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案内された部屋で一息ついていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「ルナリア、ちょっといいか」
私が返事をすると、父がそう言ってきたので、部屋に招き入れる。
メイドがお茶を準備してくれた後、気を利かせて親子だけにしてくれた。
「ルナリア、本当にお前が無事で良かった。」
その言葉に、また泣きそうになる。
「お父様、お父様には、感謝してもしきれません。わたくしの為に、あんな危険を犯してまで探しに来て頂けるなんて、本当に申し訳ないことでございます」
本当に、お父様の気持ちが痛いほど嬉しい。貴族は、普通家門を大切にして、家族は二の次、もしくは子供は家門の為の道具でしかないのに、うちの家族は違う。
まるで前世の家族のように、温かくてとても愛おしい。
「いや、あの森に入るなど、あの国を支える公爵としては本来ならあってはならない事。
しかし、あの国の王族にそのような忠義など、もはや不要。
私は、あの国を捨てようと思う」
私の言葉を受けて父は首を横に振り、そう告げた。
私は父のその言葉に驚き、目を見開く。
「お前を冤罪で簡単に殺そうとする国だ。未練などない。
しかし、領地の事もあるし、後継の事を考えると、なかなか決断が出来なかった」
と、父は苦悶の表情で語る。
「お前を探す覚悟をした時、万が一に備えて、領地で今まで代理補佐をしてくれていた親戚に、息子が成人するまで継続して補佐してもらえるように頼んであった。
ロックウェル王国を捨てる決断をしたのだから、そのまま公爵位を親戚に渡そうと思う。
幸い、我々をカルステイン帝国へ迎え入れてくれるそうだ。もちろんまだあの国にいる妻や息子たちも一緒にだ。
だから、一旦戻って迎えに行かなければならない。
それに、何やらあの国は色々と問題が起こっているようだ。早く迎えに行かないと、どうにも落ち着かない」
父の言葉に、以前精霊たちが言っていた言葉を思い出す。
確か、精霊王様があの国の事を怒っているとか言ってたような……
それに精霊王様もあの国はもう駄目だとか言われていたっけ。
「色々な問題とは、何ですか?」
「どうやら最近の長雨のせいで、作物や木々が枯れ始め、土砂崩れなどが起きているらしい。そのせいで食料不足も問題視され始めているとか。一時的なものかもしれないが、どうも不安でな」
父のその言葉に、精霊たちが反応した。
『愛し子を蔑ろにしたから、精霊王様が怒ってるんだ~』
『もう、あの国には精霊は全くいないしね~』
『あの国の王様きらい~』
など、言っている。
やはり、ロックウェル王国の異常気象は、精霊や精霊王様が関わっていそうだ。
凄いな。ゲーム終了後に国が無くなるなんて、ユーザー達は思ってもみなかっただろう。
う~ん、こうなると、この世界は乙女ゲームとは別物かな?
普通は悪役令嬢を国外追放して、その後はハッピーエンドが定番なんだけど。
まぁ、冤罪の末の国外追放だから、この場合は、バッドエンド?
よく分からないけど、この騒動が精霊王の愛し子である私が関係しているのは、どうやら間違いなさそうだ。
「お父様、精霊たちが教えてくれましたが、どうやらロックウェル王国の異常気象は、精霊王様たちが関わっているようです」
「どういう事だ?」
「え~っと、わたくし……つまり、愛し子を蔑ろにしたからと、精霊王様が怒っていると精霊たちが申しております」
少しバツが悪そうに言ってしまったのは許してほしい。
自分で自分の事、愛し子なんて恥ずかくて普通言えないでしょ!?
私が答えたことに、父は「なるほど」と、納得した。
「ならば、なおのこと妻たちを迎えに行かねばならないな。あの国に置いておくのは不安だ」
話がまとまり、後日この事をカルステイン帝国の皇帝陛下に申し出る。
以前と同じ謁見の間にて、官僚たちを始め、主要な貴族たちも集められていた。
「なるほど。隣国の異常気象は、精霊王様が起こしているのか。
では、此方としても精霊王様の愛し子であるルナリア嬢を、丁重にもてなさなければならないな」
と、陛下が此方を見て言った。
「いえ! わたくし達を家族ごとカルステイン帝国に迎え入れて頂けるのです!
感謝こそすれ、これ以上のご配慮は過分でございます」
私が慌ててそう言うと、陛下は満足気に頷いて微笑む。
「最近この国は天候に恵まれ、作物や木々らがとてもよく育ち、国全体が緑溢れるよい環境になってきていると、各地から報告を受けている。
また、毎年この時期は流行病が横行するのだが、今年はその気配も見られないらしい。
これらは精霊王様に関係しているのではないだろうか?」
陛下の問いに私は頷く。
「わたくしと共に、あの国にいた精霊たちが皆、この国に移ってきたそうです。
それが自然の恵みや、環境に影響しているかと思われます」
「やはりそうか。此方としても精霊の力の恩恵を受けられるのは有難い。
そなたたちの一家も、喜んでこの国に迎え入れよう」
「寛大なお言葉、心より感謝申し上げます」
陛下の言葉に、父と共に礼を尽くす。
こうして、改めてこの国に貴族として受け入れるとし、父は陛下より侯爵位を叙爵する事となった。
ロックウェル王国の時から、シュナイダー公爵は素晴らしい手腕を振るっていた事は有名であり、また、ルナリアが精霊王様の愛し子として、国に多大な好影響を与えている事から、自国に侯爵として迎え入れる事に他の貴族たちも異議を唱えることはなく、割とすんなりと受け入れられた。
「ロックウェル王国に残した家族を此方に呼び寄せてから、改めて叙爵式をしてくれるそうだ。先に手紙を出し、自国を捨ててカルステイン帝国に移る事も妻たちに知らせてある。
あとは、上手くあの国の者に邪魔されずに来れるよう、陛下も心を砕いてくださるとの事だ。
あとは父達に任せて、お前はここで待っていなさい」
陛下との謁見のあと、暫くしてから父にそう説明された。
私も心配で一緒に行きたかったが、国外追放を受けている身としては、一緒に行く事は出来ない。
私に何か出来る事はないかと考えている時、精霊たちが言った。
『精霊王様にお願いすれば?』
『そうそう、精霊王様なら助けてくれるよ~』
迎えに行くのに、魔物の森は使わない。
それに、まだ精霊王様がどのような人物なのかも分からなかった私は、その言葉をすんなり受け入れる事は出来なかった。
「そういえば、また話をしようって言われていたわ。愛し子がどういったものなのか、何故私なのかをちゃんと聞かなくちゃ」
そう考えた私は、父がロックウェル王国に家族を迎えに出立したのを見送ったあと、精霊王様に会いに行く事に決めた。
「ルナリア、ちょっといいか」
私が返事をすると、父がそう言ってきたので、部屋に招き入れる。
メイドがお茶を準備してくれた後、気を利かせて親子だけにしてくれた。
「ルナリア、本当にお前が無事で良かった。」
その言葉に、また泣きそうになる。
「お父様、お父様には、感謝してもしきれません。わたくしの為に、あんな危険を犯してまで探しに来て頂けるなんて、本当に申し訳ないことでございます」
本当に、お父様の気持ちが痛いほど嬉しい。貴族は、普通家門を大切にして、家族は二の次、もしくは子供は家門の為の道具でしかないのに、うちの家族は違う。
まるで前世の家族のように、温かくてとても愛おしい。
「いや、あの森に入るなど、あの国を支える公爵としては本来ならあってはならない事。
しかし、あの国の王族にそのような忠義など、もはや不要。
私は、あの国を捨てようと思う」
私の言葉を受けて父は首を横に振り、そう告げた。
私は父のその言葉に驚き、目を見開く。
「お前を冤罪で簡単に殺そうとする国だ。未練などない。
しかし、領地の事もあるし、後継の事を考えると、なかなか決断が出来なかった」
と、父は苦悶の表情で語る。
「お前を探す覚悟をした時、万が一に備えて、領地で今まで代理補佐をしてくれていた親戚に、息子が成人するまで継続して補佐してもらえるように頼んであった。
ロックウェル王国を捨てる決断をしたのだから、そのまま公爵位を親戚に渡そうと思う。
幸い、我々をカルステイン帝国へ迎え入れてくれるそうだ。もちろんまだあの国にいる妻や息子たちも一緒にだ。
だから、一旦戻って迎えに行かなければならない。
それに、何やらあの国は色々と問題が起こっているようだ。早く迎えに行かないと、どうにも落ち着かない」
父の言葉に、以前精霊たちが言っていた言葉を思い出す。
確か、精霊王様があの国の事を怒っているとか言ってたような……
それに精霊王様もあの国はもう駄目だとか言われていたっけ。
「色々な問題とは、何ですか?」
「どうやら最近の長雨のせいで、作物や木々が枯れ始め、土砂崩れなどが起きているらしい。そのせいで食料不足も問題視され始めているとか。一時的なものかもしれないが、どうも不安でな」
父のその言葉に、精霊たちが反応した。
『愛し子を蔑ろにしたから、精霊王様が怒ってるんだ~』
『もう、あの国には精霊は全くいないしね~』
『あの国の王様きらい~』
など、言っている。
やはり、ロックウェル王国の異常気象は、精霊や精霊王様が関わっていそうだ。
凄いな。ゲーム終了後に国が無くなるなんて、ユーザー達は思ってもみなかっただろう。
う~ん、こうなると、この世界は乙女ゲームとは別物かな?
普通は悪役令嬢を国外追放して、その後はハッピーエンドが定番なんだけど。
まぁ、冤罪の末の国外追放だから、この場合は、バッドエンド?
よく分からないけど、この騒動が精霊王の愛し子である私が関係しているのは、どうやら間違いなさそうだ。
「お父様、精霊たちが教えてくれましたが、どうやらロックウェル王国の異常気象は、精霊王様たちが関わっているようです」
「どういう事だ?」
「え~っと、わたくし……つまり、愛し子を蔑ろにしたからと、精霊王様が怒っていると精霊たちが申しております」
少しバツが悪そうに言ってしまったのは許してほしい。
自分で自分の事、愛し子なんて恥ずかくて普通言えないでしょ!?
私が答えたことに、父は「なるほど」と、納得した。
「ならば、なおのこと妻たちを迎えに行かねばならないな。あの国に置いておくのは不安だ」
話がまとまり、後日この事をカルステイン帝国の皇帝陛下に申し出る。
以前と同じ謁見の間にて、官僚たちを始め、主要な貴族たちも集められていた。
「なるほど。隣国の異常気象は、精霊王様が起こしているのか。
では、此方としても精霊王様の愛し子であるルナリア嬢を、丁重にもてなさなければならないな」
と、陛下が此方を見て言った。
「いえ! わたくし達を家族ごとカルステイン帝国に迎え入れて頂けるのです!
感謝こそすれ、これ以上のご配慮は過分でございます」
私が慌ててそう言うと、陛下は満足気に頷いて微笑む。
「最近この国は天候に恵まれ、作物や木々らがとてもよく育ち、国全体が緑溢れるよい環境になってきていると、各地から報告を受けている。
また、毎年この時期は流行病が横行するのだが、今年はその気配も見られないらしい。
これらは精霊王様に関係しているのではないだろうか?」
陛下の問いに私は頷く。
「わたくしと共に、あの国にいた精霊たちが皆、この国に移ってきたそうです。
それが自然の恵みや、環境に影響しているかと思われます」
「やはりそうか。此方としても精霊の力の恩恵を受けられるのは有難い。
そなたたちの一家も、喜んでこの国に迎え入れよう」
「寛大なお言葉、心より感謝申し上げます」
陛下の言葉に、父と共に礼を尽くす。
こうして、改めてこの国に貴族として受け入れるとし、父は陛下より侯爵位を叙爵する事となった。
ロックウェル王国の時から、シュナイダー公爵は素晴らしい手腕を振るっていた事は有名であり、また、ルナリアが精霊王様の愛し子として、国に多大な好影響を与えている事から、自国に侯爵として迎え入れる事に他の貴族たちも異議を唱えることはなく、割とすんなりと受け入れられた。
「ロックウェル王国に残した家族を此方に呼び寄せてから、改めて叙爵式をしてくれるそうだ。先に手紙を出し、自国を捨ててカルステイン帝国に移る事も妻たちに知らせてある。
あとは、上手くあの国の者に邪魔されずに来れるよう、陛下も心を砕いてくださるとの事だ。
あとは父達に任せて、お前はここで待っていなさい」
陛下との謁見のあと、暫くしてから父にそう説明された。
私も心配で一緒に行きたかったが、国外追放を受けている身としては、一緒に行く事は出来ない。
私に何か出来る事はないかと考えている時、精霊たちが言った。
『精霊王様にお願いすれば?』
『そうそう、精霊王様なら助けてくれるよ~』
迎えに行くのに、魔物の森は使わない。
それに、まだ精霊王様がどのような人物なのかも分からなかった私は、その言葉をすんなり受け入れる事は出来なかった。
「そういえば、また話をしようって言われていたわ。愛し子がどういったものなのか、何故私なのかをちゃんと聞かなくちゃ」
そう考えた私は、父がロックウェル王国に家族を迎えに出立したのを見送ったあと、精霊王様に会いに行く事に決めた。
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