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33.マリーナ視点
しおりを挟むそれは突然だった。
学園に上がる半年前、義妹と一緒に母とお茶をしている時だ。
義妹が、母と仲良く会話しながら
「お姉様」
と私をそう呼んだ時だった。
違う。
私が誰かをそう呼ぶ立場だった。
それに、母は私だけの母だったはず。
何故あなたが私の母を“お母様”と呼んで、楽しそうに会話しているの?
それに、何故私はこんな小さな屋敷で暮らしているのだろう?
本当はもっと大きな屋敷で、たくさんの使用人もいたはず。
お義父様?
違う。
お義父様は私だけに優しくて、自分の本当の娘など気にもしてなかった。
そこから、どんどんと湯水のように違う記憶が頭の中に浮かんでくる。
そして私は思い出したのだ。
私は公爵家の娘だった。
実父が亡くなった後、母は男爵ではなく公爵と再婚し、私は公爵家の娘となったのだ。
あの頃の私は、とても幸せで、手に入らない物などなかった。
豪華なドレスに身を包み、溢れかえるくらいの宝石。
少しでも欲しい物があれば、買ってもらうか、ちょうだいと言えばいい。
そうよ。
あの女の婚約者さえ、私は手に入れたのだもの。
でも、何故また時間が戻っているのだろう?
しかも、前の記憶とは違う環境で。
ここは私の居場所じゃない。
元に戻らなきゃ!
ここに私の幸せはないわ!
そこから私は、本来いるべき場所であったヘルツェビナ公爵家を調べ始めた。
すると、明らかに前の記憶と違った事が起きている。
何故、あの女の母親が生きている?
あの女の母親が生きているから、母は公爵と再婚出来なかったんだ。
しかし、今更どうする事も出来ない。
母はすでに男爵と再婚しており、それなりに幸せそうにしているのだから。
でも、私は違う。
記憶が戻った以上、ここは私のいるべき場所ではないのだもの。
それからも前とは全く違った点が、次々と発覚した。
まず、あの女はライアン様と婚約していない。
そして、なんと今は、あの女と私が同じ歳として生まれてきている。
これは、別の人生なの?
私の思い違い?
でも、記憶は鮮明だ。
そして、実父が亡くなるまでの出来事は全て記憶の中のものと同じ。
あの女の母親が死ぬ日だったあの日から、歯車が狂っているような気がする。
他にもおかしな点を見つけた。
例えば、公爵家が人気のケーキ屋を買い取っていた事だ。
前はそんな事、していなかった。
そして、駅馬車への出資などもしていない。
案外、公爵は投資には不向きで、よく失敗していたように記憶している。
だけど、あの女がライアン様の婚約者である限り、公爵家は安泰だったのだ。
なのに、今回はちゃんとした投資が出来ており、王家の力を借りなくても潤っているようだ。
誰かの入れ知恵?
これまでの出来事で、一番美味しい思いをしているのは誰か?
そこまで考えて出た答えは一つ。
あの女だ。
全てあの女のいいように歯車が回っている。
もし、あの女も前の記憶があるのなら。
自分が死なないように、もしかしたら未来を変えたのかもしれない。
何故あの女の母親は死ななかったのか、そこが分からないけど、あの女が何か小細工をしたのなら……。
あの女が私の幸せを奪ったのではないか?
だとしたら、許せない!
私の居場所を、私の地位を、私の全ての物を取り戻してやる!
そこから私は、取り敢えず、何とか公爵家に入れるように策を講じた。
継父を拒み、実父の親戚のツテを使って何とか公爵家で住めるようにした。
あの女の動向も観察し、あの女の母親に何があったのかも調べた。
すると、あの女が動いた事によって、あの女の祖父が別の医者を連れてきて、命が助かったらしい事がわかった。
やはり、あの女には、前の人生の記憶があるのではないかという疑いが濃厚になる。
なかなかボロを出さないけど、明らかに前とは違う態度にも腹が立つ。
前の人生では、あの女の全てを奪ってやった。
本当に楽しかった。
あの女が死んだ後の記憶がまだ戻ってきてないけど、多分あの後は私がライアン様と結婚して、王妃になって、贅沢三昧の生活を送っていたはず。
今世でも、また奪ってやるわ。
そして私の居場所を取り戻すのよ。
そう考えていたのに、何故、私は公爵家を追われる事になったのだろう。
前世ではあんなに私の言う事を信じてくれていた公爵が、今世は全く信じてくれない。
ライアン様に至っても、そうだ。
ライアン様とあの女は婚約していないけど、ライアン様はあの女に執着していた。
なのに、ある日を境に、ライアン様はあの女に興味を示さなくなっている。
あの女からライアン様を奪うからこそ楽しいのに、それが今世ではあの楽しみが味わえなくなった。
だから、私とライアン様の仲を嫉妬して、私を虐めるという噂を広めたのに、結局それも、あの女のせいで駄目になってしまった。
何もかもが今世は上手くいかない。
それも全てあの女のせいよね?
もう、あの女、いらなくない?
うん、もう、いらないよね。
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