6 / 11
第六話
しおりを挟むそんなある日、アルベルト様と一緒にパーティに参加していると、少し先のほうに見覚えのある素敵なおじ様が……
あっ! あの時のおじ様!
またまたガン見している私の様子に気付き、アルベルト様が言う。
「ジル? 何処を見て……あぁ、あれはカイロン侯爵ではないかな? ジルはカイロン侯爵を知ってるの?」
いえ、名前は知らなかったです。
でも、なんか聞き覚えが……
「カイロン侯爵って、あの慈善事業に力を入れていらっしゃるカイロン侯爵様の事ですか!?」
食い気味に聞いた私に、若干引き気味でアルベルト様は頷く。
「そうだよ。孤児院に多額の金銭を寄付したり、貧しい子供達に字を習わせようと私設学校を設立したりしているカイロン侯爵だよ。
ジルは会ったことあったのかい?」
私たちの視線を感じたのだろう。カイロン侯爵が此方に向かって歩いてくる。
「やぁ、カイロン侯爵。このパーティに参加しているとは知りませんでしたよ」
アルベルト様がカイロン侯爵に話しかける。その言葉を受けて、優しそうな笑顔で私たちに話しかけてきた。
「これは、アルベルト第2王子殿下。ご挨拶申し上げます。ここの主催者は私の慈善事業を応援してくれている1人でしてね。
あまりパーティは好きではないのですが、これも付き合いですので、こうして参加させて頂いております」
と、言ったあと、私を見る。
「こちらのお嬢さんとは、先日お会いしましたね。こんにちは」
と笑顔で話しかけてくれる。
「あの節は本当にありがとうございました。
助けて頂いたのに、名乗りもせず申し訳ございません。
わたくし、ジュリア・ハミルトンと申します」
「あぁ、ハミルトン伯爵家の令嬢でしたか。
こんなお可愛らしい娘さんがいらっしゃるとは、羨ましいですな」
と、目を細めて優しくこちらを見てくる。
まぁ! 可愛いだなんて!
どうしましょう! あぁ照れるわぁ!
褒められてモジモジしている私を、とても優しい目で見てくるおじ様に、照れまくっていると、アルベルト様が、私の腰を抱いて自分の方に引き寄せる。
「彼女は私の婚約者なんです。ねっ? ジル」
と、アルベルト様がすんごい笑顔で私を見てくる。
あまりの迫力に首振り人形のように頷く私。
「ほぅ? 殿下の婚約者ですか。これは、若々しいご婚約者で、本当に羨ましい。
失礼ですが、お年はどれ程離れてらっしゃるのでしょう? ご令嬢はまた随分お若く見えますが」
あら。そんなに若々しい?
いえ、私、まだ18歳だから、それって褒め言葉としては、どうなのかしら?
そう疑問に思ってた私の横で、アルベルト様が不思議そうに言う。
「いや? ジルは18になったから、1歳しか変わらないけど?」
それを聞いたおじ様が、目を見開いて私を見る。
「えっ?」
え?
「馬鹿な……18? いや、でも、胸が……」
おじ様が私の胸を見て絶句している。
悪かったわねっ!
どうせ、まな板ですよ!
そう思っている私の前に、さりげなくアルベルト様が立ち、私を隠してくれる。
「あ、いや、失礼。てっきり13~14歳くらいかと……。いや、ざんね、ンン。
あぁ、お若いお二人の邪魔をしてしまい、申し訳ない。私はもう行きますね」
そう言って、おじ様は、そそくさと私達の前から去っていった。
え~っと。
もしかして、今、残念って言った?
なんで?
頭の中がはてなマークでいっぱいだった私に、アルベルト様がこっそり教えてくれる。
「あまり大声で言えないことなんだけどね。
カイロン侯爵は、大人の女性に興味が持てないらしくて、未だに独身なんだよ。女性は15歳までっていうのが、侯爵の信念らしいよ。慈善事業の中でも、子供関連の事業に特に力を入れてるのも、そういった気持ちがあるかららしいと聞いたことがある。
まぁ、間違いが起きないように彼の補佐官が目を光らせてるから、大丈夫みたいだけどね」
ナンテコト。
なんてことなの。
じゃ、私は15歳に満たない子供だと思われて、優しくしてくれたって事?
またしても、理想のおじ様のイメージが音を立てて崩れていく事に、ショックを受けている私を見て、アルベルト様はこっそりガッツポーズを取っていた事を、私は知らなかった。
それからも、憧れのおじ様を見つけるが、その度に、実はギャンブル狂であったとか、浮気三昧で、隠し子がいるとか、酷いのは、家の女使用人に暴力を振るって監禁していたなんてのも発覚し、さすがにおじ様好きの私もドン引きで、暫く憧れを探すのは止めた。
282
お気に入りに追加
541
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された令嬢のささやかな幸福
香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。
しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。
「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」
婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。
婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。
ならば一人で生きていくだけ。
アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。
「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」
初めての一人暮らしを満喫するアリシア。
趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。
「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」
何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。
しかし丁重にお断りした翌日、
「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」
妹までもがやってくる始末。
しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。
「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」
家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。
夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました
香木陽灯(旧:香木あかり)
恋愛
伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。
これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。
実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。
「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」
「自由……」
もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。
ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。
再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。
ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。
一方の元夫は、財政難に陥っていた。
「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」
元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。
「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」
※ふんわり設定です
嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
愛せないですか。それなら別れましょう
黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」
婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。
バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。
そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。
王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。
「愛せないですか。それなら別れましょう」
この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。
義母様から「あなたは婚約相手として相応しくない」と言われたので、家出してあげました。
新野乃花(大舟)
恋愛
婚約関係にあったカーテル伯爵とアリスは、相思相愛の理想的な関係にあった。しかし、それを快く思わない伯爵の母が、アリスの事を執拗に口で攻撃する…。その行いがしばらく繰り返されたのち、アリスは自らその姿を消してしまうこととなる。それを知った伯爵は自らの母に対して怒りをあらわにし…。
必要ないと言われたので、元の日常に戻ります
黒木 楓
恋愛
私エレナは、3年間城で新たな聖女として暮らすも、突如「聖女は必要ない」と言われてしまう。
前の聖女の人は必死にルドロス国に加護を与えていたようで、私は魔力があるから問題なく加護を与えていた。
その違いから、「もう加護がなくても大丈夫だ」と思われたようで、私を追い出したいらしい。
森の中にある家で暮らしていた私は元の日常に戻り、国の異変を確認しながら過ごすことにする。
数日後――私の忠告通り、加護を失ったルドロス国は凶暴なモンスターによる被害を受け始める。
そして「助けてくれ」と城に居た人が何度も頼みに来るけど、私は動く気がなかった。
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる