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 「そこの君、待って!」

 祭りを大方見て回り、そろそろ帰ろうかと思っていた時、突然声を掛けられ、振り向くと、そこにルイジアス殿下が立っていた。

 えっ! 何故ここに? 
 しかもお1人なの?

 今日は側近のデューカスは付いておらず、何故か少し息が上がっいる。

「えっと……昨日、うちの店でお会いした方ですよね?」

「ああ、突然声を掛けてすまない。
 祭りはもう、見て回ったのか?」
と、殿下が聞いてきたので、私は頷いた。

「そうか……。もし良ければ、もう少しだけ、見て回らないか? 出来れば私と一緒に」

 その言葉に驚く。
 えっ、ルナリアだと気付いてないよね?
 何で、私と?

 驚きのあまり、返事が出来ないでいると、
「自己紹介もせずに申し訳ない。私はジアスという。帝都から、ここの領主の嫡男であるデューカスに誘われて、祭りを見に来たんだ。 
 明日には帰らないと行けないんだが、残念ながら今日はデューカスは、手が離せなくてね。
 だから1人で来たんだけど、何処を見て回ればいいか分からないんだ。
 出来れば案内してもらえたら嬉しい」
と、殿下が言ってきた。

 ああ、お忍びで来られたのね。名前も微妙に変えてるし。
 明日には帰られるのなら、少しくらい一緒に居ても大丈夫かな?

 そんな気持ちになって、引き受けることにした。

「分かりました。私もここの祭りに参加するのは今回が初めてですが、ご一緒させて下さい。私はルナと申します。」

 名前を告げると、殿下が小声で何かを呟いたけど、私には聞こえなかった。



 殿下と、その後色々見て回り、少し疲れを感じた時に、
「ちょっと、ここで待ってて」
と、近くの木陰の下にあるベンチで待つよう言われたので、そこで座って待っていた。

「おまたせ」
と、殿下は、手に果実水とパンの揚げ菓子を持って戻ってくる。

「ありがとうございます。ちょうど喉が渇いていたんです」

 そうお礼を言うと、嬉しそうに手渡してくれた。


「今日、付き合ってくれたお礼だから、気にしないで」

 終始機嫌良さそうにしながら、話す殿下を見て、懐かしい気持ちになる。

 昔、ルイジアス殿下は、よくロックウェル王国に来られていたわね。
 あの時も、ずいぶん振り回されたけど、本当にお変わりないわ。
 本当は、いつも周りに気を配っていて、こんな風に、さり気なく優しくて……

 そんな事を思い出していた私を、殿下が愛おしそうな目で見ていたのに、私は全然気付いていなかった。





~ルイジアス視点~


 明日には帝都に戻らなくてはならない。
 その前にもう一度、会わなくては。

 そんな気持ちで、祭りの最終日に出掛けようとしていた私に、デューカスが言ってきた。
「殿下、今日も祭りに出掛けるのですか?
 でしたら、私も一緒に行きます」

「いや、今日は、1人で行く。お前は付いて来なくていいぞ」

「は? いや、駄目でしょう。私にはあなたをお守りする責任があるのです。お一人で行くなど、とんでもない」
と、デューカスが付いて来ようとする。

 仕方がないので、一緒に行くフリをして何とか撒こう。
 アイツと一緒に居たら、会いに行けないじゃないか!

 
 そして、デューカスが準備をしている内に、
「先に行くぞ。後から付いてこい」
と言って、先に出る。

「え! ちょっ! 待ってください!
 護衛は連れて行って下さいよ?
 すぐに追いつきますから!」
と、慌ててデューカスが言うので、頷きながら外に出ると、案の定、護衛が居た。
 後を付いてくるので、取り敢えず町に出て、人混みの中で上手く撒いてやった。

 すぐに、昨日の花屋に行くと、彼女がいない。店主に尋ねると、今日は祭りを見て回っているそうだ。

 私は必死で彼女を捜した。
 そろそろ、祭りも終盤になり、見つからないまま焦っていると、少し先の店の前が光っているのが見えた。


 見つけた!


 私は急いでそこに行くと、彼女がいた。

 さり気なく声を掛け、振り向いた彼女を見て私は思った。

 ああ、ルナリアだ。

 眼鏡で隠されているが、その奥にある翡翠色の目は、相変わらず惹き込まれそうで……

 全身を包んでいる温かな光も、より一層神々しくて。

 顔がにやけそうになるのを必死で隠しながら、ルナリアを誘う。
 私が名を名乗ると、彼女も名前を教えてくれ、それを聞いた時に声に出そうになった。


 やっぱりルナリアだ、と。



 その後、しばらく一緒に祭りを見て回ってから彼女を花屋まで送り、また来るから、その時はまた色々な商品を見せて欲しいと頼んだ。

 嬉しそうに頷く彼女に一旦別れを告げて、デューカスの屋敷に戻ろうとすると、店の前で鬼の形相で、デューカスが護衛を連れて立っていた。

「殿下! 何故護衛を撒いたのですか!
方々捜しましたよ!」

「悪かったな。もうこんな事はしないから許せ」

 私の言葉に、胡乱げな表情で見てくるが、
「本当に心配したんですからね。さぁ、戻りましょう。明日は帝都に向けて朝一番で経つのですから」
と、デューカスは溜め息をつく。

「ああ、心配かけて悪かった」

 私はもう一度デューカスに謝ってから、これからの事を考えた。

 今度はもう、ルナリアを離したりはしない。

 だが、すぐにルナリアを一緒に帝都に連れて帰るには、今はまだ時期尚早だ。
 まずは、シュナイダー公爵にルナリアの生存をこっそりと伝え、ロックウェル王国で起こった冤罪を晴らす協力をしてもらわなければ。
 シュナイダー公爵さえ良ければ、あんな国は捨てて、我が帝国に来ればいい。
 そうすれば、ルナリアも喜ぶだろう。

 シュナイダー公爵程の人物なら、陛下も受け入れてくれて爵位も叙爵される。
 そうすれば、ルナリアはまた、貴族の令嬢として暮らせる。
 あとは、頃合いを見てルナリアにプロポーズだ!

 私はそれまでにルナリアに何かあっては大変だと、こっそり護衛をつけてから帝都に戻った。





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