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 マーク王子は帝国に着いてから、とても良いもてなしぶりに満足し、帝国内を観光したり、買い物をしたりと楽しんでいた。
 とても、自国が災害に苦しんでおり、救済要請に来た者とは思えない程の楽しみ方だ。
 陛下との会見は歓迎パーティ後と説明しており、パーティまでまだ数日間あるが、その間も焦る様子もない。
 
 その事を受けて、皇帝陛下やルイジアス殿下を始め、他の貴族らも呆れているが、表面上はにこやかに接し続けていた。



 マーク王子が帝国を訪れてから十日過ぎた頃、マーク王子の歓迎パーティが行なわれた。
 マーク王子が来訪する前に通達されていたとはいえ、準備には日数が足りない状態であり、各貴族たちも大変だったようだが、何とか間に合わせたようだ。
 
 私もパーティに着ていくドレスがない事に気付いて青ざめたが、流石はルイジアス殿下。
 しっかりとドレスとそれに似合う装飾品を準備して下さった。
 しかも、殿下色の深い緑がかった黒地に、ダイヤモンドがふんだんに散りばめられたAラインのドレス。
 装飾品もそれに合わせてダイヤモンドをあしらったネックレスとイヤリングが準備されていた。

 えっ? こんな凄いもの、短期間で準備出来るものなの!?

 そのドレス一式を前もって屋敷に運んでくれたデューカス様を思わず凝視すると、デューカス様は乾いた笑顔をみせる。

「いざという時の為にと、普段から殿下が作らせていた物です。
 気にしないで、身に着けて頂けると助かります」

「はぁ……。ありがとうございます?」

 いざという時って、何?
 誰かの為に準備していた物?
 私が着てもいいのかしら?

 私が受け取りながらも、そう悩んでいる時に、
「はぁ……。初恋を拗らせた男って、やばい。こんな物まで作っていたとは……」
 と、デューカス様がこっそり呟いていた。




 
 マーク王子の歓迎パーティの当日、父と共に馬車に乗ろうとすると、屋敷まで殿下が迎えに来てくれた。

 しかしルイジアス殿下は、私達の前まで来るも、そのまま何も言わず動かない。


「ルイジアス殿下、わざわざお迎えに着て頂けるとは光栄です」

 私がそう言うも、ルイジアス殿下は私を凝視したまま固まっていた。


「ウォッホン!」
 不思議に思っている私の隣りで、父が大きく咳払いをする。
 その声に反応して、ルイジアス殿下は慌てて声を掛けてきた。

「あ、ああ。驚かせてすまない。
 早くルナリア嬢のドレス姿が見たくて迎えに来てしまった。
 その……。とても綺麗だ。とてもよく似合っている」

 薄らと顔を赤らめて話す殿下に、こちらもつい頬を染めてしまう。

『ルナ、照れてる』
『ルナ、綺麗だもんね~』
『2人して顔が真っ赤っか』

 精霊たちよ、煽らないで。

「あり、がとう、ございます」

 恥ずかしくてまともに言葉が発せないなんて、初めての経験だ。
 これでもマーク王子の元婚約者だったのだ。
 王太子妃教育も受けていたというのに、なんてザマだ。

 2人して照れている様子を見た父が再度咳払いをし、
「ルナリア。せっかくルイジアス殿下が迎えに来て下さったのだ。殿下の馬車に乗せてもらいなさい」
 と、とっとと自分の馬車に乗り込む。


「で、では行こうか」
 そう言って、ルイジアス殿下は私に手を差し出す。

「は、はい。よろしくお願いいたします」

 私はルイジアス殿下のエスコートを受けて一緒に馬車に乗り込んだ。






 皇城に着き、私達はパーティ会場に向かう。会場入りは低位貴族からすでに始まっており、殆どの人が入場を終え、もうすぐ父も呼ばれるだろう。
 私は殿下と一緒なので、最後の方に呼ばれる。
 殿下と共に会場入りを待っている間、他の高位貴族からの視線を感じた。


「自信を持って。貴方はこの中の誰よりも高潔で綺麗なのだから」

 そう笑顔で伝えてくれる殿下を他の貴族の方々が見て驚いている。

「あの皇太子殿下が笑ってる?」
「女性に対してあのような態度を見せるなど、今までにはなかった事だわ」
「あの女性は誰なの?」

 主にご婦人方や令嬢達が、誰だか分からない女がルイジアス皇太子殿下のパートナーになっている事に納得が出来ていない様子だ。
 高位貴族の男性陣は、ルナリアの正体を知っている者が多いため、納得顔をしている。


「奇しくも、このパーティがルナリア嬢のこの国での社交デビューになるとはね」

 ルイジアス殿下が苦笑いしながら、そう言った。

「本当は、もっと適切な場でのお披露目が良かったけど、仕方がないね。
 でも誰からも侮られないように、ちゃんとエスコートするから。私に任せてほしい」

「ありがとうございます。
 わたくしも殿下のパートナーとして恥ずかしくないよう、しっかりと務めさせて頂きます!」

 ルイジアス殿下の気遣いに心から感謝し、私も頼るだけではなく、しっかりしなくてはと自身を鼓舞した。

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