上 下
6 / 51

5

しおりを挟む
 

 ルイジアスには、忘れられない女性がいる。
 幼き頃に出会った、光に包まれた女性……

 ルイジアスは、幼い時から、たまに色んな場所で小さな光が見える事があった。
 でも、それを他の人に話しても、誰も見えていないらしく、不思議そうに見られるだけだったので、それからは見えても誰にも話した事はなかった。
 その光は、温かく、何故か悪いものではないと感じていたので、その後も見えても気にしなかった。

 そして、幼い時から何度か行ったことのある隣国のロックウェル王国では、その光が自国よりも多く見えていた。
 
 そこで初めて出会った、ルナリア・シュナイダー公爵令嬢。
 あまりにも眩しくて、目が開けられないほどの光が彼女の周囲を取り囲んでおり、初めて彼女を見た時は女神かと思い、あまりにもびっくりして声が発せなかった程だった。

 その後も彼女に会った時は、いつも光で包まれており、話すと、とても小気味よい会話も心地よく、気付けば常に彼女の姿を目で追っていた。

 隣国は、魔物の森がある場所を迂回して行かなければならない為、頻回には行けない。    
 しかし、それでもルナリアに会いたいが為に、ルイジアスは何かと口実をつけては、よく隣国に行っていた。

 だから、王太子マークの婚約者となったと知った時は、茫然自失となったものだ。

 それからはあまり隣国にも行かず、かといって、彼女を忘れる事も出来なかった為、自分の婚約者も作れず、いっそ早く結婚してくれれば、踏ん切りがつけられるのにと思った矢先に、婚約破棄の末の行方不明……。


 「はぁ……」

 ルイジアスは、ついつい溜息が溢れるのを抑えることが出来なかった。



「殿下、こんな時に恐縮ですが、来週は自領に帰る予定になっておりますので、よろしくお願いします。」
 デューカスは、ルイジアスのお茶会のキャンセルを他の侍従に依頼した後に、そう言った。

「……ああ、そう言えば領地の祭りがあったんだよな。それに、領地で療養している妹が居たんだっけ。
 久しぶりに会いに行ってやるんだ。楽しんでこいよ」

「殿下。もし良ければ、殿下も一緒に祭りに参加されてみては、どうでしょう? 
 数日の間ですし、気分転換になるかと」

「いや……そんな気分では……」
 ルイジアスは断ろうとするも、
「連日のお茶会から逃げられますよ」

 その言葉に、祭りに行くことを決めた。



 

 その頃のアーガスト領では ────


「ポルカさん! 見てください。祭りに出す物を作ってみました!」

 ルナリアが、嬉しそうに店に作った物を持ってきて、店の中で披露した。

 前世の記憶を元に作った、花リースや、ポプリが入った匂い袋、ドライフラワーを始め、生花では、フラワーアレンジメントにブーケなど、多種多様だ。

「まぁ! なんて綺麗! これ、全部ルナちゃんが作ったの?」
 
 ポルカさんが、目を輝かせながら聞いてくる。

「はい。花を乾燥させて作ってあるものは、扱いに注意しなければなりませんが、部屋などに飾るだけで、華やかになるし、長持ちしますよ。
 この、花籠に飾った花は、下に水を含ませた綿を使っているので、飾った花の配置が崩れにくい状態で保管出来ます」

 前世はスポンジを使用していたが、ここにはないので、苦肉の策だ。
 でも、思いの外、上手く出来た事に満足していた。
 花籠やブーケなど、持ち運びが便利なように、小ぶりに作ってある。

 この世界では、鉢植えや、花束はあるが、フラワーアレンジメントされた物は見掛けたことがない。
 ポルカさんの反応も良かったし、きっとこれなら売れるはず!

 それから、ポルカさんにも教えながら、花籠のアレンジフラワーや、ブーケなどを一緒に作り、祭りに向けて着々と準備をすすめた。
 出来上がったたくさんの品をみながら、祭りの日が来るのが待ち遠しかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家から追い出された後、私は皇帝陛下の隠し子だったということが判明したらしいです。

新野乃花(大舟)
恋愛
13歳の少女レベッカは物心ついた時から、自分の父だと名乗るリーゲルから虐げられていた。その最中、リーゲルはセレスティンという女性と結ばれることとなり、その時のセレスティンの連れ子がマイアであった。それ以降、レベッカは父リーゲル、母セレスティン、義妹マイアの3人からそれまで以上に虐げられる生活を送らなければならなくなった…。 そんなある日の事、些細なきっかけから機嫌を損ねたリーゲルはレベッカに対し、今すぐ家から出ていくよう言い放った。レベッカはその言葉に従い、弱弱しい体を引きずって家を出ていくほかなかった…。 しかしその後、リーゲルたちのもとに信じられない知らせがもたらされることとなる。これまで自分たちが虐げていたレベッカは、時の皇帝であるグローリアの隠し子だったのだと…。その知らせを聞いて顔を青くする3人だったが、もうすべてが手遅れなのだった…。 ※カクヨムにも投稿しています!

婚約者と親友に裏切られた伯爵令嬢は侯爵令息に溺愛される

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のマーガレットは、最近婚約者の伯爵令息、ジェファーソンの様子がおかしい事を気にして、親友のマリンに日々相談していた。マリンはいつも自分に寄り添ってくれる大切な親友だと思っていたマーガレット。 でも… マリンとジェファーソンが密かに愛し合っている場面を目撃してしまう。親友と婚約者に裏切られ、マーガレットは酷くショックを受ける。 不貞を働く男とは結婚できない、婚約破棄を望むマーガレットだったが、2人の不貞の証拠を持っていなかったマーガレットの言う事を、誰も信じてくれない。 それどころか、彼らの嘘を信じた両親からは怒られ、クラスメイトからは無視され、次第に追い込まれていく。 そんな中、マリンの婚約者、ローインの誕生日パーティーが開かれることに。必ず参加する様にと言われたマーガレットは、重い足取りで会場に向かったのだが…

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

婚約者に冤罪をかけられ島流しされたのでスローライフを楽しみます!

ユウ
恋愛
侯爵令嬢であるアーデルハイドは妹を苛めた罪により婚約者に捨てられ流罪にされた。 全ては仕組まれたことだったが、幼少期からお姫様のように愛された妹のことしか耳を貸さない母に、母に言いなりだった父に弁解することもなかった。 言われるがまま島流しの刑を受けるも、その先は隣国の南の島だった。 食料が豊作で誰の目を気にすることなく自由に過ごせる島はまさにパラダイス。 アーデルハイドは家族の事も国も忘れて悠々自適な生活を送る中、一人の少年に出会う。 その一方でアーデルハイドを追い出し本当のお姫様になったつもりでいたアイシャは、真面な淑女教育を受けてこなかったので、社交界で四面楚歌になってしまう。 幸せのはずが不幸のドン底に落ちたアイシャは姉の不幸を願いながら南国に向かうが…

悪役令嬢だけど、私としては推しが見れたら十分なんですが?

榎夜
恋愛
私は『花の王子様』という乙女ゲームに転生した しかも、悪役令嬢に。 いや、私の推しってさ、隠しキャラなのよね。 だから勝手にイチャついてて欲しいんだけど...... ※題名変えました。なんか話と合ってないよねってずっと思ってて

異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい

千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。 「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」 「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」 でも、お願いされたら断れない性分の私…。 異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。 ※この話は、小説家になろう様へも掲載しています

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

処理中です...