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30.逆襲①
しおりを挟む私が屋敷に着き、着替えてから、庭でお茶をしている時に、マリーナは公爵家に戻ってきた。
そして、直ぐに私の部屋に勝手に入ったようた。庭にいると、ちょうど私の部屋が上にあるので、よく部屋の声が聞こえる。
(ジェシカがちゃんと窓を開けてくれていたようね)
「ルーシーは、何処にいるの!?」
上の窓から、そんな声が聞こえてきた。
「お嬢様はすでに着替えてから、庭園でお茶をなさっています」
ジェシカがそう答える声も聞こえる。
(ジェシカったら、窓辺で立って話してるわね。よく聞こえるわ)
「お茶ですって!? このわたくしを置いて帰って恥をかかせたくせに、自分だけ優雅にお茶をしてるなんて、何様のつもりなのかしら!?」
「まずは、マリーナ様もお着替えになっては?
制服のままでございますよ」
マリーナは、公爵家に慣れてきたのか、使用人にも大分横柄な態度を取っている。
しおらしく、健気に振舞っていたのは公爵家に来た当初だけだった。
(もともとあの気質なのだから、長続きはしないと思ったけど、地を出すのが早かったわね。
まぁ、まだ両親の前では借りてきた猫のようだけど)
マリーナとジェシカの会話を聞きながら、静かにお茶をして待つ。
もうすぐここに、マリーナが憤慨しながらやって来るだろうから。
「着替えればいいんでしょ!?
あ! このドレス! 前から欲しいと思っていたのよね。今からこれに着替えるわ!」
「それはルーシーお嬢様のドレスでございます」
「そんなの知ってるわよ! でも、私が頼めばくれるはずよ? 前からずっとそうだったんだから!
さぁ、早くそれを寄越しなさい!」
そのマリーナの言葉を最後に会話が聞こえなくなった。
きっとドレスを持って自分の部屋に、着替えをしに行ったのだろう。私付きのメイドのジェシカを使って。
暫くこのままこの場所でお茶をしていると、マリーナが大きな声で私の名前を呼びながら近づいてくる。
「ルーシー! ここに居たのね!
さっきの学園での態度は何なの!?」
そう言って、私の傍に来てお茶を置いている机をバンッと両手で叩く。
「あら、マリーナ。おかえりなさい。今戻ったのね?」
「おかえりなさいじゃないわよ! あんた、あんな豪勢な馬車を独り占めするなんて、なんて心が狭いの!?
公爵家の馬車なんだから、私が乗ってもいいはずだわ!」
「独り占めだなんて……。
あれは元々、わたくし専用の馬車なのよ?
学園入学のお祝いに、祖父が辺境伯領の中でも指折りの屈強な馬を用意してくれて、それに見合った馬車を両親がわたくしの為に用意してくれた、わたくし専用の馬車なの」
「ずるいわ! わたくしも同じ年に入学したのに、そんなの用意してもらえなかった!
あなただけ、ずるいじゃない!」
「そんな事をわたくしに言われても困るわ……」
マリーナの言い分に、呆れてしまう。
「あら? ねぇ、それ、わたくしのドレスでは?」
そして、今気付いたかのように、私のドレスを着ているマリーナに、そう言った。
「あぁ、これ? ルーシーよりも似合うと思うの。これ、ちょうだいね?
これを着てライアン様に会いに行くわ」
「ライアン第一王子殿下? 何か約束があるの?」
「ふふ、あら、ヤキモチ? 残念ね、貴女は誘われてないから行けないわよ?」
「別にヤキモチなんて。第一王子殿下とは関わりがないもの。
貴女がまた公爵家に迷惑をかけないか、それが心配だから聞いているのよ?」
私がそう言うと、マリーナは憎々しげに私を見る。
「公爵家、公爵家と偉そうに。
たまたま公爵家に生まれただけのくせに。
わたくしがライアン様と結婚したら、わたくしは王子妃に、いえ、もしかしたら王妃にさえなるかもしれないのよ?
今から態度を改めた方がいいんじゃない?」
マリーナはそんな事を堂々と言い始めた。
(これって、陛下に聞かれたら、かなり不敬よね? よくもまぁ、こんなに好き放題言えるものだわ)
私はそんなマリーナに微笑んで、こう伝えた。
「では、わたくしだけでなく、皆様にもそうお伝えしたほうがよろしいのではなくて?」
私の言葉にマリーナは怪訝な顔をする。
「は? 皆様って、誰よ?」
そう質問してくるマリーナに、にっこりと微笑み、マリーナの後ろを指さす。
「後ろにいらっしゃる皆様よ?」
私のその言葉に、マリーナは勢いよく振り向いた。
そこには、学園のクラスメイトの令嬢や令息達が立っている。
みんな、蔑むような目でマリーナを見ながら。
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