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36.ライアン視点②
しおりを挟むやはり予想していた通りになってしまった。
前世の記憶が戻ってから、私は今度こそルーシーに幸せになってもらいたかった。
その為には、私が近づいてはならない。
そして、マリーナも近寄らせない。
しかし、マリーナはヘルツェビナ公爵家に居候している。
どうすればいい?
せめて、マリーナの目が必要以上にルーシーに向かないようにするには、マリーナの目をこちらに向けさせる必要がある。
だから、マリーナが私に擦り寄ってきても、強く払う事はしなかった。
しかし、どうやらマリーナは公爵邸で何かやらかしたようだ。
数日後には男爵家に戻され、そこからマリーナは学園に来なくなっている。
このまま学園に来ないなら来ないでいい。
これで、ルーシー嬢の安全は守られるだろうから。
そう安易に考えていたが、野外実習の時、ルーシー嬢の友人のヒルスティング侯爵令嬢が、ルーシー嬢の姿が見えなくなったと休憩場所にいる教師に言っているのが聞こえた。
それを聞いてすぐに立ち上がったロットマイン医師に、
「私も一緒に探しましょう。私には護衛騎士達も居ますので、きっと早く見つけられます」
と、名乗りをあげた。
他の先生方には待機してもらい、ロットマイン医師と共にルーシー嬢を探す。
ヒルスティング侯爵令嬢に、見失った場所を教えてもらい、みんなで森の中を探す。
そして思い出した。
そうだ、ここは前世でルーシー嬢が崖から落ちて亡くなった森だったと。
前世では、何故娼館に向かったはずの馬車が学園所有の森に入り込んで、馬が暴走して馬車が大破したのかが謎だった。
この森は学園所有で、普段は誰も使用しない。だから逆に目立たずに事故に見せかける事が出来る。
結果、その事を知っていたマリーナの仕業だと、後から分かったのだが。
そうだ。マリーナ。
もしかしたら、マリーナがここに居て、またルーシーに危険な思いをさせるかも知れない。
「この先に崖がある! 確かめに行ってみよう!」
私はそう叫んで、みんなを誘導した。
私の勘違いであってほしい。
そう願いながら。
崖近くに辿り着くと、予想通り、マリーナとルーシー嬢がそこに居た。
二人の会話は聞こえないが、マリーナの手にはナイフがあり、ルーシー嬢に危害を加えようとしているのは明白だった。
そこからロットマイン医師の動きは早かった。
あっという間にルーシー嬢の元に行き、押されそうになっていたルーシー嬢を引き寄せて助け出す。
そして、私の護衛騎士たちも、ナイフを持ったマリーナを拘束した。
「マリーナの様子はどうだ?」
王城内の尋問室の前で、見張りをしていた騎士に私は尋ねた。
「さっきまで、色々と騒いでいましたが、疲れたのかようやく静かになりました」
見張りの騎士の言葉を聞いて、軽くため息を零す。
「そうか。では、尋問に入る。開けてくれ」
そう言って、私は護衛騎士たちと共に尋問室に入った。
「ライアン様!」
私の姿を見た途端、またマリーナは大声で叫び出す。
「助けてください、ライアン様!
誤解なんです! わたくしは何も悪くないんです!
わたくしの未来を変えた、あの女が悪いんです!」
マリーナのその言葉に、ため息しか出ない。
「ナイフを持って、ルーシー嬢に迫っている所を見たんだぞ。
それでも自分は悪くないと言うのか?」
私がそう聞くと、
「ナイフで刺すつもりなんてありませんでした! だって、あの女は、崖から落ちて死ぬのが正しい死に方なんですから!」
と、マリーナは当たり前のように叫ぶ。
それを聞いていた護衛騎士達は、憤慨し怒り出す。
「なんて傲慢で残忍な考え方なんだ!」
「ライアン王子! この女は危険です!
考え方が異常だ!」
「……確かに危険だな」
私はそう言いながら、叫ぶ騎士を制し、マリーナに視線を向けながら、騎士たちに言った。
「悪いが、二人だけで話がしたいんだ。
しばらく出ていてほしい」
私がそう言うと、騎士達はギョッとして慌てて止め始める。
「ライアン様! この女は危険なのですよ!?」
「二人きりだなんて、万が一の事があれば!」
「認められません! こんな異常な女とライアン様を二人にするなんて!」
確かに、護衛騎士たちにとっては、とても容認出来ないことなのだろう。
しかし、どうしても確かめたかった。
マリーナの前世の記憶が、何処まで残っているのか……。
「大丈夫だ。相手は拘束された女だぞ?
そんな相手に、私が何かされるとでも?」
そう言うと、騎士達は怯む。
「頼む。少しの間だけでいい。どうしても内密に聞きたいことがあるのだ」
私がそう真剣に頼むと、騎士達はしぶしぶ了承してくれた。
「では、私たちはドアの外で待機しております。
何かあればすぐに大声を上げてください」
そう言って、護衛騎士達は敬礼して出ていった。
「ライアン様! きっとライアン様なら分かるでしょう!?」
そう言いながら、身を乗り出そうとしているマリーナは、本当に常軌を逸しているかのように見えた。
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