36 / 43
35.忍び寄る危機②
しおりを挟む「な、何を言って……」
気丈に振舞おうとするが、声が震えてしまう。
前世で味わった死ぬ瞬間の恐怖が、自分の意思と反して勝手に身体に反応してしまっているのだ。
「ふふ。その様子だと、やっぱりお姉様には前世の記憶が残っているのですね。
なら、覚えているでしょう? あの馬車がこの森を駆け抜けていった時の事を。
その途中で馬車から放り出されて、崖から落ちた事をね」
そう言いながら、いつの間にか私のすぐ目の前まで迫ってきていたマリーナは、私の手を掴んで、思い切り私を引っ張った。
「な、何をするの!?」
必死で抵抗しようとするが、恐怖で固まった身体は言うことを聞かず、足がまともに動かない。
「お姉様に、この先の崖を見せてあげるわ。
私が連れていってあげる」
そう言ってマリーナは、強引に私の腕を引っ張りながら、私を引きずるように崖の方に連れて行く。
どんどん森の奥に引っ張られ、それと共にあの前世で見た馬車の中からの景色が鮮明に思い出されて、恐怖から力が入らず、マリーナの手を振りほどけない。
あっという間に、私は崖の近くまで引っ張られて連れて来られた。
「何故わたくしをこんな所に?」
マリーナに必死でそう聞くと、マリーナは立ち止まって、私に振り向いた。
「何故? この世界を、本来のあるべき姿に戻すためよ?」
そう言ったマリーナは、常軌を逸しているように見えた。
「お姉様が色々と小細工をしたから、この世界が狂ってしまっているの。
だから、お姉様にあの時と同じ方法で死んでもらったら、この世界も元に戻るのではないかしら?」
「そんな事をしても、貴女はもう公爵家とは関係ない存在なのよ!?」
「いいえ、お姉様さえ居なくなれば、また公爵様は私を受け入れてくれるはず。
だって、あんなに私を可愛がってくれていたのですもの。
それに、ライアン様と結婚する為にも、私は公爵家の娘でないと駄目なの。
だからね、お姉様は邪魔なのよ」
そう言って、マリーナは隠し持っていたナイフを取り出し、じわじわと私を崖の方に追いやってくる。
「来ないで!
貴女はもう、違う人生を歩んでいるのよ!?
今更こんな事をしても、前の人生には戻れないわ!」
そう必死で叫ぶ私に、マリーナは歪んだ笑みを浮かべた。
「それならそれで構わないわ。
でもね、どうしてもお前だけが幸せに生きているのが許せないの。
だからね、ここで死んでちょうだい?」
そう言って、マリーナはナイフを持ったまま両手を前に突き出し、私を崖から突き落とそうとした。
────落ちる
そう思って目をつぶった時、急に私の身体は違う方向に引っ張られ、受け止められた。
「ルーシー! 大丈夫か!?」
その声に目を開けると、しっかりと私の身体を受け止めてくれて、心配そうにしているケイン様の姿が目に映る。
「ケイン様?」
「ああ、そうだ! ルーシー、何処か痛いところはないか!? 傷つけられてはいないか!?」
そう言って、ケイン様は私を見て確認している。
そんなケイン様を見た私は、安心してしまい、そのまま気を失ってしまった。
「ルーシー嬢!?」
ケイン様と一緒に来ていたライアン様が、私の様子を見て驚いて、声を張り上げた。
「大丈夫だ。どうやら気を失ってしまったらしい。
私はルーシーを連れて、先に戻る。
ライアン王子殿下、あとの事は任せても?」
ケイン様がそう聞くと、ライアン様は頷いて了承する。
「ええ、任せて下さい。ここからは、こちらで対処すべき問題ですから」
ライアン様の返答を聞いて、ケイン様は軽く頷き、そのまま私を連れて待機場所まで戻っていった。
「さて、マリーナ。これはどういう状況か確認させてもらおうか」
ここに駆け付けていたのは、ロットマイン医師だけではなく、ライアンとダビデ率いる側近たち、それに数名の騎士まで揃っていた。
「な、何よこれは! 何故こんな所にライアン様達や、護衛騎士まで来ているの!?」
マリーナはすでに騎士によってナイフを取り上げられ、腕を捻りあげて、動きを抑えられている。
「そのままマリーナを城まで連行しろ。
尋問は私が直々に行う」
ライアンはそう騎士に命じて、ダビデ達と共にその場を離れる。
「ま、待って! ライアン様! 誤解なんです! ライアン様、助けて下さい!」
マリーナはそう叫び続けたが、騎士によってそのまま連行された。
2,911
お気に入りに追加
4,144
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。
ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。
しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。
もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが…
そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。
“側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ”
死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。
向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。
深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは…
※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。
他サイトでも同時投稿しています。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。
自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。
彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。
そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。
大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました
As-me.com
恋愛
完結しました。
とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。
例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。
なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。
ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!
あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。
※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる