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しおりを挟むシュナイダー公爵は、ルナリアの知らせを受けた時の事を思い出していた。
シュナイダー公爵が、陛下と共に地方に出向いていた時、家から急ぎの手紙が届いた。
一緒に来ていた侍従長に問うと、
「奥様からです。何やら急いで帰って来て欲しいとの内容だそうです」
と、返答した。
今までそんな手紙を送ってきた事がなかったので不思議に思い、とりあえず手紙を読むと、手先から急に血の気が引いていくのを感じた。
「何故、ルナリアが国外追放になっているのだ?」
手紙は、よほど慌てて書かれたのか要領を得ない。
すぐに陛下の元に行くと、陛下も王宮から連絡がきていたようで、渋い顔をしていた。
「陛下! どういう事ですか!? 何故うちの娘が婚約者である殿下から、国外追放されているんです!?」
公爵は、陛下に詰め寄り尋ねたが、陛下もよく分からないらしい。
ここに居ても埒が明かないと思い、陛下に断りを入れてから、取り急ぎ王都にある自分の屋敷に戻った。
「帰ったぞ! 一体どういう事なんだ!?」
妻に問いただそうとしたが、どうやら妻はルナリアの国外追放を聞いて、寝込んでしまったらしい。
詳細を執事長に聞くことで、ようやく一連の流れが掴めたが、全く理解し難いことだった。
しかし、殿下は強硬な手段を使い、すでにルナリアを魔物の森で放置したという。
恐らくルナリアはもう生きてはいないだろう……。
そう思うと、公爵は、やり切れない気持ちに押し潰されそうになった。
しかし、ほんの少しの確率でも生きている可能性があるなら助けに行きたい。
今、この瞬間にも魔物に襲われそうになっているのではないかと考えるだけで、気が遠くなる。
しかし、魔物の森に入った者は、1人たりとも出てきた事がない。
1人で入ったところで、無事に帰れる保障はない。
思案している所に、隣国からの手紙が届いた。
「隣国? 誰からだ?」
公爵が尋ねると、
「ルイジアス・フォン・カルステイン皇太子殿下です」
と、執事長が手紙を渡してくる。
まだルナリアが幼い時に出会った、隣国の皇子。今は皇太子だったか、とあの頃を思い出しながら手紙を読む。
手紙には、ルナリアを心配しているという事と、公爵家と共に、ルナリアを捜索したいといった内容が書かれてあった。
「何故、隣国の皇太子が……」
公爵の言葉に執事長が伝える。
「旦那様、お忘れですか? ルナリア様が12歳の時、隣国のルイジアス皇太子殿下に婚約の打診をされた事を。
すでにルナリア様とマーク王太子との婚約が内定されていたため、すぐに取り消されましたが、一時は国際問題にまで発展しそうになったではありませんか」
その言葉に、
「ああ! そうであった。もう6年も前の話だから、すっかり忘れていたわ」
と、言ったものの、何年も交流はなかったのに、何故こんな手紙が届いたのか。
公爵は不思議に思ったが、
「誰にせよ、手を貸して頂けているのは有難い。
魔物の森の中がどれほど広いのか分からないが、人手は多いに越したことはことはないからな」
捜索の目処がつきそうな事に、公爵は軽く息をついた。
一方、カルステイン帝国、ルイジアス皇太子殿下の執務室では……
「失礼します」
ルイジアスの側近である、デューカスが、渋い顔で入ってきた。
「デューカス。なんだその顔は。不味いものでも食べたのか?」
ルイジアスが、入ってきたデューカスを見て、そう言った。
──ルイジアス・フォン・カルステイン
カルステイン帝国の次期皇帝となる男だ。
長身の鍛えられた精悍な体型。
アッシュグレーの短髪に、強い意志を秘めた黒曜石の瞳。
頭の回転も早く、文武両道に優れている。
見る者を全て魅了し、思わず膝まづきたくなるくらいのオーラを放っていた。
この全てにおいて秀でている男は、もちろん令嬢たちからも絶大な人気で、憧れの的であるが、未だに婚約者がいない。
どんなに周りが勧めても、頑なに拒否し、首を縦に振らない。
腹に据えかねた皇帝陛下に、あと半年で婚約者を決めなければ、強引に婚約者を決めると言われている。
そして少しでも、本人の気に入る令嬢が見つけられるようにと、ここ連日は令嬢たちとのお茶会やら、パーティなどの予定が組み込まれていた。
「ルイジアス殿下。本日もお茶会のはず。また、すっぽかしたのですか?」
頭が痛いというふうに、こめかみを押さえながら、デューカスが続ける。
「本日は、確か侯爵家のご令嬢とお茶会をする予定でしたよね? その予定の貴方が何故、この部屋にいるのでしょう?」
「お前、私がここに居ると分かっていたから、登城してすぐにこの部屋に来たんだろう」
まったく悪びれもなく、優雅にお茶を飲む。
「ほら、お茶ならここで充分美味しく飲める。わざわざ不味い茶を飲みに行く必要はない」
ルイジアスはそう言い、静かに聞いた。
「シュナイダー公爵には手紙を送ったか?」
ルイジアスの言葉に
「もちろんです」
と、デューカスが答える。
それを聞いたルイジアスは、ホッと息をついた。
「あとは返事を待つとして……すでに派遣する者たちの選定は済んだか?」
ルイジアスの言葉に、デューカスは渋い顔をする。
「やはり、魔物の森に入るとなると、志願者はなかなか……」
「そうか……」
ルイジアスは、逸る気持ちを抑えながらも、人手が集まるのを待つしかなかった。
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