上 下
9 / 11

第九話

しおりを挟む
 う~ん、なんか顔が痛い。耳元で大声で叫ばれてるし、うるさい。わかったから叫ばないでよ。

「ジル! ジル! ああ、頬がこんなに腫れて! ジル! 目を覚まして!」

 その声にハッとして私は目が覚めた。
 そして、今、アルベルト様が私を膝に乗せて抱き抱えながら、心配そうに私の顔を覗き込んでいる事がわかった。

 って、えっ?
 なに、この状況。
 え~っと、私、どうしたんだっけ?
 確か、ドレス汚されたから馬車に乗って帰る途中で……。

「あーーーー!」
 思い出した! 馬車が襲われて、誰かに引き摺り出されそうになって、殴られたんだ!

「ジル! 良かった、目が覚めたんだね!」
 アルベルト様が泣きそうな顔で私の顔を見る。

「アルベルト様? 何故アルベルト様がいるのです? 私、どうなってたんですか?」

「ジルが馬車に乗ってる最中に襲われたって報告を受けたんだ。ジルに付けてた影と護衛騎士のお陰で、攫われる前に助け出せて、本当に良かった」

 アルベルト様が私を抱き締めて、そう話す。そして、そのまま私の頬に手を添え、
「頬を殴られてしまったんだね。城に着いたら、すぐに手当をしてもらうよう手配しているよ。もう大丈夫だからね」
と、大事な宝物を扱うように丁重に労わってくれる。

 そんなアルベルト様を見ていると、徐々に先程の恐怖を思い出し、私はアルベルト様にしがみついて泣いてしまった。

「えっ!? どうしたのジル? 他にも何処か痛い? 
 早く、城まで急いでくれ!」

 焦ったアルベルト様が、馬車を急がせた。
 そして、私はアルベルト様の温もりに包まれながら、また気を失ってしまった。




──── コンコン
 ドアのノックの音に気づき、「はい」と返事をする。

 入って来たのはアルベルト様だ。

「良かった、ジル。目が覚めてたんだね」

 城に着いた私は、アルベルト様の部屋のベッドに寝かされて治療を受けたようだ。
 医者の話では、頬を殴られて倒れ込んだ時に頭を打ち、脳震盪を起こしたのだろうとの事だった。
 そう。ここはアルベルト様の部屋。
 アルベルト様のベッドで私は横になっている……。

 いやっ、駄目でしょう!
 
「アルベルト様! 何故私がこの部屋で寝ているのでしょう!?」

 慌てている私に、なんて事はないふうに
「え? 婚約者なんだから問題ないでしょ?
それに急だったから、客間の準備が間に合わなかったし」

 問題はある。あるが、急に部屋が準備出来なかったと言われると、何とも言えない。

 それよりも私がアルベルト様に言わなければならないのは、感謝の言葉だ。

「アルベルト様。この度は危ないところを助けて頂き、本当にありがとうございます」

 起き上がろうとした私を、軽く推し留めてアルベルト様は、首を横に振る。

「助けるのは当たり前だよ。
 ジルに何かあったら僕が耐えられない。
 本当に無事で良かった」
 
 アルベルト様が私の手を握りしめて、真剣な眼差しで見つめてそう言った。

 ドキン

 ん? ドキン?
 アルベルト様に見つめられて、私、今ときめいてる!?

 一旦意識すると、握りしめられている大きな手や、さっき抱き締められた時の温もりなどを思い出し、一気に恥ずかしくなる。

 真っ赤になった私を見て、熱があるのか心配したアルベルト様だったけど、何とか大丈夫である事を伝えて納得してもらった。

「あの、わたくしもう大丈夫ですので、そろそろ帰ろうかと……」
 私がそう言うと、
「ああ、今日は大事を取って1晩ここで休んでいく? 添い寝してあげるよ」
と、笑顔で言う。

 その笑顔は、今まで見たことのないくらいの色気が含まれていて……。

「いえ! 帰ります!」
 恥ずかしくて全力で拒否してしまった。

 アルベルト様はそんな私の様子を気にせず「そう? 残念。まぁ、君の母君と兄上が迎えに来ているから、仕方ないか」
と、余裕の笑顔を見せる。

 くっ! からかわれたのかしら。

 そして私は、母と兄と共に家に戻った。





──── さて。

 僕のジルをこんな目に遭わせた者をどうするか。

 
 ジルを助け出し、犯人たちを一網打尽にし、何故ジルを襲ったのか吐かせた。

 最初は口を割らなかったけど、吐かせる方法などいくらでもある。

 その方法を一つ一つ試していくと、案外早めに口を割った。
 もっと色々試したかったのに残念だ。

 で、黒幕が誰なのかを突き止めた。

 バーベラ・フェリス侯爵令嬢

 あの女が破落戸を雇い、ジルが暴漢に襲われたと見せかけて、ジルを乱暴したあとで殺すつもりだったらしい。

 それを聞いた時は怒りで全身の血が沸騰しそうになった。

 絶対に許さない。

 まずはジルの顔を殴った奴に、生まれてきたことを後悔してもらわないとね。

 
 フェリス侯爵令嬢は、どうしてやろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄でいいですよ、愛なんてないので。

ララ
恋愛
学園の卒業を記念するパーティーで、婚約者は私に婚約破棄を叫ぶ。 杜撰な理由に呆れかえる私は愛を無くし、婚約破棄を了承するが……

そんなあなたには愛想が尽きました

ララ
恋愛
愛する人は私を裏切り、別の女性を体を重ねました。 そんなあなたには愛想が尽きました。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

夫には愛人がいたみたいです

杉本凪咲
恋愛
彼女は開口一番に言った。 私の夫の愛人だと。

10日後に婚約破棄される公爵令嬢

雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。 「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」 これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。

婚約破棄を、あなたのために

月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

処理中です...