているのだ。
ただ食べて、ボーッと気を抜きに来てるわけではないっ!
「どうしたの? ジル。そんなに力を込めながらクッキーを握ったら、ポロポロに砕けちゃうよ?」
ハッ!
つい、力を込めてしまった!
もったいない!
「ホホッ 何でもありませんわ。今日もとても美味しくて、つい食べ過ぎてしまって。
さすがは、王宮の料理長自慢のスイーツの数々ですわね」
私は上手く誤魔化しながら、スイーツを堪能する。そんな私をいつもアルベルト様はニコニコと見ているのだ。
そんなに見られたら食べにくいじゃない。
……まぁ、食べるけどっ
「ジル、今日は僕は用事があって、見送る事が出来ないんだ。馬車の手配は出来てるから、乗り場まで1人で行ける?」
アルベルト様が心配そうに言うが、もう何年も王宮に通っているのだ。場所はちゃんと把握済み。行けないわけがない!
「もちろんですわ。ご心配には及びません。ほんの少しの距離ですもの」
私はそう言って、にっこり笑う。
「良かった。じゃ、また次の王子妃教育の日にね」
アルベルト様は、安心したように席を立つ。私も挨拶をして、馬車乗り場に向かった。
しばらく歩いていると、徐々に知らない場所に……
ん?
ここは、何処だ?
確か、この先が馬車乗り場のはず?
がーん!
まさかの迷子!?
アルベルト様に行けると豪語したのに、これはヤバい!
必死で乗り場を探そうとキョロキョロしている私に声を掛けてくれる人がいた。
「お嬢さん、どうしたの? 迷子かな?」
迷子だとバレてる……!
恥ずかしくて、顔が上げられないでいると、優しい表情で、
「おいで。一緒に連れて行ってあげよう」
と、言ってくれた。
「あ、ありがとうございます……」
モジモジしながら、お礼を言い、顔を上げると、そこには……
そこには……。
何と!
とても素晴らしいナイスミドルが立っていたのだ!
アッシュグレー色の七三分けしたツーブロックの髪、やや筋肉質なのに、紺色のスっとしたスーツを着こなし、優雅に立っているおじ様が!
おじ様は、私にスっと腕を出し、笑顔でエスコートを申し出る。
そのスマートな動きに見惚れながら、エスコートを受け、共に歩む。
チラリとおじ様を見ると、その視線に気付いたように、にっこりと微笑んでくれる。
至福の時を過ごしながら、行き先を告げ、あっという間に馬車乗り場に到着した。
「ここまで送って頂き、感謝申し上げます」
私はお礼を言い、馬車に向かう。
「ちゃんとお礼が言えて偉いね。お嬢さんこそ気を付けて帰ってね」
そう言って去っていった。
ハッ!
名前を聞くのを忘れてた!
ナンテコト!
見蕩れすぎてる場合じゃないじゃない!
こちらの名前すら名乗ってない……
なんて失礼な娘だと思われてるわね……
何気に子供扱いだったし……
そう気づくと、地面にめり込んでしまいそうなくらい落ち込みながら、帰途に就くのであった。
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