上 下
34 / 43

33.マリーナ視点

しおりを挟む
 
 それは突然だった。
 
 学園に上がる半年前、義妹と一緒に母とお茶をしている時だ。
 
 義妹が、母と仲良く会話しながら
「お姉様」
 と私をそう呼んだ時だった。
 
 
 違う。
 私が誰かをそう呼ぶ立場だった。
 
 それに、母は私だけの母だったはず。
 何故あなたが私の母を“お母様”と呼んで、楽しそうに会話しているの?
 
 それに、何故私はこんな小さな屋敷で暮らしているのだろう?
 
 本当はもっと大きな屋敷で、たくさんの使用人もいたはず。
 
 
 お義父様?
 
 違う。
 お義父様は私だけに優しくて、自分の本当の娘など気にもしてなかった。
 
 
 
 そこから、どんどんと湯水のように違う記憶が頭の中に浮かんでくる。
 
 そして私は思い出したのだ。
 
 私は公爵家の娘だった。
 
 実父が亡くなった後、母は男爵ではなく公爵と再婚し、私は公爵家の娘となったのだ。
 
 あの頃の私は、とても幸せで、手に入らない物などなかった。
 豪華なドレスに身を包み、溢れかえるくらいの宝石。
 少しでも欲しい物があれば、買ってもらうか、ちょうだいと言えばいい。
 
 そうよ。
 あの女の婚約者さえ、私は手に入れたのだもの。
 
 
 でも、何故また時間が戻っているのだろう?
 
 しかも、前の記憶とは違う環境で。
 
 
 ここは私の居場所じゃない。
 
 元に戻らなきゃ!
 
 ここに私の幸せはないわ!
 
 
 
 そこから私は、本来いるべき場所であったヘルツェビナ公爵家を調べ始めた。
 
 すると、明らかに前の記憶と違った事が起きている。
 
 
 何故、あの女の母親が生きている?
 
 
 あの女の母親が生きているから、母は公爵と再婚出来なかったんだ。
 
 しかし、今更どうする事も出来ない。
 
 母はすでに男爵と再婚しており、それなりに幸せそうにしているのだから。
 
 でも、私は違う。
 記憶が戻った以上、ここは私のいるべき場所ではないのだもの。
 
 
 それからも前とは全く違った点が、次々と発覚した。
 
 
 まず、あの女はライアン様と婚約していない。
 
 そして、なんと今は、あの女と私が同じ歳として生まれてきている。
 
 
 これは、別の人生なの?
 私の思い違い?
 
 でも、記憶は鮮明だ。
 
 そして、実父が亡くなるまでの出来事は全て記憶の中のものと同じ。
 
 
 あの女の母親が死ぬ日だったあの日から、歯車が狂っているような気がする。
 
 
 他にもおかしな点を見つけた。
 
 
 例えば、公爵家が人気のケーキ屋を買い取っていた事だ。
 前はそんな事、していなかった。
 
 そして、駅馬車への出資などもしていない。
 
 案外、公爵は投資には不向きで、よく失敗していたように記憶している。
 だけど、あの女がライアン様の婚約者である限り、公爵家は安泰だったのだ。
 
 なのに、今回はちゃんとした投資が出来ており、王家の力を借りなくても潤っているようだ。
 
 
 誰かの入れ知恵?
 
 
 これまでの出来事で、一番美味しい思いをしているのは誰か?
 
 
 そこまで考えて出た答えは一つ。
 
 
 あの女だ。
 
 
 全てあの女のいいように歯車が回っている。
 
 
 もし、あの女も前の記憶があるのなら。
 
 自分が死なないように、もしかしたら未来を変えたのかもしれない。
 
 
 何故あの女の母親は死ななかったのか、そこが分からないけど、あの女が何か小細工をしたのなら……。
 
 
 あの女が私の幸せを奪ったのではないか?
 
 
 だとしたら、許せない!
 
 私の居場所を、私の地位を、私の全ての物を取り戻してやる!
 
 
 
 そこから私は、取り敢えず、何とか公爵家に入れるように策を講じた。
 
 
 継父を拒み、実父の親戚のツテを使って何とか公爵家で住めるようにした。
 
 
 あの女の動向も観察し、あの女の母親に何があったのかも調べた。
 
 すると、あの女が動いた事によって、あの女の祖父が別の医者を連れてきて、命が助かったらしい事がわかった。
 
 
 やはり、あの女には、前の人生の記憶があるのではないかという疑いが濃厚になる。
 
 
 なかなかボロを出さないけど、明らかに前とは違う態度にも腹が立つ。
 
 
 前の人生では、あの女の全てを奪ってやった。
 
 本当に楽しかった。
 
 あの女が死んだ後の記憶がまだ戻ってきてないけど、多分あの後は私がライアン様と結婚して、王妃になって、贅沢三昧の生活を送っていたはず。
 
 
 今世でも、また奪ってやるわ。
 
 そして私の居場所を取り戻すのよ。
 
 
 
 そう考えていたのに、何故、私は公爵家を追われる事になったのだろう。
 
 前世ではあんなに私の言う事を信じてくれていた公爵が、今世は全く信じてくれない。
 
 
 ライアン様に至っても、そうだ。
 
 ライアン様とあの女は婚約していないけど、ライアン様はあの女に執着していた。
 
 なのに、ある日を境に、ライアン様はあの女に興味を示さなくなっている。
 
 あの女からライアン様を奪うからこそ楽しいのに、それが今世ではあの楽しみが味わえなくなった。
 
 だから、私とライアン様の仲を嫉妬して、私を虐めるという噂を広めたのに、結局それも、あの女のせいで駄目になってしまった。
 
 
 
 何もかもが今世は上手くいかない。
 
 
 それも全てあの女のせいよね?
 
 
 もう、あの女、いらなくない?
 
 
 うん、もう、いらないよね。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。 結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに 「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。 自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。 彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。 そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。 大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

【完結】愛されない令嬢は全てを諦めた

ツカノ
恋愛
繰り返し夢を見る。それは男爵令嬢と真実の愛を見つけた婚約者に婚約破棄された挙げ句に処刑される夢。 夢を見る度に、婚約者との顔合わせの当日に巻き戻ってしまう。 令嬢が諦めの境地に至った時、いつもとは違う展開になったのだった。 三話完結予定。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……

藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」 大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが…… ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。 「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」 エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。 エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話) 全44話で完結になります。

処理中です...