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第八話
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僕は、この国の第2王子だ。
そして、幼い頃より婚約者がいる。
婚約者の名前は、ジュリア・ハミルトン。
ハミルトン伯爵家の令嬢だ。
その婚約者は、初めて出会った時から少し変わっていた。
僕はこれでも、見目はいい方だ。いや、この容姿は自慢ではないが、かなり人目を惹きつけ、天使のようだと周りから常に賞賛されている。
出会った老若男女すべてが、僕を振り返り、感嘆の溜め息を零す。
それが普通であり、日常だった。
なのに、この婚約者は違う。
僕を見ても、なんの反応も見せない。
それどころか! 父である国王や、宰相を見て、目をキラキラさせているではないか!
僕は悔しくて、僕を見て欲しくて、極上と言われる笑顔を見せた。
この笑顔を見たら、ほとんどの人は頬を赤く染める。それは男であろうが例外では無い。
なのに、この婚約者はまた反応しない。
チラッとこちらを見て、また父や宰相に目を向けて、にこにこしている。
その日は今まで感じた事のない屈辱で、眠れなかった程だった。
それから、僕は何とか僕に振り向かせたくて、頻繁に伯爵家へと会いに行っていた。
その時は別に好きになったとかではなくて、ただの意地だった。
でも会いに行くたびに、令嬢の枠に囚われずに自然体で、溌剌としていて、元気いっぱいの彼女に惹かれていった。
相変わらず、彼女はずいぶん年上の男性に惹かれるようで、時々キラキラとした目を向けている。
多分それは、彼女の父上が早くに儚くなってしまった事が原因だろう。
母君が、彼女の兄が成人するまでの間、伯爵代理として忙しくされており、兄君と2人でよく庭で遊んでいたが、時々寂しそうにしているのを知っている。
だから彼女の気持ちは、父君への思慕の表れなのだと感じた。
しかし、それでも彼女を好きになってしまった僕は面白くない。
なので、彼女の憧れを潰していこうと決めた。
大体彼女は、男を見る目がない。
彼女が好きになる男性は、何かしら癖を持っていたので、それを暴いて、彼女の思いは間違いである事を教えてあげていったのだ。
最近で言えば、宰相だな。
あいつは根っからの男色家だ。家の跡継ぎ問題があるから、渋々結婚して子を儲けたが、子が二人出来たら妻に見向きもしない。
宰相の妻は気を病んでしまい、寝込んでしまった。
この前のパーティでは、宰相と親しげに話せば、嫉妬深い相手の男がすぐに宰相を呼んで、事を起こす事は想定済みであった。
だから、あらかじめ宰相達が部屋に入ったら、気付かれないように鍵を開け、扉も少し開けておくように部下に命じておいた。
予想通り、彼女はショックを受けて幻滅していた。あの時の彼女の顔は、思い出すと笑ってしまう。あの間抜けな表情も、愛嬌があって可愛く見えるから不思議だ。
その後は司祭か。
あれは完璧なマザコンだ。
いつも視察は午後からだったから、司祭と母親との交流の場面を見ていないジルは知らないが、あそこでは割と有名な話だ。
もともと父親像を求めているジルにとって、マザコンなど論外。
いつも行く時間をずらして、あの親子の場面をジルに見せれば、万事解決だ。
幼児趣味の侯爵と知り合っていたのは驚いたが、あれも侯爵の性癖をジルに伝える事でスピード解決だったし。
その後も、浮気して隠し子を作っている者や、暴力監禁男など、次々と彼女のお気に入りの闇を暴いていった。
残念ながら、騎士団長には暴くほどのものがなかったので、再婚相手を用意してやった。
さすがに次々とお気に入りのオヤジ達の、理想と現実とのギャップを目の当たりにして、彼女も考えを改めたようだ。
最近は、そういった様子もなく静かに過ごしている。
僕は、達成感に満足していた。
しかし何も、ジルのお気に入りを暴く事だけに専念していたわけではない。
ジルは、この僕の婚約者だ。
昔から、色んな令嬢たちから妬まれ、色々と嫌がらせを受けている。
なので、危険なものや、ひどい嫌がらせなどは、あらかじめ此方で処理をしてジルの身を守っている。
ジルは全く気付いていないが……。
そして、今回ジルに付けている影から、ジルの馬車が襲われたという連絡を受け、僕は血の気が引いた。
ジル、絶対に助け出すから。
だからどうか、無事でいて。
そして、幼い頃より婚約者がいる。
婚約者の名前は、ジュリア・ハミルトン。
ハミルトン伯爵家の令嬢だ。
その婚約者は、初めて出会った時から少し変わっていた。
僕はこれでも、見目はいい方だ。いや、この容姿は自慢ではないが、かなり人目を惹きつけ、天使のようだと周りから常に賞賛されている。
出会った老若男女すべてが、僕を振り返り、感嘆の溜め息を零す。
それが普通であり、日常だった。
なのに、この婚約者は違う。
僕を見ても、なんの反応も見せない。
それどころか! 父である国王や、宰相を見て、目をキラキラさせているではないか!
僕は悔しくて、僕を見て欲しくて、極上と言われる笑顔を見せた。
この笑顔を見たら、ほとんどの人は頬を赤く染める。それは男であろうが例外では無い。
なのに、この婚約者はまた反応しない。
チラッとこちらを見て、また父や宰相に目を向けて、にこにこしている。
その日は今まで感じた事のない屈辱で、眠れなかった程だった。
それから、僕は何とか僕に振り向かせたくて、頻繁に伯爵家へと会いに行っていた。
その時は別に好きになったとかではなくて、ただの意地だった。
でも会いに行くたびに、令嬢の枠に囚われずに自然体で、溌剌としていて、元気いっぱいの彼女に惹かれていった。
相変わらず、彼女はずいぶん年上の男性に惹かれるようで、時々キラキラとした目を向けている。
多分それは、彼女の父上が早くに儚くなってしまった事が原因だろう。
母君が、彼女の兄が成人するまでの間、伯爵代理として忙しくされており、兄君と2人でよく庭で遊んでいたが、時々寂しそうにしているのを知っている。
だから彼女の気持ちは、父君への思慕の表れなのだと感じた。
しかし、それでも彼女を好きになってしまった僕は面白くない。
なので、彼女の憧れを潰していこうと決めた。
大体彼女は、男を見る目がない。
彼女が好きになる男性は、何かしら癖を持っていたので、それを暴いて、彼女の思いは間違いである事を教えてあげていったのだ。
最近で言えば、宰相だな。
あいつは根っからの男色家だ。家の跡継ぎ問題があるから、渋々結婚して子を儲けたが、子が二人出来たら妻に見向きもしない。
宰相の妻は気を病んでしまい、寝込んでしまった。
この前のパーティでは、宰相と親しげに話せば、嫉妬深い相手の男がすぐに宰相を呼んで、事を起こす事は想定済みであった。
だから、あらかじめ宰相達が部屋に入ったら、気付かれないように鍵を開け、扉も少し開けておくように部下に命じておいた。
予想通り、彼女はショックを受けて幻滅していた。あの時の彼女の顔は、思い出すと笑ってしまう。あの間抜けな表情も、愛嬌があって可愛く見えるから不思議だ。
その後は司祭か。
あれは完璧なマザコンだ。
いつも視察は午後からだったから、司祭と母親との交流の場面を見ていないジルは知らないが、あそこでは割と有名な話だ。
もともと父親像を求めているジルにとって、マザコンなど論外。
いつも行く時間をずらして、あの親子の場面をジルに見せれば、万事解決だ。
幼児趣味の侯爵と知り合っていたのは驚いたが、あれも侯爵の性癖をジルに伝える事でスピード解決だったし。
その後も、浮気して隠し子を作っている者や、暴力監禁男など、次々と彼女のお気に入りの闇を暴いていった。
残念ながら、騎士団長には暴くほどのものがなかったので、再婚相手を用意してやった。
さすがに次々とお気に入りのオヤジ達の、理想と現実とのギャップを目の当たりにして、彼女も考えを改めたようだ。
最近は、そういった様子もなく静かに過ごしている。
僕は、達成感に満足していた。
しかし何も、ジルのお気に入りを暴く事だけに専念していたわけではない。
ジルは、この僕の婚約者だ。
昔から、色んな令嬢たちから妬まれ、色々と嫌がらせを受けている。
なので、危険なものや、ひどい嫌がらせなどは、あらかじめ此方で処理をしてジルの身を守っている。
ジルは全く気付いていないが……。
そして、今回ジルに付けている影から、ジルの馬車が襲われたという連絡を受け、僕は血の気が引いた。
ジル、絶対に助け出すから。
だからどうか、無事でいて。
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